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【まとめ】ミステリーの書き方 北村薫編

語り手の設定

名だたるミステリー作家たちが持論を語り尽くす「ミステリーの書き方」より抜粋する。

今回取り上げるのは『スキップ』など日常の謎が代表作の北村薫。

男性作家なのだが、デビューから素性を明かしていなかったため、その作風から「女子大生なのではないか」と噂されたほどの名手だ。

そんな北村薫が”視点”について語っていく流れで、すごくおもしろい話をしていた。

とある小説のなかで、一人暮らしの男が納豆のパックをひっくり返してしまう。だが、運良く納豆は上下そのままに着地して、床が汚れずに済んだという場面。

――幸運か。――これが幸せか。
仕事は面白い。ずっと興味を持ち続けて来た。〈好きなことが仕事になるのなら、これほど羨ましいことはない〉と、人にもいわれた。確かに、そうだろう。着任した土地ということもあって、特に北海道の歴史上の歩みには関心を持ち続けて来た。戦後史の大きな特集を組む動きがあって、こちらに呼ばれた。
だが、家に帰った時の、自分の幸せとは所詮、この上を向いた納豆か。この程度のことなのか。
『ひとがた流し』新潮文庫

一人暮らしの生活は寂しい、と書いてしまえばそれまでだ。

だいたいの読者はなんとなく共感してくれるだろう。特にスリリングな場面ではないが、こうしたエピソードを交えることによって、描写は説得力を持つようになる。

仕事柄、最近よくラノベを読む。
そこに出てくるヒロインはみな「学校でいちばんの美少女」だとか、「全生徒の憧れの的」と端的に表現される。

ラノベは小難しい要素を排除してキャラクターを記号的に落としこむのでそれでも良いのだが、なんとなくこういう「人を描く」部分が物足りないような気もしてしまう。

作家は、物語の語り手でもある。
ふだんからどういう場面を切り取ればリアリティが出るか、面白くなるかを考え続けていれば、おのずと画一的な表現は減っていくのかもしれない。


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