サイゼリヤにて

 午前11時に開店するサイゼリヤに、私は向かう。

 サイゼリヤではデカンタの赤を頼むことは決まっていて、他の食べ物はメニューを見たときの気分で決める。
 一番乗りでサイゼリヤに入ってデカンタは頼みたくないな、と私は思う。店員さんに、この人朝の十一時から、デカンタの赤頼むのか……と思われたくないからだ。そんなことだれも気にしないのに。

 席につき、メニューを開く。注文は注文用紙にメニュー番号を書いて、店員さんに渡すシステムだ。
 私はメニューを見て、注文用紙の上から順に、小エビのカクテルの1406、ハモン・セラーノの1422、デカンタの赤500ミリリットルこと、3405を書いた。お店に入る前から決めていたデカンタの赤を最後に書いたのは、最初は飲むつもりは無かったけど、何かメニューを見て、番号を書いていたら赤ワインでも少し飲みたくなってしまったなあ、という私の偽りの深層心理を店員さんと、ここで世界中の人々に伝えるためだ。
 
 食べ物はすぐに運ばれてきた。私は直ぐにグラスにワインを注ぎ、ワインを飲む。

 私が小エビにフォークを刺している頃に、若い男女が私の前の席に座った。ふたりは敬語で話していたが、親密そうな雰囲気だ。私はワインを飲んだ。注文を終えたふたりはサイゼリヤの間違い探しを始めた。私はワインを飲んだ。ふたりはワインを頼んでいなかった。間違い探しをしながら、女は男の手を優しく触っている。私はワインを飲んだ。私はグラスにワインを注いだ。ふたりは手を握りながら間違い探しをしている。私はワインを飲んだ。私はワインを飲んだ。

 彼らのテーブルに、チキンのサラダが運ばれてきた。これで間違い探しも、彼らがその細い指を重ね合わせるのも終わりだ。私はワインを飲んだ。彼らはチキンのサラダが運ばれてきても間違い探しと、手を触る手をやめなかった。私は、ワインを注いで、飲んだ。

 店員がミラノ風ドリアを持っきたとき、彼らの間違い探しは終わった。ふたりはこれからセックスするのだろうか。どこでするのだろうか。
まだ11時35分だ。

 私はレシートを持って会計に向かった。

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