小説 猫の話①

 俺は猫だ。でもまあ正確にいうと俺は猫じゃない。猫ってのは人間が俺たちにつけた名前であって俺は俺自身を猫という名称だとは思っていない。じゃあお前のことはなんて呼べばいいんだよってなるけど、それは俺にもわからない。ただ、人間の規定した名称でなぜ俺たちが生きて、それに基づいて思考しなければならないんだ? そう考えて生きているだけだ。だからここで自分のことを「猫」じゃなくて「にゃあ」みたいな感じで発音に忠実に記載してもいいのだが、ここは読者の人間くんのために「猫」としてやろう。君たちには俺たちの25万語に近い「にゃあ」の発音の違いはわからないだろうからね。だからまあ俺が自分達の言葉でここから先の文章をつづるなら、「にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ」みたいな感じになってしまう。読まれるために書いている俺としてもそれはウィン・ウィンじゃない。ということで俺は猫だ。
 
 俺は自宅の屋上で栽培したまたたびを朝九時から使用していた。またたびってのは一歳(人間でいう十八歳)以上の猫であれば合法的に誰でも使用できる。俺はまだ九ヶ月だから一応コソコソ使わないといけないわけだ。

続く

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