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時を越えた瞬間の記録

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二度と忘れられない瞬間は時間を越えて、今でも心にあり続けます。
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2020年5月の記事一覧

時を越えた瞬間の記録【ニュルンベルク】

2017.12.24 Allemagne, Nürnberg ビール7本、スパークリングワイン1本、白ワイン1本。12月24日16時過ぎのニュルンベルク駅で、数週間ぶりに再会する仲間と合流するやいなや駅の売店で「お店が閉まる前にはやく調達しないと」「買えるだけ買い込んで」そういって慌ててお酒を買い占めた。いったい我々は何に焦っているのか、どれほど重症アルコール中毒患者なのか。はたから見ると不思議なアジア人3人組だったにちがいない。わたしは見ず知らずの土地、馴染みの顔と出会う

時を越えた瞬間の記録【コペンハーゲン】

2018.10.22 Danemark, Copenhague 虹色に輝く不思議な光の粒を眺めながら、橋を渡る。水面に反射するその色彩は、見慣れたフランスの光と異なるおとぎ話の世界。重たい雲の厚みと、ゆっくりと変わる空の調子が織り混ざった天井。今ここにいる王国にふたをするように、すっぽりと優しく包み込む。すれ違うひとたちの中にアンデルセンの姿があったとしてもおかしくないだろう。そのように思えるほど、景色自体が、物語ることへの想像を駆り立てる。もしかしたらこの光景とともに今日

時を越えた瞬間の記録【サンティアゴ・デ・コンポステラ】

2017.09.27 Espagne, Santiago de Compostela 長かったようで短かったサンティアゴ・デ・コンポステラ巡礼36日目に目撃したのは、美しい夕日が西に沈む下り坂だった。最初に歩き始めた800km手前の、フランス・ピレネー山脈の小さな集落でこの場所に到達できるか不安で怯えながら朝を迎えた日が昨日のことのように思い出される。この旅は結局一体何だったんだろう、どのように総括すれば良いのだろう。ずっと何もかもが夢を見ていた感覚だ。素敵な夢だったな、自

時を越えた瞬間の記録【ヴェクショー】

2018.10.23 Suède, Växjö 慣れた手つきで手際よく、彼はたっぷり溶かしたバターのフライパンにミンチ肉をスプーンでまるめて転がし落とす。彼女はというとダイニングのテーブルに食器を出したり、ワインを準備したりでキッチンにいない。台所でテキパキと準備を整える彼に、所在無さげなわたしはせめてでも何か手伝いたいと声をかけると「じゃあ火加減を見ておいて」とまるで子どもに話しかけるように指示が出た。「Ja!(はい!)」ごくわずかの知っているスウェーデン語を声色と音調だ

時を越えた瞬間の記録【パリ】

2019.10.25 France, Paris すべての運命は既に決められていて、そこに書かれた内容をひとはなぞるだけ。アラブの世界に「Maktub(マクトゥーブ)=書かれている」という言葉があるように、つまりは覚悟を決める前から物語は始まっていた。2015年に初めて訪れたパリ、右も左もわからない複雑な街でたまたま予約したアパートは、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラへと向かう経路、レヴィ通りのすぐそばだった。 その後もパリに訪れるたび、この通りを何度も歩いたはず

時を越えた瞬間の記録【ヴァランス】

2019.10.17 France, Valence 向かいのホームには誰一人ひとがいなかった。 直線と曲線が入り混じった建築、ヴァランス駅。近代的なこの駅を大きく見守る空は、秋のやわらかな水色をまとい、白い雲はまたふんわり、うっすらと青に溶け込むようになびいている。時折見せる日差しは黄金色に輝いて、20キロの荷物を詰め込んだスーツケースとともに駅に立ち尽くすわたしをじんわりと励ます。いま何かが動いた。ホームの先のロータリーにバスが滑らかに立ち入って、数人の乗客を吐き出し

時を越えた瞬間の記録【アヌシー】

2017.12.22 France, Annecy 「コーヒーの音楽をしっかりと聴くんだ。それが火を止める合図だよ」。 数日前にイタリアで買った、BIALETTI(ビアレッティ)の直火式エスプレッソマシン。使い方を知らないわたしに早速使ってみようと声をかけ、嬉しそうな表情をするひとがいた。学生用レジデンスの共同キッチンに移動して、直火で新品のマシンをセットするとそのひとは真剣な顔をしてこういう。耳をすますんだ、コーヒーの音楽が聞こえてくるから。それが火を止める合図だよ。や