4/5(水)ハチドリ舎とのコラボ企画 第4回「オレ流リノベーション」
2023年1月からはじまった「空き家」をテーマとする「ハチドリ舎」と「みんなでつくる中国山地」のコラボレーション企画。今回は、会員の吉田英文が第4回目の開催レポートをお届けいたします。
▼第3回開催レポートはこちら
今回のゲストは、明木一悦(めいき かずよし)さん。中国山地に複数の拠点をもち、各地で空き家をリノベーションしているという凄腕の方。これは『みんなでつくる中国山地』004号にも登場いただきたい。そこで会の冒頭、森田事務局長が取材のアポを取るという、行き当たりバッチリなスタート。明木さんも公開でお願いされたら、断れませんよね(笑)。快諾ありがとうございます。004号の記事も楽しみです。
今回、明木さんのトークをそのまま書き起こしてまとめようとも思いましたが、それだと当日参加者の利点も減るかもしれない。004号にも楽しみを残しておきたい。そういった打算も込みで、今回はあえて吉田の「オレ流」まとめでレポートしていきます。
1 家だけじゃない。車も船もDIY。
ハチドリ舎さんのイベントページに掲載されている明木さんのプロフィールは、以下の通り。
只者ではないことは、すぐに伝わってきます。最初にDIYで話題にされたのは「家」ではなく「車」。フォルクスワーゲンの車が好きで、エンジンが故障しているような古いものを安く買い、自身で修理していたとのこと。「格安で楽しみたいなら自分で技術を持つべし」という明木さんのマインドは、当然、空き家リノベーションにも発揮されています。中学時代から船をドラム缶などで自作して川で試行錯誤していたというから、このマインドは幼少期から培われたものと感じます。
個人的には、「10万円で購入した車を修理して乗っていたら、最後は40万円で売却できた」という話が印象に残りました。というのも、アメリカの男性が日曜大工を好んでするのは、ただ単にDIY好きというだけでなく、住宅の価値を下げないように、場合によっては購入時よりも高い値段で売ることができるようにDIYに精を出しているという話を思い出したからです。アメリカは転職も引越しも多い社会。中古住宅の流通も活発で、古い家だからといって日本ほど価値の急落もない。自身で手入れして価値を高める明木さんのマインドは、これからの日本の空き家問題にも重要な視点を与えてくれているように感じます。
2 海から木がとれる。
私が住む富山県で「海から木がとれる」というのは、皮肉を込めた言葉でもあります。森林に恵まれている富山県ですが、住宅に使われる木材は安い外国産材ばかり。地元の木材を利用する比率は他県と比べても相当に低いと指摘されています。持ち家率の高さは全国屈指で、若くても新築で家を建てようとします。そうすると安価な輸入木材に頼りがちになります。特にロシアから木材が船で富山湾へ運ばれてくることもあり、木は山ではく「海からとれる」と言われたりもしました。
明木さんの話は、そのようなお話とは全く無縁で、本当に海岸に漂着した木材を活用していらっしゃいます。かどの取れた流木だけでなく、ツーバイフォーの建材を拾うこともあるとか。そのほかにも、地元の方との信頼関係で木材を安く譲り受けたり。DIYというと、スキルの習得や道具の貸し借りももちろん重要ですが、建材=マテリアルをどうやって調達するか、という点はあまり語られません。明木さんは加工のスキルだけでなくマテリアル調達も「凄腕」です。
3 お金で解決しない。
DIYに関する高いスキルを持つ明木さん。高校は電気科に通っていたので電気工事もでき、水回りの工事もある程度は自身でできてしまうと言います。DIYで使う道具も、様々なものをお持ちとか。自身で持っていないものも、貸してくれる知り合いが地域にいれば拝借する。おそらく地域に関するトランザクティブメモリー(誰が何を知っているのかの知識)が高く、うまく人に頼り、頼られながらDIYを進めておられる姿が伝わってきます。
そして明木さんの取り組みが清々しいのは、お金で解決するという資本主義的なマインドから距離をとっていること。お金をかければ簡単かもしれないけど、いかにお金で解決せずに楽しめるか。そのような雰囲気があります。
もちろん一人でなんでも解決は難しいので、地域のためになる事業には寄付を募ったり、滞在場所や食事を用意する代わりに家の改修を手伝うWorkawayの取り組みもされているようです。自分の楽しみでありながら、地域への貢献にもなる。まさに最近耳にするようなったCSV(Creating Shared Value 共通価値の創造)の考え方と近いと感じます。
4 10年ごとに職が変わる。
バイタリティあふれる明木さん。気になってライフヒストリーをお聞きすると、なんと10年ごとに職業を変えているとのこと。20代はアメリカで通信に関わる仕事、30代は日本へ戻り自動車関連の仕事、40代は議員となり、同時に学びを深めるために大学院へ。その後、震災復興や多文化共生の取り組みに力をいれ、現在は市役所の会計年度任用職員として働きながらNPOの活動も。
もはや建物のリノベーションの話に止まらず「人生のリノベーション」とでも言えるようなスケールの大きい話に。空き家のリノベーションというと、それ自体に注目しがちですが、明木さんのお話は、もっと根底にある人生観が大切であるということを物語っています。
後半の質問コーナーで「今後の展望や野望は?」と尋ねられると「野望はない。ただ、建築確認のいらないような小さな小屋が街にたくさんあると良い。小屋のある街づくり、かな。」とのご回答。明木さんの考える10年後の未来。とてもワクワクします。
5 広島の多様性を尊重する精神風土。
明木さんによる最後のお話は「多様性の尊重」について。
ここで、またまた富山県の話を差し込みます。江戸時代後半は食糧増産も頭打ちとなり、飢饉も多発して全国的には人口が減少しました。日本列島が人口減少に直面したのは過去に4回ほどあり、3回目が江戸時代後期、4回目が現代です。江戸時代後期も人口減少により農村部が荒廃し、人口増のために子供の数に応じてお金や米を支給する「赤子養育仕法」という、今の子ども手当に近い政策が行われていたようです(岩波書店『世界』2021年8月号、特集「サピエンス減少」)。二宮尊徳(金次郎)などが農村再生で活躍したのも、この時期です。
そのような中、広島(安芸)と富山(越中)では人口が増加傾向にあったと言われます。理由は両地域ともに浄土真宗の信仰が篤いこと。飢饉の多発する時代、子供が生まれても「間引き」して人口抑制している地域が多い中、殺生禁断の考えから出生数が多く、過剰な人口は明治以降に移民となり北海道や海外へ渡りました。北海道に北広島市があるのも、北海道へ広島の人が多く移住した地域だからです。
明木さんのお話に戻すと、歴史的なこともあり安芸高田には海外に親戚がいるという人も多く、多文化共生の意識を持っている人の比率も高いというお話でした。冒頭でも、SMAPの「世界に一つだけの花」の歌詞を使いながら、それぞれの個性を尊重しあえる社会を理想とされているとも語っておられました。明木さんの「オレ流」という言葉の背景には、互いを尊重しながら自己実現を目指す崇高な理念があると感じます。
さてさて、吉田の「オレ流」まとめは、いかがだったでしょうか。読み返してみると、明木さんの具体的な空き家リノベーションについては書かれていませんね(笑)。お話を聞いていると、背景となる人生観につい心を奪われてしまいました。
明木さんの取り組んでおられる空き家リノベーションの具体例は、004号に乞うご期待。(森田事務局長、よろしくお願いします!)
<次回のテーマ・ゲスト>
次回、第5回のテーマは「まちの “隙間”・空き家の使いこなし方」。ゲストは福山市立大学専任講師の大谷悠さん。
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