見出し画像

ネット上の誹謗中傷。被害に遭ったらどうすれば?

 インターネット上での誹謗(ひぼう)中傷が止まりません。匿名の無責任な投稿に苦しむ人が後を絶たない半面、書き込んだ人物を特定して責任を追及したり、投稿を削除したりするのは容易でなく、時間も費用もかかります。もし被害に遭ったら、私たちはどうすればいいのでしょう。(田中美千子)

削除依頼と投稿者の特定

 電子掲示板、会員制交流サイト(SNS)などの多くは定型フォームを設け、特定の書き込みの削除依頼を受け付けています。ただ個人の依頼に対し、早急に動いてくれる事業者ばかりではありません
 それは警察に寄せられる相談件数の多さからも分かります。広島県警によると、ネット上の誹謗中傷や名誉毀損(きそん)、脅迫の被害相談は、広島県内で年500件前後も寄せられています。

替/被害相談グラフ

 警察はサイト運営業者とメールや書類のやりとりを重ねるなどし、投稿者の特定に取り組んでいますが、越えるべきハードルは多いようです。例えば、IPアドレスなどの通信記録の保存期間は、業者の判断に委ねられています。大手でも3カ月ほど。時間がたてば、足跡をたどるのは難しくなります。
 また相手が海外の業者であれば、手続きにはさらに時間が要ります。そもそも捜査協力に応じてくれない場合もあるといいます。

投稿者の情報を得るための法的手続き

 被害者が損害賠償訴訟などを起こすため、投稿者の情報開示を法的に求めることもできます。今は二つの手続きが必要です。

 ①サイトの運営業者に、ネット上の住所に当たるIPアドレスなどの開示を請求する。
 ②ネット接続業者(プロバイダー)に、そのIPアドレスを使った人物の名前や住所の開示を請求する。

 1年かけても投稿者を特定できない場合もあり、泣き寝入りする人が多いことが問題視されてきました。昨年5月、ネット上で誹謗中傷された後にプロレスラー木村花さん(当時22歳)が死去した後、見直しの議論は一気に加速しました。
 そして、2022年中に改正プロバイダー責任制限法が施行されることになりました。今後は被害者の申し立てを受け、裁判所が情報開示の必要性を判断。サイトの運営業者とプロバイダーへ同時に命令を出します。つまり、手続きが1回に簡素化されるのです。

画像2

画像3


 また刑法改正の議論も進んでいます。侮辱罪に懲役刑を導入し、公訴時効も1年から3年に延ばす案が取り沙汰され、中傷の抑止につながることが期待されています。


より強い規制をかけられないのか

 では、投稿者にとどまらず、サイト運営業者にも問題ある投稿を削除するよう義務付けるなど、より強い規制をかけることができないのでしょうか。


 ネット問題に詳しい広島弁護士会の兒玉(こだま)浩生弁護士に聞いてみると、これは難しそうです。兒玉弁護士は「誰もが公正に議論し、自分の意見を世界に発信できるインターネットは、20世紀にはなかった画期的な場所。言論を萎縮させないため、表現の自由が保障されることも重要です」と話します。
 また業者側にとって、書き込みが権利侵害に当たるかどうかを法的に見極めるのはとても難しい、とも。「判断が困難な上、件数が膨大で、業者には大きな負担になります。また依頼があるつど削除すれば当然、利用者は離れていき、サービスが成り立たなくなるケースも出てくるでしょう」


 一方、兒玉弁護士は言論の自由とともに個人の名誉をいかに守るか、「バランスをとることが大事」と強調することも忘れませんでした。「ネットは人を傷つける恐れのあるツール。使う以上、発信の仕方を考えないといけない」と指摘。「匿名だからばれない、と思うのも間違い。手段を駆使すれば、皆さんが想像する以上に投稿者を特定できますよ」と警鐘を鳴らしています。

どこに相談すれば?

 インターネットで誹謗中傷の被害を受けてしまったら、どうしたらいいのでしょう。警察に訴えたり、裁判を起こしたりする以外にも方法がありそうです。

《主な相談先》
セーファーインターネット協会「誹謗中傷ホットライン」
■法務省「みんなの人権110番」
☎0570-003-110(平日午前8時30分~午後5時15分)
法務省「インターネット人権相談」 
総務省「違法・有害情報相談センター」


 ネット関連企業が加盟するセーファーインターネット協会(東京)は昨年6月、「誹謗中傷ホットライン」を開設しました。無料相談を受け付け、明らかに誹謗中傷に当たる投稿があれば、被害者に代わってサイト運営業者に削除を要請しています。実際、開設から1年間で1436件の投稿を削除させました。
 法務省は「みんなの人権110番」「インターネット人権相談」を設け、電話やネット相談に応じています。地域の法務局が救済に動く場合もあります。「人権擁護上、見過ごせない」などと判断すれば、被害者の代わりに削除依頼を行っているようです。
 総務省の「違法・有害情報相談センター」も、ウェブ相談を受け付けています。

グラフィック・大友勇人