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育休1カ月。記者27歳、新米パパは「想像を超えて力強い生きもの」にびっくり

5月中旬に第1子となる長女が生まれました。里帰り出産の妻が自宅に戻った6月中旬から、記者(27)が取った育休は1カ月。初めてどっぷり接した赤ちゃんは、小さいのに想像を超えて力強い生き物でした。ちょっとは距離を縮められた気がする新米パパの日々を報告します。(下高充生)

1週目 衝撃の力強さ

 早朝、広島市内の自宅マンション。「んー」「ぐー」というくぐもった音がする。昼寝するおじさんが出すような変な声。いや、何者かが部屋に侵入しのか。びっくりして飛び起きた。振り向くと、前日に初めて寝かしつけた長女がベットの上でうなっている。なんだ、この声は。もしや、苦しいのか。慌ててインターネットで理由を調べると、排便の練習など諸説あるよう。よくあることのようでひと安心した。


 朝起きたら、長女の体の向きが90度回転していて、慌てたこともあった。おそらく足で布団を蹴って動いたのだろう。ベッドの柵の隙間に入っては大変なので、急いでベッドガードを購入した。

 生まれる前に読んだ育児本では、寝返りは半年くらいからと書いてあり、しばらくは動かないものだと思っていた。静かに寝ているイメージだった。しかし、赤ちゃんは想像より力強い。そして、うるさい。小さいけれど、ヒトだ。頑張って生きている不思議な生き物とあらためて出会ったような感じがした。

 戸惑いと驚きのスタートを切った頃は、育休に入る前に出していた原稿について上司から問い合わせが相次いだ。通常の休日でも出していた原稿が使われたら確認したり、大きな出来事があれば呼び出されたりする仕事の性質上、問い合わせには慣れている。スパッと切り替わらない面があるのは仕方ない。とはいえ妻の視線は痛い。「育休じゃないの?」と言われている気がして…。引き継ぎにくい業務があると、育休のハードルになるのかもしれない。

2週目 騒音注意

 早くも気の緩みが。何の気なしにくしゃみをした瞬間、寝ていた長女が音にびっくりして起きる。妻に「小さくする練習をしといてと言ったでしょ」と怒られた。慌てて「くしゃみ 音を小さくする方法」でネットを検索。しかし、今のところ有効な策を打てていない。

 人並みの騒音しか出していないはずなのに、赤ちゃんはすぐびっくりする。逆に、どうやら私は音に鈍いのだろうか。

 夜中、空腹やおむつ替えを訴え、ちょっと泣いたりうなったりする長女に気付かず、寝続けてしまう。起きていたことも知らず、朝、無邪気に「今日はよく寝てたね」と妻に言うと、「よく寝てたのはあんたの方」と一言。やけによく寝たと思ったときは、長女の睡眠や授乳の時間を記録している育児アプリで夜中の状況を確認し、それから発言した方が良さそうだ。

 その後も、ちょっと待てばまた寝るだろうと願っているうちにこちらが寝たり、この泣き声は気のせいだという願望を抱きながら聞こえなかった振りをしたり。最初はたたき起こされたが、妻も無駄だと思うようになったようで。まあ、授乳は妻しかできないし…。深夜のおむつ替えは、妻に相談もしないまま半ば勝手に諦めた。ここは役割分担だ。昼間の育児と家事に全力を傾けようと決心した。

3週目 抱っこひもと格闘

 そんなこんなで食事の準備や洗濯、長女の入浴と気合を入れて励む。しかし、食器を洗うと、がちゃがちゃとうるさく娘を起こす。揚げ句の果てに茶碗を割る。相変わらず、騒音製造機の私である。

 さらに、抱っこひもにたじろぐ。外出しようと思うが、付け方や体の入れ方がなかなかうまくいかない。長女のまだ座っていない首や腰を支えつつ、足をうまくひもに通すのが難しい。今さらだが、家に赤ちゃんが来る前に練習しておけば良かった。


 この頃、新型コロナウイルスの感染者の増加が目立ち始める。医療担当の私は伝える側だったのに、同僚の記事を読んで感染状況を知る日々。自分で育休を希望しておいておかしな話だが、ちょっと寂しい。新聞をつくる「中の人」から「外の人」に変わってしまった感覚がある。自分がいなくても会社が回ることくらいは分かっていたはずなのに、あらためて突き付けられた感じだ。

 育休が1週間だったらこんな感覚はなかったと思う。半面、ここまで育児に向き合えなかっただろう。逆に半年取っていたら仕事を考えて焦る気持ちが強くなったかもしれない。その分、子育てスキルは上げられたような気もするけれど。とはいえ、女性の場合は産休も含めてもっと長期間職場から離れる人も多い。私も妻が1年ほど休むため、期間を比較的自由に選択できた。複雑だ。

4週目 うんち(臭い)に慣れる

 長女が手を口に持っていくようになった。最初は直そうと格闘したが、育児書やインターネットを調べると触感を学ぶ過程と知り、静観することに。風呂で泡の付いた手を口に持っていきそうになるのがいつもヒヤヒヤするが、ちょっとした成長が育児の喜びだ。

 この時期になると、私も多少は親らしくなった気がする。おむつ替えの最中に長女がうんちをした時、私の足と白いカーペットが汚れた。でも、私は思った。体とカーペットで受け止めたおかげで、賃貸マンションの壁や床が汚れなくてよかった!

 うんちは思ったより臭い。大人になって、人糞を見たことはなかったし、最初は臭いにやられたが次第に慣れた。人形のようなイメージだった赤ちゃんが、リアルな人間として立体的に迫ってくる。
 成長といえば妻が里帰り中の暴飲暴食で成長した私のおなかも、育休中の規則正しい生活でへこんだ。3㌔の減量に成功。元に戻っただけだが、うれしい。


育休を終えて あの笑顔はプライスレス

 厚生労働省の調査(2020年度)によると、男性の育休取得率は12・65%。増加しつつあるが、まだまだ少ないのが実態だ。育休中の平日の昼間、長女を連れて買い物に行く時も、赤ちゃんを抱いている人のほとんどが女性だった。恥ずかしい話、育休に入る前はそんな光景を気に留めたこともなかった。

 いろいろな事情があるはずだ。職場が忙しくてまとまった休みが取れない人もいれば、収入が減るのが問題という人もいると思う。私が強いて心掛けたことは、半年前には育休を取りたいと上司に伝えたことくらい。その後の手続きは、特段煩雑だと思うこともなかった。社内で珍しがられることはあっても、多くの人が「頑張って」と送り出してくれた。男性の育休取得率を見ると、恵まれた経験だったのかもしれない。

 だから、育休を取ろうかどうか悩む人は多いと思う。休めたとしても、私の経験から言うと、育児も家事もうまくいかないことが多いし、寝かし付けても寝かし付けてもぎゃんぎゃん泣かれる夜はいい加減にしてくれと腹が立つ。ベットに寝かせた途端に泣くと、背中に何かのスイッチがあるんじゃないかとうなだれる。

 それでもちょっとした成長を日々感じられる期間は、仕事では得がたい充実感がある。何より、あんなに優しい笑顔を毎日のように見せてくれる人はいない(少なくとも私には)。育休取りたいと思う人には、そっと背中を押したい。


 と、ここまで育児に熱心な父親っぽく書いてきたが、当然育児はこの後も続く。育休明けの方が実は大変と聞いていたが、仕事に復帰してから長女が起きている時間に帰った日はほぼなく、大変というかもはや仕事の日は戦力になっていない。どう両立させるのか、まだまだ勉強が続く。