自己管理
筋トレに勤しむせいで、運動不足になる。
座りっぱなしの生活をしていると、時折「貴様は己の身体も管理できないクズだ」という天の声が聞こえてきて、渋々筋トレをする羽目になる。体幹・背面・下半身を中心に30分くらいかけてやる。
日々の運動不足が祟って、翌日はしっかり筋肉痛になる。歩く度に痛みで顔が歪む。なんなら起き上がることすら億劫である。怠惰なので痛みをおして動くとかそういうことをする根性はない。かくして筋トレのせいで益々運動不足になる。
それでもちょっとばかりの生真面目さを発揮して「筋肉痛 治し方」で検索してみる。するとどこも判を押したように「睡眠・休養・栄養補給」とくる。
「睡眠・休養・栄養補給」。風邪・花粉症・鬱・過労…そして筋肉痛にも、あらゆる不調にきくという「睡眠・休養・栄養補給」。
わたしが知りたいのは、そういう手垢のついたゆるい対策ではない。特効薬だ。睡眠・休養・栄養補給、それに加えて運動までしているこの勤勉な近代人に恩寵としてもたらされる、あらゆる不調を一瞬で解消する薬。
そもそも、睡眠・休養・栄養補給・運動、これらをきっちりこなせるということは、元から大概元気ではないか。然るべき時間に起床し、朝食を取り、ゆるみきった精神に鞭を打って筋肉に負荷をかける。良質なタンパク質を含む昼食を食べ、疲れを感じればお茶を淹れて甘いものを取りすぎない。一汁三菜の夕食を用意し、夜更かししないようにテキパキと就寝の準備をする。これら一連の作業を滞りなく行うことができるなら、人間として欠けるところがないと太鼓判されること間違いない。
健康になるためには健康でなければならない。なんという理不尽。それでも「貴様は健康管理もマトモにできない人間のクズだ」という声は止まない。親にもらったこの身体、天から授かりしこの身体。生産性・生産性・生産性…
憂鬱な気持ちで、「でも、ちょっとは太陽の光とか浴びとかないと」と表に出る。近所の三毛猫と目が合う。彼は何軒ものご老人宅を股にかけ、それぞれの家で餌をもらっている。わたしがこちらに越してきた頃は儚げな若猫だったはずだが、最近とみに肥えてきた。
三毛猫はチラリとこちらを一瞥し、興味なさげに踵を返す。一軒家の玄関先から白髪で腰の曲がったおばあさんがよろよろと歩いてくる。彼はおばあさんの細い足にまとわりつき、甘えた声を出す。肥えた白い腹がタプタプ揺れる。
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