【マダミス】完全解説「勇者は殺されてしまった」の作り方
マーダーミステリーの作り方がわからない人へ
はじめてマダミスを作ってから1年が経とうとしている。
当時はまだパッケージ版でさえも数えるほどしかなかったが、いまや数多くのシナリオがひしめきあい、新作を見ない日はないというほどだ。
ただ、あふれんばかりに公開されている作品の裏には、こんな人がたくさんいることだろう。
・自分でも作ってみたいけど、やり方がわからない
・トリックが思い浮かばない
・文章の才能がない
今回は、備忘録も兼ねて、こうすればある程度かたちになるよ、という私なりのテンプレみたいなものをまとめてみた。
以下、当然のことながら「勇者は殺されてしまった!」のネタバレを含むので、未プレイで楽しみにしている方は遊んでから読んでみてほしい。
遊ぶ気はないけど、じっさい商品になっている状態のものが気になるというかたは以下からDLをお願いします!!
0.目標は完成させること!
未完の傑作よりも、完成した駄作
とにかく大事なのは、完成させて、他人に遊んでもらうこと。
そのためにも無理のない範囲で作品をつくっていこう。
1.まずはコンセプトを決めよう
わりと作品のコンセプトはすぐ決まる(あるいは決まっている)人が多いのではないかと思う。
人狼ものにしたいなとか、大正ロマンをモチーフにしたいなとか、ゾンビを登場させたいな――とか。
正直なんでもアリだ。
ただ、初心者におすすめしたいのは「皆が知っている世界」をコンセプトにすること。
「皆が知っている」というのは、余計な説明が必要ないという意味だ。
「スター・ウォーズ」みたいに
遠い昔、はるか彼方の銀河系で…。
などと小難しい世界観を説明しはじめると、それだけで何ページもの設定資料を用意する必要があるし、世界観と矛盾がないように作るのも大変になる。
私の場合は、わかりやすく「ドラクエっぽいRPG」の世界観を間借りすることにした。
こんなふうに1行で説明できるコンセプトはすごく大事なので、処女作にいきごむクリエイターはできるだけ簡単な世界観を目指すと良いと思う。
実際、マダミスには勇者やRPGの世界観のものがたくさんあって、多くの人に親しまれていることがうかがえる。
コンセプトが他作品とかぶってもまったく問題ないので、既存の作品でいいなと思ったものがあれば、真似するのも有力だ。
2.キャラクターを決めよう
すなわち、プレイ人数を決めること。
これに関しては私なりの結論があって、「まずは5人から」と考えている。
なぜなら、偶数はマダミスの特性上、投票に結論が出なくなる可能性があるのでオススメしない。
1人用はゲームとして特殊なので除外、3人用は少人数すぎて逆に要素を入れるのが難しい、7人以上は矛盾なく作るのがハード。
となると消去法的に5人がベストとなる。
SOS団をみれば5人チームがいかにバランスの取れた構成であるかおわかりいただけるだろう。
あとはGMをどうするかだが、ユドナリウムを使えるのであればGMレスで作るのもいいだろう。
GM必須にするならば、資料をPDFのみで完結させられるので、すこし楽かもしれない。
さて、プレイ人数とコンセプトが決まったら、こんどは登場人物を決める作業に入ろう。
RPGで定番のキャラクターといえば、勇者、戦士、僧侶、魔法使い、吟遊詩人、学者、盗賊、竜騎士……あたりだろうか。そのなかから男女バランス良くなるようにキャラを決めていく。
勇者は被害者にしたかったので、まずは定番の戦士、魔法使い、僧侶をチョイス。あとはキャラかぶりのないように、吟遊詩人と学者を配置し、ちょっと攻撃力に欠けるがバランスの取れたパーティーが完成した。
男女比はもちろん自由に決めていいが、とくだんの理由がなければ、半々くらいが妥当だろう。マダミスのプレーヤーも男女比に大きな差はないように感じる。
3.ストーリーを決めよう
ここでいうストーリーは、あらすじに近いものと考えてほしい。
殺人事件の詳細なタイムラインは後回しにして、おおまかに誰が殺害したのか、動機はなにか、キャラクター同士の関係性は――という部分をつめていく。
「勇者は殺されてしまった!」は、タイトル通り勇者が殺害される必要がある。RPGの魔王を倒した後の世界を思い描いてみると、国を救った勇者なんてのは王様の邪魔になるだろうなあ……ということで、黒幕は国王ということになった。
勇者パーティーの誰かが国王の密命を受けて勇者を殺害する……そんな設定ができあがる。
あとは、各登場人物に「こいつが犯人では?」と思わせる怪しげな背景を持たせなければならない。
マダミスのなかには確定白の役もたまにあるが、5人用シナリオでそれをやってしまうと厳しくなるので、全員が疑われるようにしたほうがベターだろう。
戦士:
僧侶:
魔法使い:
吟遊詩人:
学者:
ここで、旅の様子を思い描いてみることにする。
勇者と戦士は前線に立ち、魔法使いと吟遊詩人が援護し、僧侶は回復、学者は――正直なにをやってるかよくわからない。
というわけで、ロール的にいちばんキャラの立ってない学者を犯人にした。
犯人を決めてからお話をあわせて作るほうがワタシ的には楽だと思う。
僧侶はきっと、最前線で戦う勇者のことをかっこよく思っていることだろう。そんな勇者に裏切られたら……ということで、可哀相だが部屋で乱暴されることにしてもらった。
すると、勇者はおそらく女癖が悪いだろうということで、魔法使いともデキてることにした。ただの恋人だと僧侶とキャラがかぶるので、魔法使いは浮気をしていて吟遊詩人と勇者の持ち物を盗み出して売り払うという役割を与える。
その吟遊詩人もさらに浮気をしていて、今度は魔法使いを裏切って他の女と逃げ出そうとしていることにしよう。
あとは戦士だが、こいつは勇者からパワハラを受けていたことにする。ひそかに僧侶のことも好きだという要素も入れておこう。
学者は、モンスターに詳しいと思うので、モンスターを使って殺害を試みたことにする。
戦士:パワハラを受けていた
僧侶:勇者の部屋で乱暴される
魔法使い:吟遊詩人をアシスト
吟遊詩人:勇者の部屋に盗みに入る
学者:犯人 スライムで勇者を窒息死させる
という構図ができあがった。
これで大まかなストーリーは完成だ。
4.タイムラインを決めよう
大まかな動機と関係性が決まったので、こんどは事件当日の行動をくわしく書いていく。
大事なのは、被害者(勇者)と接触するタイミングだ。
死んだ後に会っているのか、死ぬ前になにかしら会話を交わしたのか……など、事件に直接関わる内容だけに、まずここを決めなければならない。
まず、僧侶は部屋に連れこまれる必要があるので、最初に勇者と会う。
でもそれだけだと怪しさが薄いので、後ほど殺害にきたところ、すでに死んでいたことにしよう。
吟遊詩人は勇者の部屋に盗みに入る必要があるが、勇者が生きているのがわかったら、アリバイを証明するために盗人であることを自白しやすくなってしまう。
そうすると怪しさが半減してしまうので、より疑われる確率が高い、死後に入ってもらうことにした。
魔法使いと戦士まで勇者の部屋に入るとさすがに混乱しそうだったので、それぞれの部屋に怪しげな証拠だけを残し、部屋には行かないことにする。
すると、タイムラインは以下のようになった。
僧侶、勇者に部屋で乱暴されそうになり、逃げる
↓
学者が勇者を殺害
↓
僧侶が殺害にくる&吟遊詩人が盗みにくる
まずはこの要素をタイムラインに入れ、時間を決めていく。
各キャラクターごとの行動表をエクセルで確かめてみるとわかりやすい。
そして、各自の行動は、証人がいないと意味がなくなってしまうので、適度に目撃されたり、証拠を残しておくようにしなければならない。
最初はとにかく完成させることが目的なので、オススメは行動を5つ以内に収めること。
(右上の「昨夜の行動」を参照)
あまりキャラクターによって差があると良くないので、だいたい同じくらいになるよう調整しつつ、キャラクターに必要な行動を埋めていこう。
時間軸が重複する場合には、なんらかの接触があるはずなので、お互いのキャラクターの表現に気をつけて記述する。
5.証拠(証言)を決めよう
さあ、いよいよ作品の完成がみえてきた。
タイムラインが決まったら、各自の行動を裏付ける証拠、証言を決めていこう。
勇者は殺されてしまった、ではそれぞれの部屋に3つの証拠品を用意した。
その内訳はだいたい決まっていて、
1.勇者殺害を匂わせるもの 2つ
2.サブミッションに関わるもの 1つ
先ほどの吟遊詩人であれば、勇者殺害を匂わせるのが督促状と、勇者の部屋の鍵、サブミッションは切符だ。
戦士:勇者のパワハラ記録がある日記帳 凶器になりうる可能性のある斧 僧侶への恋心を綴った手紙(サブミッション)
僧侶:濡れたハンカチ 勇者に破られたドレス 勇者への思いを綴った日記帳(サブミッション)
魔法使い:睡眠薬 透明になれる魔導書 大金(サブミッション)
吟遊詩人:借金の督促状 勇者の部屋の鍵 切符(サブミッション)
学者:魔物図鑑 魔物を入れていた箱 国王からの手紙の封筒(サブミッション)
本作は部屋で見つけた証拠品が大きな鍵となる。なるべく情報交換の機会が増えるように、サブミッションに関わる所持品は最終的に自分で保持しないとポイントがもらえないように調整した。
そして、勇者の部屋には、侵入した人の形跡を残すのが自然だろう。
勇者の部屋:スライムで濡れた枕(学者) 勇者の部屋の鍵(学者が使用) 防具(武具が盗まれたことを示唆) 僧侶の短剣
あとは、必要な情報を証言で埋めていく。
殺害方法、国王が勇者をうとんでいるという噂、事件当日城を出入りした人物の有無、スライムの処分方法、勇者がろくでなしという情報……
ここで大事なのは、事件解決までのしっかりした道のりが示されていること。
動機
殺害方法
アリバイ
この導線がないと、ミステリーとしては不十分だ。
事件に必要な情報はすべてゲーム内に存在しなければならないし、不要な情報はできるだけ減らしたほうがいい。
そして、証拠が直接的すぎるとあっという間に犯人がわかってしまうので、ワンクッション入れるようにしよう。
×国王が勇者をうとんでいる → 勇者の人気はすごいよ!
×死因は窒息死 → 外傷はなかったよ
×透明人間が通ったみたいです → ドアのあく音だけが聞こえました
6.システムを決めよう
ここで議論時間、密談の有無、カード公開の可否などを決めていく。
【タイムスケジュール】
・キャラクター決め
・ハンドアウト読み込み
・調査フェイズ(前半) 20分
・推理フェイズ 各1分
・調査フェイズ(後半) 20分 ※経験者が多い場合は取得できるカードを2枚にしてもよい
・推理フェイズ 全員での議論5分 その後、各自1分の推理発表
・投票フェイズ(犯人投票)
・エンディング ※エピローグを描写する
作品自体は初心者向けなので、議論時間をすこし長めにとってある。
上級者がいる場合には調整できるように、あとから改定を加えた。
【ルール説明】
・プレイヤーは全て嘘をついてOKです
・カードには所有権があります。他プレイヤーへの譲渡・交換も可能です。ただし、全体公開はできません。
・調査フェイズ前半・後半では各フェイズ3枚ずつカードを確認できます。証言・アイテムカード合わせて3枚です。
・証言カードはすべて”場に戻す”カードになります。重複して確認することができます。全体公開はできません
・調査フェイズでは自分の部屋のカードを取得することはできません。また、同一フェイズ中に、同じプレイヤーが2枚以上同じ部屋のカードを取得することもできません。
・投票が同数だった場合には、再度決選投票を行ってください。
・調査フェイズ中は、1対1で密談を行うことができます。ただし、2組同時の密談はできません。
・推理発表の順番は自由です
GMレスに必要な情報は、おおがね網羅している。
・カードの扱いについて
・嘘の可否について
・同数投票の扱いについて
・密談について
その他、必要だと思ったことはすべて記述しておくといい。
ちょっと過剰なくらいに書いておくのが、ルールブックには必要だ。
ここで大事なのは、用語を統一すること。
たとえば、「調査フェイズ」を途中で「調査ターン」など表記しないように注意する。
用語がぶれてしまうと、プレイヤーはどの言葉を指しているのかわからなくなってしまう。
7.デザインしよう
これでゲームに必要な最低限の情報はすべてそろった。
テストプレイをしてみても大丈夫な状態だ。
ただ、もうすこし情報を整理してからのほうが、プレイヤーにとって親切だろう。
ゲームプレイに集中してもらうことで、本質的な「楽しい」「楽しくない」のジャッジをしてもらったほうがいい。
そこで、各キャラクターのハンドアウトをデザインしていく。
ここに必要な情報は、
1.キャラの設定、目的
2.事件当日の行動
3.部屋にある証拠品の内容
これをスッキリとまとめると、プレイヤーは情報の整理がしやすくなる。
そのほか、事件までのいきさつを説明するプロローグ、投票後の行動を描くエピローグ、登場人物の見た目と簡単な設定だけがわかる登場人物一覧などを用意できるといい。
プロローグ
登場人物紹介
ハンドアウト
8.テストプレイしよう
ほぼ作品は完成している。
ただ、これをきちんとした「マダミス」にするためには、ブラッシュアップが欠かせない。
誤字・脱字をきちんとチェックして、テストプレイヤーを集めよう。
ここでのチェック項目は、どこが楽しかったかよりも、どこがつまらなかったか、分かりづらかったか、を重視しよう。
そして、多くの人は「こうしたほうがいいよ」というのをセットで教えてくれると思うが、その改善方法を考えるのはあくまで作者だという意識を持っていなければならない。
プレイヤーは、つまらない部分には敏感だが、かならずしもその解決法を生み出すプロではない。
以下、初回テストプレイ後のデザイン担当のゆっきーとのメールの抜粋。
修正点
・学者のアイテムの「手紙」を「封筒」に変更(所持品カード&プロフィールの所持アイテム表記&ミッション内表記)
・学者の昨夜の行動の26時の説明を下記に変更
国王からもらっていた鍵を使って、勇者の部屋に侵入。なぜか鍵が開いていたため音を立ててしまい焦るが、誰にも見つからず入り込み、スライムを使って窒息死させる。使ったスライムは格子窓から外に逃がす。鍵は勇者の部屋に残して立ち去る。
・魔法使いのプロフィールの下記部分を変更
僧侶に手を出して→他の女に手を出して
駆け落ちするつもりで、生活資金のために→結婚して、お城の近くに家を建てる資金を得るために
・魔法使いのスケジュールに下記を追加
20:00 勇者からもらった部屋の鍵を吟遊詩人に渡す
・吟遊詩人の部屋のアイテム表記誤字
遠いい→遠い
催促状→督促状(とくそくじょう)
・戦士の日記帳の説明を変更
勇者から受けたパワハラが記録されている。
人に見られるわけにはいかない。(プロフィールカードと、所持品カードの両方)
・ルール説明に以下を追記(推理の順番は自由ですの下に)
最多得票者が複数いた場合は、それぞれ各自1分の弁明をした上で、再度決選投票をします。
・ルールの推理時間を変更
各自3分→各自1分
この段階でも、けっこう説明文の表記や、システム面を修正している。
おもにプレイヤーが誤解・混乱してしまったハンドアウトの表記や、誤字脱字、それからゲームの進行に関する部分を手直しした。
テストプレイの方針については、以下の記事がとても参考になる。
9.公開しよう
テストプレイを繰りかえし、期待の新作はこれで完成した!
あとはできるだけ多くの人のもとに届けるだけだ!
販売サイトは、とくだんの事情がなければBoothがメジャーだろう。
支払い方法も多様だし、作者へのメッセージも送れるので、不具合などがあったばあいには報告してもらえる。
ただ、アップロードの際にいくつか注意点がある。
1.文字化け対応
MacでZip化したファイルがWindowsで開けないという場合がある(逆もまた然り)ので、Zipを使用するときは注意しよう。
私はMacユーザーなので、WinArchiver Liteというソフトを使ってZip化している。
2.ファイルの形態
ネタバレ要素をふくむハンドアウトなどのデータは、サムネイルが見えてしまう可能性があるため、JPEGではなくPDFにするのが望ましい。
また、データサイズも大きくなりすぎないよう注意しよう。
3.注意書き
ベストアンサーズの商品ページには以下のような注意書きを入れている。
本作品の無断転載はご遠慮ください。感想は大歓迎です!
ツイッター等で発信する際には、ネタバレにご注意ください。
動画配信につきましては、
収益が発生しない場合には下記を守っていただければご自由に使っていただけます。
1.タイトルなどにネタバレ注意の文言を入れること
2.動画冒頭でも上記内容を伝えること
3.概要欄に販売ページのリンク及び製作者クレジットを入れること
4.事前に配信希望のご連絡をいただくこと
収益が発生する場合にはライセンスのご購入をしていただきますので、別途ご相談させていただけますようお願いいたします。
ネタバレ防止喚起、改変不可、著作権の帰属や、配信についてのルールなどを明記しておくとトラブル予防になる。
まあ大体予想されることは著作権侵害ではあるのだが、侵害するほうが法律を理解していないことも多いので、しっかりと記入しておくのが良いだろう。
実際にあったトラブルの一例がこちら
(ベストアンサーズは関与していません)
価格は難しいところだが、多くの人に遊んでもらいたいなら無料でもいいし、500円くらいの値付けをしてみるのもいいだろう。
私はきちんと作者還元をしたかったので、すべて有料にしている。
ちなみに「勇者は殺されてしまった!」はデザイン担当のゆっきーにすべて売上を渡しているので、シナリオ担当の私には1円も入っていない。
10.宣伝しよう
ここからは番外編なので、もしここまでの記事が面白かった、ためになったと思う人がいたら、購入してみてほしい。
「勇者は殺されてしまった」はほとんど宣伝しなかったので、新作「黄昏からの手紙」のときに有効だったなと思う方法を紹介していく。
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