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ハチドリ舎とのコラボ企画③ 〜始動!空き家問題の解決に動く庄原の不動産屋さん〜

2023年1月からはじまった「空き家」をテーマとする「ハチドリ舎」と「みんなでつくる中国山地」のコラボレーション企画。今回は、会員の中村健太郎が第3回目の開催レポートをお届けいたします。

第1回開催レポートはこちら
第2回開催レポートは
こちら

今回のゲストは、広島県庄原市口和町で空き家問題の解決に動く『ほしぞら不動産』を起業した松本晋太さん。中山間地域での空き家状況について、実際の経験を交えながらお話いただきました。


《目次》
1.移住した地域で不動産屋を始めるまで
2.データで見る空き家の現状
3.ナゼ不動産屋は田舎の物件を扱わないのか
4.空き家解消に取り組む現場のハナシ  
5.そもそも空き家問題の解決ってナニ?
6.ほしぞら不動産でやっていること
7.移住してきた仲間たち
8.フリートーク♪


1. 移住した地域で不動産屋を始めるまで

もともとは広島県旧豊田郡安芸津町の出身で、東京の大学に進学し、千葉県の不動産屋へ就職しました。
少し変わった不動産屋で「その地域に住みたいと思ってもらわないと、不動産屋をやっていけないでしょ」というポリシーの元、仕事の一環として熱心にボランティアに取り組んだ経験は今にも生きています。
その後東日本大震災を経験し、田舎に暮らしたいという思いが強くなり、奥さんと広島県各地を巡って自分たちにフィットする地域を探して回りました。

そして庄原市口和町への移住を決め、地元の方に空き家を紹介してもらうことに。写真のように、家の周りには葛のツタが巻きついていました。

家の中はそれほど傷んでいませんでしたが、荷物はたくさん残っていました。
自分たちで家を直しゴミも片付けることにして、現在は賃貸で住んでいます。

そして移住に協力してくれた地域へ恩返しをしたいと思い、昨年7月に宅地建物取引業の『ほしぞら不動産』を立ち上げました。


2.データで見る空き家の現状

ではまず、日本における空き家の状況から見ていきましょう。

【総務省統計局 住宅・土地統計調査2018年】
◎空き家軒数 848.9万戸 
 ※住宅全体(6240.7万戸)の13.6%
◎その他の空き家 455.5万戸(54%)
 ※二次的住宅(別荘など)、賃貸・売却用を除いた住宅

空き家軒数の848.9万戸は住所登録の無い軒数で、別荘や賃貸・売却用を除く実質的な空き家は455.5万戸となっています。

広島県庄原市の場合
【総務省統計局 住宅・土地統計調査2018年】
世帯数14,220世帯 住宅戸数:18,830戸 空き家:4,750戸 うちその他3,260戸(71%)

その他の空き家が3,260軒と、空き家全体の71%を占めています。
つまり全国平均と比較して、行くあての無い空き家の割合が多いのが特徴です。

さらに細かく見ていくと、私の暮らす庄原市口和町の空き家では
【庄原市空き家実態調査 2016年】
口和町 空き家:141戸(内訳 居住可能:16戸 一部要改修:37戸 居住不能:87戸)
実際に使える空き家は16戸しかありません。


3.ナゼ不動産屋は田舎の物件を扱わないのか

大きな要因として、仲介手数料に対して定められている上限が関係しています。

●売買価格200万円までは「5%+消費税」
※例えば100万円だと5万円+消費税。売主・買主両方の場合には、10万円+消費税になる
●売買価格400万円以下は「4%+2万円+消費税」
●売買価格400万円以上は「3%+6万円+消費税」

不動産屋の仕事は、その物件が1億円でも100万円でも、重要事項説明書・契約書の作成等の業務内容は変わらないので、金額の高い方を扱いたいと思う気持ちは当然かもしれません。

そして何より「田舎の物件は手間と時間がかかる」
街の物件は造成された宅地にインフラが整い、安心して取引ができる物件が多いのに対し、田舎の物件は、相続の手続きが済んでいないことや、代が変わって土地の境界が分からないといった問題が生じます。

2018年に「空家等の売買又は交換の媒介における特例」が施行され、売買価格が400万円以下・現地調査等の費用がかかる物件については、売主側からは最低でも「18万円+消費税」を上限として報酬を受けることができるようになりましたが、田舎には案件数が少ないので、それだけでは不動産屋が入って来れないのが現状です。

不動産屋が仲介をしない個人間取引もよく見受けられます。
不動産屋の重要な仕事の一つがトラブルの回避ですが、個人間取引では売主・買主・仲介者それぞれにリスクがあります。

権利関係に問題が無いか、敷地の接道義務を満たしているか等、一つ一つ確認しておかないと、後々になってトラブルの原因になります。いったん自分の名義になった家や土地には責任が生まれ、一度買ったものがすぐ売れるとは限りません。

そうした現状を見てきて、田舎の不動産取引を円滑にすることで、地域の活性化に繋げられないかという思いで事業を始めました。


4.空き家解消に取り組む現場のハナシ 

今現場で何が起きているのか、私の住む庄原市口和町を例に考えていきましょう。

●田舎に住みたい人から問い合わせがあっても、紹介できる空き家は少ない。
空き家バンクには、実際には住むのが難しい家も載っています。
移住希望者が思い描く、こういう暮らしをしたい、こういう処が良いなというイメージに合う家はなかなか見つからないもの。そして立地の良い住みたくなるような家は、既に人が住んでいる場合が多いです。


●地域によって受け入れの雰囲気に差がある
私たち家族の家を紹介してくれたのが、庄原市口和町の自治振興区(自治会の連合のような組織)でした。
合併前の町時代から移住者を受け入れていて、20年前に移り住んだ先輩もいて、移住が当たり前という雰囲気。

その一方で、移住者を快く思わない地域もあるので、その家や土地へ移住するのじゃなくて、地域の一員になりにいくことが大事です。


●すぐに住める状態の家が少ない
不動産屋や空き家バンクに相談が持ちかけられるタイミングが、住まなくなって年数が経過してるパターンが多いです。
そうなると家の中は傷み、荷物は満載。最悪の場合、お布団から出た感じのまま残っている所も。


●今住んでいる方へのアプローチが大切
家族が誰も住まなくなった時に、次の人に気持ち良く引き継いでもらえるように、断捨離や相続手続きなど、空き家になる前から意識することを勧めています。
ご本人やお子さん達にとって、将来の重荷にならないようにしたいです。


●空き家になってからの選択肢は5つしかない
① 家族で使う
② 売る
③ 貸す
④ タダでいいから譲る
⑤ 解体する


●お墓・仏壇・神棚をどうするか
ここで引っかかる人は多いが、意外と大丈夫。
お墓仕舞いをしたり、お仏壇は業者に引き取ってもらって仏様だけ一緒にお引っ越ししたりできます。


●権利関係は大丈夫か
相続・抵当権・隣接の関係がどうなっているか確認が必要。特に個人間で交わされた抵当権の場合、古いと「米二俵」みたいな場合もあって、外すのに余計な弁護士費用がかかったりします。

と、暗い話題が続きましたが、空き家問題が社会の共通認識になって、少しずつ状況は変化してきています。


●関連する法律・制度
2015年に「空き家対策特別措置法」が施行され、危険な場合は市町村が空き家を解体でき、持ち主に費用を請求できるようになりました。ほったらかしはいけないという意識が生まれやすくなります。
そして、2024年4月から相続登記が義務化されます。相続して3年以内に申請しないと10万円の罰金が科されるようになります。 
また、相続した土地を国に帰属させることも可能になる「相続土地国庫帰属制度」も始まります(諸条件有り)。


5.そもそも空き家問題の解決ってナニ?

空き家増加の原因としては、田舎から都会へ人が流出したことや、親と同居しなくなった、経済指標になるほど新築信仰が進んだことなど考えられます。
そして空き家の何が問題かといえば、建物崩壊などの物理的な危険性だけではなく、人がいなくなることで、地域コミュニティの維持が難しくなってくること。
空き家自体より、こちらの方が大きな問題ではないかと思います。

自治会の役をやる人が少なくなったり、田舎だけじゃなく町にある団地や古い分譲マンションでも同じことが起こっています。
では、どういう状態になれば、空き家問題が解決したと言えるのでしょうか?

6.ほしぞら不動産でやっていること

空き家が少々あっても地域が元気ならいいのではないか?
空き家があるのは仕方ないとして、ずっと残したい地域・残さなきゃいけない事がある。食料・環境保全・文化の多様性など、これまで受け継がれているものが大切で、中山間地域のコミュニティの維持は日本全体にとっても重要です。

こういった想いがあり『ほしぞら不動産』では「地域を元気にする不動産屋」という言葉を使っています。
具体的には、こういうことやっています。

近年では田舎に住みたいという人は多く、また故郷に帰りたいというUターン希望者も増えてきています。
ただし紹介できる空き家が少ないので、地域の皆さん・空き家の持ち主さんと繋ぎたい。そのために空き家の問題を解決するネットワーク(司法書士・土地家屋調査士・不動産屋が集まる)がありますので、そちらで相談を受け付けています。

また、空き家の維持・管理を目的として、月に1回空き家を開けて、水を通したり、周りをチェックする。災害時には代わりに状況確認をして、持ち主さんの負担なくやっていける仕組みを考えています。

そうやって、田舎に住みたい人に家を紹介していきたいのと、どうやっても住めない状態の家は、解体・宅地化して新築の需要に応えていくべきだと思います。
田舎はすぐに住める平らな土地が少なく、農業振興地域だと田んぼを宅地にするのも難しい。そんな現状も変えていきたいと思っています。

そして一般的な不動産屋の範疇を超えて、移住者と地域の自治会等との繋ぎ役をしていきたい。

誰でもお繋ぎするわけではなく、物件紹介の条件は「地域コミュニティの一員になる」こと。


やってみたいのは、リアルな移住体験。
田舎に来たらやんなきゃいけないことがたくさんあって・・・
特に草刈りだったりとか、草刈りだったりとか・・・だいたい草刈り(笑)。
そして地元の人と知り合ってもらう。いますぐ引っ越しは無理でも庄原に来たいなあ、と思ってもらえるような事を地道にやっていきたいです。

「一人でのんびり暮らしたい」という方がたまにいらっしゃいますが、田舎では無理なので・・・そういう方は都会の方が孤独になれると思います。


7.移住してきた仲間たち

最後に庄原市口和町に移住してきた仲間を紹介します。

●自然農をやっている上田さんファミリー
手植えをしている田んぼに水が入ると、子供たちはナゼか全裸になる(笑)。きっと自然の中で育っているからワイルドなんですね。


●酪農をしている田辺さんご夫婦
Uターンで帰ってきて、乳牛をしている田邊さん。最近は自動化が進んでいることを知り「これならやれるかも」と家業を継ぐ決意をしました。
牛舎を増築して、ロボット搾乳機を導入して新しい酪農を始めています。

以上が、『ほしぞら不動産』松本晋太さんのお話でした。

★ほしぞら不動産 ホームページ

8.フリートーク♪

ここからは、Social Book Cafeハチドリ舎の安彦恵里香さん、「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長の森田一平さんを交えて、3人でフリートーク♪

森田さん:松本さんが本当に食えているか心配になるんですけれど・・・
ホームページを見たら、今は物件が「準備中」になっているんですが、松本さんの方で売り貸しできる物件は持っている感じですか?

松本さん:今何軒か相談を受けているのですが、どういうふうにしていくか考え中で、物件を並べてどうですかというよりは、まず地域を知ってもらって、そこから「じゃ、こういうのもありますよ」という方法を考えています。
というのも、変な人に入って来られたら困るというのが一個あります。
実際にあった話で、引っ越して来たという人に産業廃棄物を持ち込まれて、そのまま逃げられたことがあって、そういうことがあると、その地域が移住に対してトラウマになって以後受け入れが難しくなる場合があるからです。
なので物件めがけてポンという仕組みじゃなく、イベントや体験を通して価値観を共有した上で受け入れていくような・・・つまり仲間探しでもあるんですよね。

安彦さん:地域のコーディネーター的な感じで、森田さんが連れてきた人だったら大丈夫、まず祭りに参加するように促すと、以前森田さんもおっしゃっていましたよね。

森田さん:地域に関わってもらって「人となり」が分からないと難しいですよね。大家さんは必ず言いますよね「いい人がいれば」って。
松本さんみたいな不動産屋さんが地元にいてくださったら、どんなにいいかと思うので、邑南町もぜひエリアにしてほしいです。

森田さん:家を紹介することしか頭になかったけど、解体して更地にすれば家を建てられるという発想が目から鱗でした。

松本さん:解体して更地にして引き渡しますと言う条件の契約を結び、売買代金で解体費用を賄うと言う方法もあります。
地元の人ほど古民家に住みたい人が少ない。新築の高気密高断熱の家に住みたいと言う人が多いですよね。

森田さん:空き家の持ち主にアプローチするのに、その家にたまたま帰ってくるタイミングで会うのって難しいじゃですか?作戦はどうしてますか?

松本さん:色んなツテといいますか、先ほどご紹介しました空き家対策のネットワークによる相談会や、空き家の片付けをする時に一般廃棄物の処理業者さんに連絡がある場合が多いんですよ。そういう繋がりから紹介していただく事があります。

森田さん:地元の自治会に、空き家情報がストックされていることはありますか?

松本さん:あります。特に口和町の自治振興区(自治会の広域な連合体)は進んでいて、100件以上の空き家台帳があって、持ち主さんの連絡先などの情報が載っています。自治体の方にも空き家対策調整委員から情報が入るようになっています。

森田さん:例えば、奥出雲の方にある『オクリノ不動産』では、不動産業をやりながらリノベーションをしたり新しい取り組みをされています。今後、エリアを超えた不動産屋さんのネットワークができる可能性はありますか?

松本さん:田舎で色んな事に取り組む不動産屋が増えてほしいと思っています。みんなが安心して相談できる役割が、地域の機能の一つとして大切なので、横の繋がりが生まれると良いなと思います。

安彦さん:ちなみに、宅建は場所を超えた取引は可能なんですよね?

松本さん:はい。エリアには特に縛られないので自由に取引できます。

森田さん:例えば、邑南町の地域団体で『ほしぞら不動産』に仕事を依頼して、お互いにメリットがある形で業務提携できたら面白いですよね。

安彦さん:そういう取り組みは全国にあるのかな。なかったら、これから作っていきたいですね。


最後に、参加者からの皆さんから様々なご意見がありました。

◎空き家を解体して出た梁や柱、古い道具などを安く買い取って、蚤の市で高く売っている業者の取り組みが、テレビ番組で紹介されていた。持ち主が丁寧に使ってきたからこそ味わいが生まれるものだから、もっと地元の人に還元する仕組みになってほしい。

◎仲間といっしょに、移住者に空き家を紹介している。気の合う人が来てくれて繋がったらとても嬉しい。ただ完全なボランティアで、正直しんどいと思うことがある。

◎学校の授業の一環で、娘の友達がボランティアで田んぼを手伝ってくれた。とても楽しんでくれて、またやりたいと言っていた。田舎に来て何かしたい人、アイデアを持った人がいると感じた。


松本さんは、「とにかくやってみんと分からん」という気持ちで、これから何が起こるかを楽しみにしていると仰っていました。空き家問題に限らず、地域のコミュニティを守る取り組みに今後も注目していきたいですね。


次回は、4月5日(水)19時~21時の開催です。話し手は、4拠点で楽しい時間を過ごしている明木一悦さんです。お楽しみに♪
(レポーター:みんなでつくる中国山地百年会議・中村健太郎)


みんなでつくる中国山地コラボ企画 〜空き家の課題シリーズ④ 明木さんに聞く「オレ流 空き家リノベーション」 4/5(水)19:00〜21:00


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