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めがね

昼休み。
僕たちは会議室に集まり、それぞれに休憩を取る。
椅子とテーブルが20席くらい円形に並ぶ部屋でほとんど誰も一言も発さずに黙々と食事をする。

聞こえてくる音といえば、コンビニ弁当のプラ容器を箸で擦る音やおにぎりのフィルムをバリバリとあける音、レジ袋のシャカシャカという音、それとモグモグ、ムシャムシャと物を咀嚼する音だけ。

食事を終えるとほとんどの者が、足を投げ出し目を閉じ昼寝を始める。

もちろん男しかいない。
別に女人禁制なわけでは無いわけだが、こんな所に自ら来るような女性はいない。

昼のこの会議室を我々は「タコ部屋」と呼んでいる。

今日も食事を終え、容器を片付け、さぁ!っと昼寝しようとすると珍しく経理部の金子君が声を発した。

(金子)『見渡してみると大体の人がメガネ外して寝てますけど、見てください。斉藤さんだけは、いつもメガネしたまま寝てるんですよねぇ』

(僕)『あ~、確かに斉藤さんだけはメガネしたまま寝てるねぇ。大体の人は外してるねぇ。たしかに』

(金子)『でしょ~。だから、こないだ聞いてみたんですよ。斉藤さんに。なんで斉藤さんは昼寝するときにメガネ外さないんですか?って』

(僕)『ほぅ~。そしたら?』

(金子)『そしたらね。斉藤さん変わってるんですよ。

「なんで、メガネを取る必要があるんだ?」

って逆に聞いてくるんですよね』

(僕)『へぇ~。逆に尋ねられたわけだ』

(金子)『そうなんです。僕も困ってしまって。たしかに言われてみれば、なんでメガネ外すのかなぁ?って。別に外さなくてもいいのになぁ~ってね。んで、続けて斉藤さんが言うんですよ。

「オレは夜も外さない」

って』

(僕)『えっ!?夜寝る時もってこと?』

(金子)『そうみたいなんです。斉藤さん、夜寝るときも外さないし、風呂に入るときも外さないって言うんですよ』

(僕)『へぇ~、そりゃ、変わってるわ~。昼寝だけならまだしも。夜も外さない。風呂の時も外さないってなると』

(金子)『変わってるでしょ~。そう思いますよねぇ。普通。僕も斉藤さんに「斉藤さん。変わってますね~」って言ったんですよ。そしたらね。また聞いてくるんですよ。「なんでメガネを取る必要があるのか?」って。

『俺は、目が異常に悪いんだ。メガネが無ければ何も見えない。何も見えないってのは相当不便なんだよ』

『もしも、夜寝てる時に大地震があって、水やら食料やらを何とか持ち出せたとしても、もしメガネを忘れたら、もうどうしようもないんだよ』

『だからオレは常にメガネをかけるようにしてる。できる限り肌身離さず生きているんだ』

『風呂もそう。もし、入浴中に大地震が来て裸で逃げることになったとしても俺はメガネだけはかけて逃げることができる』

『着るものなんてのは後から何とでもなる。でもメガネだけは。メガネだけはどうにもならない。だから俺は寝る時も入浴の時もメガネを外さない』

『てか、みんななんでメガネ外すの?』

 って、言うんですよ。』

(僕)『すっ、スゴイな。そこまでポリシーを持っていると、もう何も言えないな......』

(金子)『でしょ~。僕も、なんか「なんでメガネ外すのかな~?」って思ってしまって。逆に』

ほんと。
メガネは顔の一部だなぁ~って話……


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