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糖質制限で本当に代謝(消費カロリー)は落ちるのか?

【無料公開記事】

こんにちは。クロマッキーです。

YouTubeやTikTok、Xのダイエットに関する投稿で、

①糖質制限ダイエットをすると、1日の消費カロリーが大きく低下する
②それにより、脂質制限ダイエットよりリバウンドしやすい
③そして、糖質制限により落ちた代謝は一生戻らない

なんて情報を聞いたことはないでしょうか。

今日は、「これって本当に正しいの?」ということを、論文をベースに解説したいと思います。

気になる!という方はぜひ読んでみてください。

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科学的エビデンスに基づく考察(むしろ糖質制限の方が代謝が落ちる?)

■サマリ
「本文を読む時間が取れない!」という、忙しい方向けに、重要なポイントのサマリをお伝えします。

■研究結果
・脂質制限と比較し、糖質制限(低炭水化物食)の方が代謝を維持できる
・代謝適応による代謝低下は、リバウンドの主要因ではない可能性がある
・代謝低下はエネルギーバランスが負の時に発生する
・落ちた代謝は摂取カロリーを増やすことで元に戻る
■日々の生活にどう活かせるか?
・代謝が落ちることを恐れて糖質制限ができていない人(それにより痩せられていない人)は、糖質制限を試してみるのもあり
・カロリーを減らしても痩せられない人は、一度メンテナンスカロリー(消費カロリーと摂取カロリーが釣り合った状態)まで戻してみると、代謝が戻り痩せられる可能性がある

■前提
冒頭でもご質問させて頂きましたが、

①糖質制限ダイエットをすると1日の消費カロリーが大きく低下する
②それにより、脂質制限ダイエットよりリバウンドしやすい
③そして、糖質制限により落ちた代謝は一生戻らない

という話をXやYouTubeで耳にしたことはないでしょうか。

これらの主張について説明させて頂くと、これらの主張をしているダイエット系インフルエンサーの方の理論としては以下があると思います。

  1. 糖質制限をすると”代謝適応”という仕組みによって代謝が落ちる

  2. 糖質は、脂質に比べてミトコンドリア(エネルギー生産工場)ですばやく使われるエネルギー源であるため、糖質を制限してしまうと、摂取した栄養素がエネルギーとして使われにくくなり代謝(消費カロリー)が落ちる。そして、リバウンドしやすくなる。

  3. 糖質制限では、肝臓のグリコーゲン(ブドウ糖が変換され蓄えられたもの)が減ることで、体が飢餓状態になりやすく代謝が落ちやすい

また、これらの主張は「脂質制限ダイエット」を推奨している方に見られる傾向がある印象です。

ちなみに僕は、自身の書籍で書いたように、短期的に痩せたい場合は、「ケトジェニックダイエット」でも「16時間断食ダイエット」でも「脂質制限ダイエット」でも自分に向いていて続けられやすいものを選べば良いのでは?というスタンスです。
一方、長期的に痩せたい場合は、未精製穀物、良質な脂質、適度なタンパク質にし、時々断食するのが最も健康的だと考えています。

話を戻すと、僕は前々から「この「糖質制限で代謝が落ちる」という理論はなんだかおかしいのでは?」と思っていたので、今日は最新の研究をベースにその真実をシェアさせて頂きたいと思います。

■結論
結論を先にお伝えすると次のとおりです。

①糖質制限ダイエットの方が、脂質制限ダイエットよりも代謝を維持できる
②代謝適応はリバウンドの主要因ではない可能性がある
③落ちた代謝は摂取カロリーを増やすことで元に戻る

です。それぞれ順を追って見ていきましょう。

■代謝が落ちる理由・仕組み
「そもそも代謝が落ちて消費エネルギーが減る」ってどういうこと?という話から目線を合わせていきましょう。
まず、1日の消費エネルギーというのは以下で構成されています。

引用:健康長寿ネット

安静時代謝、食事誘発熱産生、NEAT、運動によりカロリーは消費されます。

  1. 安静時代謝(Resting Metabolic Rate, RMR):
    安静時代謝とは、ただ座っているか横になっている時に、体が使うエネルギーのことです。呼吸をしたり、心臓を動かしたりするために必要なエネルギーで、食べ物を消化することや運動することなしに、体を普通に動かすために使われます。

  2. 食事誘発熱産生(Diet-induced Thermogenesis, DIT):
    食事誘発熱産生とは、食べ物を食べた後に体が消化や吸収のために使うエネルギーのことです。食べ物を食べると、体はその食べ物をエネルギーに変えたり、体内に吸収したりするのにエネルギーを使います。そのため、食べた後は少し体が温かくなることがあります。

  3. NEAT(非運動性活動熱産生):
    NEATは、スポーツや運動以外の活動で使われるエネルギーのことを言います。たとえば、イスに座ったり、廊下を歩いたり、階段を上ったりするときに使うエネルギーです。普段何気なく行っている活動でも、体はエネルギーを使っています。

  4. 運動
    運動が、スポーツやジムでの運動といった活動で使われるエネルギーのことをいいます。

このうち「代謝が落ちて消費エネルギーが減る」という主張は、主に安静時代謝を指していることが多いです。時々、NEATと運動への影響も含めて「代謝が落ちる」と表現する人もいます。


前提知識の目線があったところで、「ダイエット中には、どのような仕組みで代謝(消費エネルギー)が落ちるの?」というメカニズムからお話しします。

2016年の「人間の体重増加と体重減少に伴うエネルギー消費の変化」に関する論文をもとに、代謝が落ちるメカニズムについて解説します。[1]
ダイエット(体重減少)において代謝が落ちる仕組みは、フェーズごとに異なり、フェーズは全部で3つあります。

フェーズ1:最初の1週間
フェーズ1は、ダイエットを始めて最初の1週間(目安)です。
この間は、食事制限により肝臓内のグリコーゲン(ブドウ糖が変化して蓄えられたもの)が減っていくことで代謝は低下します。この仕組みを代謝適応や適応的熱産生(Adaptive Thermogenesis)といいます。
具体的に説明しますと、まず前提として、肝臓のグリコーゲンは、脳や筋肉、そのほかの臓器にエネルギー源となるブドウ糖を供給する役割があります。
しかし、肝臓のグリコーゲンが枯渇すると、脳が求めるエネルギー量(1日80-100gのブドウ糖)に対応することができなくなってしまいます。そこで、そういった状態でも大切な脳へのエネルギー供給を確保するために、体はエネルギーの変換や利用を効率化して消費カロリーを低下させます。
これが、フェーズ1で代謝が低下するメカニズムです。

フェーズ2:体重が減少している期間
肝臓のグリコーゲンが減ると、体脂肪や筋肉が落ち、体重が落ちていきます。
実は、体脂肪は1kg維持するために約4kのカロリーのエネルギーを消費し、筋肉は安静時(つまり椅子に座っている状態)で1kg当たり約13kcal消費するとされています。そのため、体重が落ちると体脂肪と筋肉が減った分の代謝が落ちていきます。

また、国立スポーツ科学センターの発表によれば、筋肉は1kg増えると1日の消費カロリーが28.5kcal増えるとされていたり、国立健康・栄養研究所の発表によれば、除脂肪体重が1kg増えると、交感神経やホルモンの働きがより活性化されることで、基礎代謝が1日に50kcalほど増える可能性があるということも報告されていますので、筋肉が1kg減ると多くの消費カロリーが低下します。

フェーズ3:停滞期
このフェーズでは、適応的熱産生により様々な要因で消費カロリーが低下しています。具体的には、甲状腺ホルモン(T3)(エネルギー生産、体温調節、細胞の成長および発達に関与するホルモン)のレベルの低下や、交感神経系の活動の低下、レプチン(脂肪細胞から分泌され、満腹感を感じさせたり消費カロリーを増やしたりするホルモン)の分泌量が低下などにより、消費カロリーが下がります。
すると、摂取カロリーを減らしていたつもりでも、摂取カロリーと消費カロリーが同じになってしまい体脂肪が落ちなくなるというわけです。

これらが代謝が落ちていくメカニズムです。

では、これらの代謝低下によって、実際にどれくらい消費カロリーは減るのでしょうか?
コロンビア大学などの研究では、ダイエットをして直近で体重を10%以上落とした人は、ダイエットせずに同じ体重を維持していた人と比べて、カロリー消費量が8〜28%少ないという結果が見られています。かなり大きな低下ですよね。
最大で28%も減ってしまうということは、例えば、ダイエット前に1日の消費カロリーが約2000kcalだった人は、停滞期では約1500kcal程度まで落ちてしまう可能性があるということです。


では続いて、「①糖質制限ダイエットをすると1日の消費カロリーが大きく低下する」「②それにより、脂質制限ダイエットよりリバウンドしやすくなる」という主張について、「実際に糖質制限で代謝は落ちるの?」という研究結果を見ていきましょう。

結論としては、糖質制限よりも脂質制限の方が消費カロリーが落ちることが示されています。

2024年 「活動的な減量後の安静時エネルギー消費に対する食事の主要栄養素組成の影響」に関するメタ分析では、以下の結果が示されています。[6]
メタ分析は論文の中でもかなり信頼度の高いものです。

■研究概要

・異なる栄養素のパターンが安静時代謝量(REE)に与える影響を評価
・体重減少は、最小(5%未満)と中~高(5%以上)に分類

■研究結果

・炭水化物の割合が低く、脂質とタンパク質の割合が高い食事は安静時代謝量の減少が小さい傾向が見られた
・この傾向は、中~高い体重減少を経験した参加者でより顕著だった
・中~高い体重減少を経験した参加者において、炭水化物摂取量が1%増加すると安静時代謝(REE)は1日あたり2.30 kcal減少した
・一方、タンパク質と脂質の摂取量が1%増加すると、それぞれ安静時代謝(REE)が1日あたり3.00 kcal増加した
・5%未満の体重減少を経験した参加者には有意な関連性なし

炭水化物の割合を減らすことで、より安静時代謝を維持できた理由としては、高炭水化物にすることでインスリンが分泌し、脂肪の蓄積および空腹感の増加によりエネルギー消費量が低下したことなどが挙げられています。

続いて、2018年 アメリカで行われた「減量維持中のエネルギー消費に対する低炭水化物食の影響」に関するランダム化比較試験では、18~65歳のBMIが25以上の成人164名を対象に、「減量維持中に炭水化物の量がどれだけエネルギー消費に影響するの?」というを調査しました。[2]

■研究概要

導入期:
・栄養バランス 炭水化物45%、脂肪30%、タンパク質25%
・全員がカロリー制限し、体重を減らした
減量維持期:
・以下の3つのグループに分け、炭水化物、脂肪、タンパク質のバランスを変えて影響を調査
 高炭水化物グループ:炭水化物59%、脂肪21%、タンパク質20%
 中炭水化物グループ:炭水化物40%、脂肪40%、タンパク質20%
 低炭水化物グループ:炭水化物20%、脂肪60%、タンパク質20%

すると、結果は、「低炭水化物食グループの総エネルギー消費量が最も大きい」という結果になりました。糖質制限強いですね!

具体的には、高炭水化物食と低炭水化物食における総エネルギー消費量の差は 209 ~ 278 kcal/日あり、炭水化物が10% 減少するごとに約 50 ~ 70 kcal/日増加する結果になりました。
この理由としては、エネルギー消費を抑える作用もある空腹ホルモンのグレリン値が低下したことが挙げられ、他にも、食事誘発性熱産生、褐色脂肪組織の活動、自律神経系、栄養素の代謝サイクル等の変化や、非運動活動熱産生(NEAT)が低炭水化物食において増加した可能性が考えられています。
このように、研究結果から見ると、糖質制限の方が消費カロリーを高めるまたは維持できることが示唆されたということです。

また、少し古い研究ですが、2004年「エネルギー制限された超低炭水化物食と低脂肪食による過体重の男性と女性の体重減少と体組成の比較」という研究では、ケトジェニックダイエット(超糖質制限)と低脂肪ダイエットを比較したところ、男性において体重に対する安静時エネルギー消費量はケトジェニックダイエットの方が、脂質制限ダイエットよりも維持できたことが報告されています。[3]

つまり、現時点での研究結果から見ると「①糖質制限ダイエットをすると1日の消費カロリーが大きく低下する」「②それにより、脂質制限ダイエットよりリバウンドしやすい」という主張は、眉唾の理論で、実際は「脂質制限の方が消費カロリーが落ちることが示されている」ことがわかります。
メタ分析でこの結果が出てしまっているので、「糖質制限は脂質制限より代謝が落ちる」といった主張は無理かがるかもしれませんね。


続いて、「③糖質制限により落ちた代謝は一生戻らない」という主張について見ていきましょう。

結論としては、落ちた代謝は戻ることが示されています。

2020年 アメリカ臨床栄養学雑誌に掲載された「代謝適応は幻想であり、参加者が負のエネルギーバランスにある場合にのみ存在」に関するランダム化比較試験の結果を見ていきましょう。[4]

■研究概要

・肥満患者 71 名が対象
・(減量期)1000 kcal/日の食事療法を 8 週間継続
・(安定期)その後、4 週間体重を安定させる
・(フォローアップ)続いて、9か月間の減量維持プログラムを行ってもらう
・9週目(W9)、13週目(W13)、1年目(1Y)に各項目を測定

■研究結果

■体重
・減量期後の9週目では、体重が14 kg減少
・安定期後の13週目で体重が安定していることを確認
・フォローアップ後の1年後の時点で、最初に減少した体重の29%を回復
(つまり、1年後には14kgに対する29%の体重が増えた(戻った)ということです。)
■安静時代謝
9週目時点:平均 -107kcal/day
13週目時点:平均 -49kcal/day
1年目時点:平均 -7kcal/day

この結果から、体重のリバウンドの度合いは1年後で減った体重の29%だったにもかかわらず、代謝の低下は平均 -7kcal/dayまで回復していたということがわかります。
「代謝が落ちる理由」のパートで説明させて頂きましたが、体脂肪や筋肉量が落ちた分の代謝は元には戻らないため、完全に代謝が戻らないのは当然のことですが、ほぼ代謝は戻っていると言えます。

研究者によれば、そもそも代謝適応はエネルギーバランスが負の時のみ(消費カロリーよりも摂取カロリーが少ない場合)に起こる現象であり、9ヶ月の減量維持期間ではエネルギーバランスが負ではなかったため、代謝は元に戻ったとされています。
また体重の安定期後において、平均 -49kcal/dayの代謝低下が見られていた理由としては、この期間もエネルギーバランスが負であったためとされています。

また2020年「代謝適応は減量維持の大きな障壁ではない」という題名の論文では「体脂肪量の減少と安静時代謝の相関は見られているが、リバウンドと代謝低下の関係性は見られていない」と述べられています。[5]

つまり、「③糖質制限により落ちた代謝は一生戻らない」という理論は少し無理があると言えそうです。
とはいえ、こちらもメタ分析の結果が出るのと待ちたいと思います。

■クロマッキーの所感
今回の研究を通して言えることは、次のとおりです。

①糖質制限ダイエットの方が、脂質制限ダイエットよりも代謝を維持できる
②代謝適応は、リバウンドの主要因ではない可能性がある
③落ちた代謝は元に戻る

これらを踏まえた僕の見解としては、

  • 「糖質制限は代謝が落ちる」というダイエット指導者の意見を恐れて、糖質制限ができていない人(それにより痩せられていない人)は、怖がらずに糖質制限やって見ても良いのではないでしょうか。

  • 摂取カロリーをメンテナンスカロリー(消費カロリーと摂取カロリーが釣り合った状態)を維持すれば代謝は戻るので、そもそもカロリー制限のしすぎで代謝が落ちすぎて痩せられない人は、まずは徐々に摂取カロリーを増やしてメンテナンスカロリーに戻すのが良さそう。

といった感じです。
代謝をなるべく落とさずに痩せる方法もあるので、こちらは次週のマガジンで解説します。

■サマリ(Key Takeaways)

■研究結果
・脂質制限と比較し、糖質制限(低炭水化物食)の方が代謝を維持できる
・代謝適応による代謝低下は、リバウンドの主要因ではない可能性がある
・代謝低下はエネルギーバランスが負の時に発生する
・落ちた代謝は摂取カロリーを増やすことで元に戻る

■日々の生活にどう活かせるか?
・代謝低下を怖がり糖質制限ができていない人(それにより痩せられていない人)は、糖質制限を試してみるのもあり
・カロリーを減らしても痩せられない人は、一度メンテナンスカロリー(消費カロリーと摂取カロリーが釣り合った状態)まで戻してみると、代謝が戻り痩せられる可能性がある

■参考文献
[1] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5097076/
[2]
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30429127/
[3]
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15533250/
[4]
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32844188/
[5]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7458773/
[6]
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38697953/

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