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【コラム】マーメイドはひとりで躍る②

①はこちら

コラムを書くような人間は、得てして自分のことが嫌いじゃない。

実際、僕もそうである。こういう場だからこそぶっちゃけるが、僕は自分のことばに結構こだわりを持っている。だから、自分の文章を繰り返し読んで、「ああ、このフレーズはさすが俺だな」なんて余韻に浸る瞬間があったりする。つまり、自分のことばに酔えるタイプということである。

ことばでは千鳥足になれる僕だが、こと「美術」に関しては直立不動のまま。どんなにきれいな絵を見たって、その中にあるであろう「美学」のようなものがまるっきりつかめないからである。さすがの僕でも、ノンアルコールビールでは酔えないということか。ゴッホより、普通に自分の文章が好きである。

うしろシティのコント「美容室」のオチには、ことばで酔うためのヒントがある。

話は、髪を切り終えた美容師が、その長さを鏡でお客さんと確認するところからはじまる。その後、「ケンジ」という同僚のもとにある男がやってくる。男は「ケンジ」にパリに旅立ってしまう元彼女を引き留めるよう説得するが・・・

続きは、うしろシティの公式YouTubeチャンネルでお楽しみいただきたい。なお、「ケンジ」も、やってきた男も、そして元彼女も舞台上に姿はない。会話の音声のみが流され、うしろシティのふたりにはほとんどセリフがないという点もなんだか洒落ているのである。


さて、ここからはオチのネタバレになってしまうのでご注意。


コントの最後に新たな訪問者(と言っても、これも音声だけが流されるのだが)がやってくる。訪問者の正体は、美容師の元彼女。資産家の息子と結婚するはずが、なんと式当日に抜け出してきたという。そして、息をととのえながら一言。


 「知ってた? ウエディングドレスって、すっごい走りにくいんだよ」。


もちろん花嫁は、ウエディングドレスで走ることの大変さを訴えたいわけじゃない。「やっぱりあなたのことが忘れられないの」とか「あなたが好きだから、抜け出してきたの」という本心が、必ずやそこには埋め込まれている。でも、そのことを口には出さない。

なぜなら、それこそががことばの美学だから。直接的に本心を口に出すよりも、間接表現は時として美しい。ラブソングに「好き」ということばを入れない作詞家も、「月が綺麗ですね」を「I LOVE YOU」と訳したロマンチストも、みんなその理由は同じ。本心をそのまま吐露しないことのしなやかさに、そのことばの美しさに酔いしれているのだ。スト缶でしか酔えない人には味わえない、ほろ酔いでも酔えちゃうひとにしか見えない世界がそこにはあるんだとおもう。


じゃあ、ここでみなさんにクエスチョン。


スト缶でしか酔えない女子と、ほろ酔いでも酔えちゃう女子、どっちがかわいく感じる?


後者って思ったあなたは、きっと今日のコラムを読んで満足だったはず。

ちなみにこれは、別にメンタリズムとかではない。


執筆・マーメイド侍

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