見出し画像

洗濯物と地震と祭りと工場とバザーの夢(8月2日)

 松山に家がある。
 母と些細なことで喧嘩した。実際の間取りにはない部屋の、LDKの、窓辺の端。すねて、母が畳んでいた洗濯物をぜんぶ投げてバラして、でもいけないってわかってるから一人でたたみ直し始めて、丁寧に畳んでいるのがわかるくらい丁寧に畳んで……母もその一連を見て言葉に詰まっているようだった。
「あなたがが今お尻にしいてるやつね」と言われて、腰を浮かせ、勢いのまま座ったところを見る。なにか買ったばかりの道具を踏みつけていたようだった。道具を手に取ってみる。白く長いプラスティックの棒の先に、てこがついている。踏んだ時に少し壊れて、てこの先が折れてしまったかもしれない。反省しつつ組み立ててみると、どうやら座った姿勢で背中を丸めずに足の爪を切る装置らしい。すこし使ってみたけれど、直接切ってる感覚がなく、ちから加減もわからず、深爪しそうでとても怖かったので、とても怖いと伝えた。そうこうしているうちに洗濯物を畳み終える。その頃には気分も落ち着いて、ごめんなさいと言ってもいいかなという気になっている。母と弟は先に外に出て、僕はまだ完全に素直というわけではなく、家族が出かける間、一人で留守番する惨めを選ぼうとしている。それを父が気遣って待ってくれる。

 突然地震がきた。初めはゆっくりと、確かに揺れているとわかる頃にはかなりの揺れが長時間続いた。崩れそうなところは危ないからと言い合いながら避けて、外が安全かと出てみたけれど、父には外が危ないと言われて、見上げると屋根や壁に据え付けられた植物壁用の柵とかが倒れてきそうで、慌てて縦に2台止めてあった車の間(後方のピンクのマーチのボンネット)に滑り込むように飛び乗ると、ギリギリのタイミングで柵はこちらに向かって倒れてきた。道を挟んで向かいの古いマンションも倒れそうで危なかった。あちこちで物が倒れたり、引き裂かれて崩れたりする、うめきと叫びのような音が住宅地に響いた。弟は会社呼び出しで自分の車を飛び出させて、その直後の激化だったから、ひどく心配になった。母が戻ってきて、大丈夫だったか聞いた。僕と父は交互に、家の外壁が崩れてきた様子を説明して家を指さした。壁が崩れ、倉庫の中の古い箱(マッキントッシュの古いPCとそのソフトの箱だったが、ロゴはりんごではなく聖杯のような形の、見たことのないものだった)が剥き出しになっていた。
 揺れがおさまって、家のそばに立つ五階建てほどの学生アパートのベランダから顔を出した学生さんと「やー、大変でしたね、大丈夫でしたか」「はい、なんとかー」などと言葉をかわしつつ、気分はもう外出どころではなかった。早くこの地震について詳しいことが知りたかった。部屋に戻り、かろうじてつくテレビをつけた。スマホのアプリを見ると震源は北陸だという。異常震域というやつで、震源から離れたところで揺れが大きくなったようだ。

 徳島某所の交差点? 四隅に、木調でショウウインドウの目立つお洒落な店が建造中だった。四隅とも喫茶店になるらしい。そのうち一軒は宇部のブランドで、愛郷心もくすぐられる。弟と、喫茶店地獄になればいいなぁと言い合う。他には、古着屋さん、ビデオ屋さん、本屋さん木のおもちゃの店、カレー屋さん……と想像を膨らませていくと、通りは急速に様変わりし、石畳の街道へと姿を変える。
 街道の地区長らしい、メガネに白髪混じりの短髪の男性が話しかけてくる。今日は祭りをしているらしい。山の麓の門前町と本宮、険しい神山のてっぺんにある奥宮で同時の祀りをするそう。
 ふと、山の間に、鯨の鳴くような音がこだました。僕ともう一人(それはもはや弟ではなく、かといって誰かに定まってはいない)は、勢いのまま奥宮へ駆け上がらんと階段を登っていった。

ここから先は

1,151字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?