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黒曜石のナイフで稲刈りしてみた話。 ーはじめての稲作ー

あれは保育園というものに子どもたちが通いはじめて、最初の6月のことだった。
保育園から突然、稲の苗をいただいた。
「You、食育のために米作りしてみない?」ということらしい。

ガーデニングも野菜づくりも苦手で、紫蘇すら枯らしてしまう我が家ではあるが、
挑まれたなら挑戦しなければならぬ。やってやろうではないか。

そんなわけで、なんの予備知識もないままはじめての稲作が始まった。
手元にあるのはJAの「バケツ稲プロジェクト」のマニュアルのみ。
とりあえずバケツと土を買って、稲を植える。
子ども達は土遊び水遊びが楽しくてテンション上げ上げだが、戦力にはならぬ。
大人2人が3歳と1歳の魔の手からヒョロヒョロの苗を守り、バケツに植え付け、

……そして、稲が実った。

いや途中経過をはしょりすぎじゃないかとお思いだろうが、実ったのである。
夏のあいだバケツの水を切らさないようにだけ注意して、
秋に穂がついたら鳥よけのネットだけかけて、
そしたら実った。意外に簡単である。
ただ、ほんとに水だけで育てたので穂は細くてヒョロヒョロだ。
でも一応実は入っている。

さて、稲が実ったからには刈り取らねばならぬ。

しかしここでハタと気がついた。
我が家には鎌がない。
ガーデニング用の鋏でも収穫はできるだろうけど、それではなんとなく味気ない。
この1回の収穫のためだけに鎌を買うか…と悩んでいたら、ふと思い出した。

我が家には、黒曜石があるじゃないか!

なにを隠そう、私も夫も石が好きである。
なかでもピカピカ光る黒曜石は好きな石ランキングの上位に入っている。
自宅には夫が北海道旅行で拾ってきた十勝石がゴロゴロ転がっているし、
新婚時代は夫婦で和田峠の黒曜石ミュージアムに行き黒曜石で弓矢も作ったのだ。

そうだ、あのときミュージアムで見たじゃないか。
稲作といえば石器、石器といえば黒曜石だ…!

そんなわけで、夫の部屋に転がっている十勝石を急遽発掘してきた。
十勝石とは、北海道で採れる黒曜石のことだ。
ゴロッとした丸い形で、河原なんかに転がっている。

そんなわけで、黒曜石を割る。

北海道の湧別川で拾った十勝石。

どうせなら時代考証をしっかりして縄文時代や弥生時代のやり方で割りたいところだけど、稲刈りが優先なので今回は思い切りよくハンマーで叩き割った。

飛び散ったカケラの中から、よさげなやつをいくつか見繕う。

大ぶりで握りやすいけど、刃先は鈍めの子。
刃先が薄く、切れ味が良さそうな子。

さて、それでは稲を刈っていってみよう。
はたして無事に刈れるのか…

黒曜石ナイフ、本領発揮。

ジョリ…ジョリジョリ。
切れる…!これは切れるぞ…!!!
思ったよりはるかに切れ味がいい。そして手応えがいい。
切ってる実感があって楽しい。

いや、黒曜石ナイフ、正直あなどってた。
ただ叩き割っただけで、研いだりもせずにこの切れ味はちょっとすごい。
これは縄文人も弥生人も使いますわ。

ちなみに、薄く鋭いカケラよりも、大きめのカケラのほうが切りやすい。
刃先は多少鈍くても、しっかり握れるサイズのほうが力を込めやすいみたい。
石器ナイフは鋭さより握りが大事、という知見を得た。

バケツ2つ分から収穫できた稲

さて、収穫した稲の穂をしばらく干して乾燥させたら、お次は脱穀だっこく
これまた専用の器具なんか持っていないので、稲穂を割り箸やフォークでしごいて脱穀する。
これまた地味な作業でなかなか大変。

そういえば歴史の授業で千歯扱きせんばこきとか習ったなあ…
あれが確か江戸時代からだから、我々の作業レベルは江戸以前といったところか。

穂から取った状態の籾(もみ)

バケツ1個分の苗から、とれた籾はこれだけ。少ない。
まあ、近代農業の結晶である肥料を使ってないので仕方ない。

お次は籾摺もみずり
取った米粒を、すりこぎでごりごり籾殻もみがらを取って、玄米にする。

籾摺。気が遠くなる作業。

これはもう弥生時代と大差ない作業レベル。
お米を砕いてしまわないよう注意しながら、ひたすらごりごり。
子ども達は脱穀の途中で早々に飽きたので、お昼寝してる隙に夫婦で粛々と作業。
めちゃくちゃ気が遠くなるような地味な作業で、これだけ苦労してとれたお米を年貢ねんぐ租庸調そようちょうで持っていかれるのか…と昔の農民に思いを馳せてしまった。
昔の人、大変だったんだなあ。

さてさて、バケツ2つ分の稲から取れた玄米はわずか10g。
苦労して作業した身には、半透明の米粒がキラキラ輝いて見える。

キラキラした玄米。愛しい。

本当はこのあと精米作業をして白米にする予定だったけど、これ以上量を減らしたくないのと精根尽き果てたのとで、これにて作業終了。

収穫した玄米は単独で炊くには少なすぎるので、普段食べてる白米と混ぜて炊いてみた。

玄米を半日ほど浸水させて、市販米1合とあわせて炊いた。

少し茶色っぽくて小さい米粒が、我が家で炊いた玄米。
噛みごたえがあって、引き締まった味でした。
苦労した甲斐あって、なかなか美味しかった。
子ども達も塩にぎりにしてあげたらパクパクたいらげた。

そんなわけで、我が家のはじめての稲作は終わった。
「食育のために」と保育園から渡されたバケツ苗だったけど、食育されたのはたぶん子ども達ではなく我々大人だったのだろう。
昔の米作りの大変さを実感し、農業改革の歴史に思いを馳せ、お米のありがたみを知った。
今年もやるかどうかは…まだ迷い中である。

※JAのバケツ稲プロジェクトに興味を持たれた方はこちらをどうぞ↓
今年は6月9日まで申し込み受付中みたいです。

#やってみた大賞 #食育

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