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カープ選手たちの「素顔」、ファンに届ける  球団オフィシャルカメラマンの西小野さん(21) 

 広島東洋カープには、選手や球場のスタンド風景を撮影するオフィシャルカメラマンがいます。入社3年目の西小野涼香さん(21)もその一人。選手の間近で切り取った「素顔」のショットが、ファンに人気です。赤ヘル軍団の魅力を発信するためのマイルールを聞きました。(聞き手・栾暁雨、写真・大川万優)

西小野さんってこんな人 
 広島市安芸区生まれ。県立広島商業高では写真部の活動に夢中だった。2020年にカープのカメラマンに。同年に入団した選手には、森下暢仁投手や玉村昇悟投手たちがいる。

チームの皆さんとはどのように距離を縮めていますか。

 若手選手たちとは年が近いこともあって、気楽に話しやすいです。「どうやったら打てるん?」と聞かれて、「バット振ればいいんよ」などと笑い合って。場が和むと柔らかい、いい表情が撮れるんですよ。ベテランの選手の皆さんも輪に入りやすいように声を掛けてくれる。本当にありがたいです。

 試合中に見ることのできない選手たちの表情を届けたくて、今季から球団ホームページで「フォトギャラリー」のコーナーを始めました。練習中の真剣なまなざしやチームメートとじゃれあう姿…。人柄と魅力を引き出すため密着しています。

距離が近いからこその難しさもありそうです。

 そうですね。撮影する時は感情移入をし過ぎないようにしています。朝早くから練習し、試合後も素振りを欠かさない選手たちの努力を見ていると思い入れも深くなります。でも、試合に勝敗は付きもの。負けたときや結果が出なかった時もフラットでいることを心掛けないと、沈んだ空気に飲まれてシャッターが押せなくなってしまう。

 選手の気持ちを考えると、カメラを向けたくない時もあります。でも勝っても負けても、その瞬間を撮るのが私の仕事。その上で状況を把握し、今は撮影をやめておこうと判断すればサッと引く。シャッターチャンスを逃しても、長期的な信頼関係を築くためには必要です。

写真が苦手な選手もいますか?

 はい。カメラの気配を感じると、死角に入って隠れてしまう選手もいます。必死に食らいつくんですが、なかなかつかまえられません。私も撮られるのが苦手なので気持ちは分かります。

 試合前や試合中は、選手が集中していてカメラがストレスになることもある。気配を消してその場に溶け込むことを意識しています。邪魔にならないようフラッシュは使わず、陰影のある写真に仕上げます。

いい写真が撮れるとうれしいのでしょうね。

 一番のやりがいは、私の写真が誰かの大切な一枚になること。印象に残っているのは、本拠地開幕戦でサヨナラ打を放った西川龍馬選手がバットをうれしそうに磨く写真を見たファンの方に「こんなかわいい顔するんですねー。初めて見ました」と喜ばれたこと。最近は選手の家族も「写真の更新が楽しみ」と応援してくれて、励みになります。

球団に入ったのは野球が好きだったからですか。

 実は野球に詳しくなくて。今もルールを完全には理解していないのですが、スタッフやカメラマンの先輩たちが「分からないなりの視点で撮っても面白いんじゃない?」と背中を押してくれます。

 写真好きな祖父の影響で小さい頃からカメラにはよく触っていました。シャッター音や、ずっしりした機械感が好きで。高校時代は勉強より写真部の活動に夢中でした。家のお風呂に絵の具を垂らしたり、花を散らしたり。自分でテーマを決めて毎週作品を発表していました。

 部活動の一環で撮り始めたのが高校野球です。広商は野球部が強いので。泥だらけで白球を追い、ドラマチックな滑り込みをする球児を見ているうち、野球って投げて打つだけじゃない、奥深いなーと気付きました。顧問の先生の勧めもあり、カメラマンを募集していたカープに就職しました。

普段は1人の時間が好きだそうですね。

 球場では基本、個人行動ですがプライベートも一人が落ち着くんです。趣味は夜の散歩。2時間くらい歩いて、ずっと考え事をしています。次のフォトギャラリーの構図や、友人が送ってくれた写真を見て「何でこの被写体を選んだんだろう」とか。周りからは「ぼーっとしてる」と言われることも多いんですが、意外にいろいろ考えてるんですよ。散歩は頭を整理して気持ちを切り替えるリラックスタイムです。

  最近は料理にもハマっています。作っている間は「無」になれるからでしょうね。考えるのは好きだけど、それだけだと気持ちが休まらないのでバランスを取ってる感じですね。試合がない日は午後6時過ぎには帰宅して自炊します。ナイターだと夜11時ごろまで撮影することもあるので、早く帰れる日は貴重。今だと夏野菜の炊き込みご飯やスープを作ります。枝豆をゆでてビールを飲みながら「私も結構おいしくできるじゃん」と1人で盛り上がっています。

今日の青いネイル、とてもすてきです。

 選手たちには「赤じゃないのかよ!」と突っ込まれるんですが、青が好きなんです。赤いユニホームにも映えますし。撮影しているとシャッターを押す手元がよく見えるんです。いつも目に入るところがかわいいと気分が上がる。単純なんですが、嫌なことがあっても爪を見るだけで元気になれるから不思議です。

 月1回ネイルサロンに行くのが楽しみで、好きなデザインをインスタで探してリクエストします。時にはコーチから「この不良娘が」とイジられますが、それもコミュニケーションの一つと受け止めています。

 ファンの方とも近い距離にいます。2台のカメラを手にスタンドを歩くと「私たちも撮ってください」「いつもホームページ見てます」と声をかけてもらえる。うれしくて、ついつい撮り過ぎちゃいます。

 「フォトギャラリー」のコーナーが始まる前、松田元オーナーから「大統領のカメラマン」という映画を薦められました。「僕らはカメラを持った歴史家」という主人公の一言がすごく刺さった。オーナーから「君の仕事も同じ。試合は記録写真で、君が撮るのは誰かの記憶に残る写真だ」と言われて背筋が伸びました。私にしか撮れない一瞬にピントを合わせ、記憶に残る一枚を目指したいです。