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気持ち長いぜPコミュマイベスト10 in 2023


はじめに

あっという間に過ぎ去る秋を惜しむ暇もなく異常気象に振り回された12月ももう終わろうとしていますが、皆さま如何お過ごしでしょうか。私はいつもより数日早く記事を書き上げられて胸を撫でおろしています。

2023年といえば、うーん……なんといっても「税」らしいですからねぇ。中東情勢の悪化とかもあって嫌な世の中感ばかり加速した感はありますが、シャニマスまわりでちょこちょこ反応貰いましたし、何より待ちに待ったアーマードコア6が本当に良かったので2023年はトータルでは良い年だったと思います。誰でもクリアできるし、謎にシャニマスとの親和性の高い台詞もたくさん聞けて笑えるので皆さん是非お買い求めくださいね。

さて、シャニマスとしての振り返りは最後にするとして一応説明しておくと、本記事は私が毎年やっている年間Pカードベスト10企画になります。去年より若干長いっぽいので、年末でやる気のない在宅ワークや移動時間で気が向いた際のお供にでもしていただければ幸いです。

過去の同じ企画記事はマガジンにまとめました。

2023年のPカード振り返り

実装日基準で2023年実装の全Pカードを振り返っていきます。列挙ってぼちぼち面倒で去年で辞めたかったんですが、マイソングスコレクション(以下MSC)の登場によって状況が一変したため続投。なお未所持のものは選評対象外となります。

1月 7枚
【ひとひらで紡ぐ世界】桑山千雪
【DE-S!GN】市川雛菜
【#3738 Custom Order】西城樹里
【ノー・ライフ】三峰結華
【↓ろウTea】七草にちか
【ずっと・グッド・ラック】八宮めぐる(MSC/未所持)
【Boiling Sky】芹沢あさひ(MSC)
2月 4枚
【夜はなにいろ】浅倉透
【福はうち】福丸小糸
【甜ing Room】大崎甜花
【Anti-Gravity】芹沢あさひ
3月 7枚
【陽の光、透かせば】西城樹里(MSC)
【バグ・ル】樋口円香(MSC/未所持)
【うつくしいあした】園田智代子
【ちぐはぐ姫】芹沢あさひ
【よか匂いのする陽気やけん】月岡恋鐘
【UNCHARTE:D】市川雛菜(MSC)
【耿耿】風野灯織(MSC)
4月 6枚
【セピア色の孤独】福丸小糸
【broken shout】斑鳩ルカ
【名モナキ夜ノ標ニ】黛冬優子(MSC)
【聞いてマイハート】大崎甘奈(MSC)
【花は】杜野凛世
【エバー・リメンバー・ネバー】風野灯織
5月 5枚
【私をときめかせて】白瀬咲耶
【チョコ for Y♡U】園田智代子(MSC)
【PURPLE M】田中摩美々(MSC)
【うちと幸せ】和泉愛依
【空・風・明・鳴】幽谷霧子
6月 3枚
【Birdy BUddy】有栖川夏葉
【Eve】大崎甜花
【DIVA】緋田美琴
7月 5枚
【Be red】ルビー(コラボ)
【両手に兄!】小宮果穂
【Be white】有馬かな(コラボ)
【こころレイヤリング】八宮めぐる
【キン・コン】樋口円香
8月 5枚
【落ちる音がする】白瀬咲耶
【カラーズキャッチ!】小宮果穂(MSC)
【ふらiとぅTHE】七草にちか(MSC/未所持)
【ネームレス・ヘヴンに憧れて】桑山千雪
【Clashmade】西城樹里
9月 5枚
【窓・送・巡・歌】幽谷霧子
【すれちがいシアター】大崎甘奈
【Blind Driver】斑鳩ルカ
【雲のかなたまで】福丸小糸(MSC)
【鏡界フィクションレイン】三峰結華(MSC/未所持)
【とキどき間氷期】七草にちか
10月 5枚
【まみみスイッチ】田中摩美々
【Keep→it up♡】市川雛菜(未所持)
【ビューティ/フル】有栖川夏葉(MSC/未所持)
【何度転んだって】和泉愛依(MSC/未所持)
【ふたり色クレオール】八宮めぐる
11月 3枚
【三文ノワール】黛冬優子
【Kn☆cking.Kn☆cking.】園田智代子
【剝がされて、虚ろ】桑山千雪
12月 5枚
【染光満月】杜野凛世(MSC)
【あてもなく、風】浅倉透(MSC)
【ふりそそぐもの】月岡恋鐘
【Hopeland】郁田はるき
【Eyes on you】鈴木羽那

10月以降の人質全切りした影響でサポがかなり空いた

2020~2022は毎年51枚のpカードが実装されていたのですが(私調べ)、2023年は10/15のMSC実装で53枚となりこの記録を抜き、最終的には61枚となりました。もっとも大半のプレイヤーはマイコレ全部など入手できるはずもなく、本来は各種報酬として配布されていたpSRが3月の【ちぐはぐ姫】以降途絶えてしまっていることから実感とは乖離しているという方が多いでしょう。

ここまで行くと流石にマイノリティだと思いますが、自分はMVというもの一般に本当に興味がなくて……MSCどころかシャニソンのMVもほぼ見ていないのでそのクオリティは肯定も否定も出来ないのですが、やっぱり読み物として見た時に尺が(よくて)SRと同程度で選択肢もないのは、、、というのが正直な感想になってしまいますね。まぁ、愚痴は一旦この辺にします。

以下本題。

10位【Eyes on you】鈴木羽那

CoNVERSION 羽那ガシャ
2023/12/20-2023/12/31

ある意味でベスト1を選ぶのと同じくらい難しいのがこの辺の順位だと前にも言ったような気もしますが、今年は特にそうでした。というのも上位が年の最後尾に集中していたこともあり、競合が押し出される格好になったからです。そんな10位として選んだのが本カード。正直なところ、カード単体としての話の面白さやシーンごとのインパクトでこれに勝るものは他にもいくつかあったのですが、私が羽那WINGに抱いたマイナスの印象をある程度補填するものだったこと・イベントシナリオ「バイ・スパイラル」に対して抱いていた強烈な不満と疑問を肯定してくれそうな予感がしたことの2点で本カードを選定しました。多分に政治的な理由であることは重々承知していますが、それほどまでに上記の負債は私にとって大きいので……

本カードは大別して

  1. 羽那が撮影を苦手とすることを通した彼女の主体性のなさの強調

  2. アイドルという人を売り物にする商売の道義的な正当性への疑問の提示

  3. アイドルのプライベートが大衆に同意なく蝕まれることへの警鐘

といった要素で構成されていると思います。

1についてはWING内でもはっきりと描かれていたとおりですが、巷で言われているようにプロデューサーの台詞が多すぎて彼女自身のパーソナリティがほとんど全くと言っていい程見えてこないという問題がありました。もちろん「見せたい自分を持たないこと」がポイントになるというのは明らかでしたし、そういう意味ではその感想で正しかったのでしょうが、余りにも描写が少なすぎるせいで「読者を信頼した描写」ではなく「読者に甘えた描写」になっているように感じました。その線引きが相当な程度感覚論であることは理解していますが、追加アイドル実装に伴って引き上げられたハードルは越えられなかったなというのが私の印象でした。

その点、pSSRで改めてこの問題にフォーカスしたことで彼女の抱える問題がそれであるとちゃんと示せたと思いますが、この問題提起は次の要素にも関係しています。

2については羽那の服を買いに行く際に、彼女が人だかりが出来るほどたくさんの人から声をかけられてしまった事件の中で言及されます。アイドルのスカウトとはつまり、お世辞にもクリーンとは言えない業界に年端もいかない少女たちを勧誘する行為であり、仮に自分たちが完全に潔癖だったとしてもその是非をはっきり白だと言いきることは難しいでしょう。

もっともスカウトされる彼女たちにだってスカウトを受ける/受けないを選ぶ自由と選択の責任が(未成年であるとはいえ)ありますし、思考する能力があります。通常はこうしたコンプレックスのうえにアイドルの業が成り立つわけですが、羽那の主体性の希薄さがそれに及ぼす影響は少し面白いネタかもしれません。

3はプライベートを盗撮・拡散されてしまう事件についての言及です。1枚目がその様子、2枚目がそれを受けたプロデューサーの反応。

結局このあと会話は強制的に切り上げられてしまうのでこれ以上特に発展しないのですが、私はこのコミュを読んで僅かに、でも確かに安堵しました。それと同時にコメティックシナリオが大局的で統一的な視点のもとに製作されているのかという疑問が生じていたりもするのですが、その理由については【ふたり色クレオール】の項にてぶちまけたのでここでは省略します。

以上、カード外への言及が大半を占めてしまいましたが、コメティックのなんとなくの方向性を薄っすら示すことは出来たかも…..?というアレで評価しました。ただ現状は他の283アイドルたちを使っても描けたことじゃないのかという疑問は残ったままなので、この子たちじゃないといけない理由を上手に描いていってほしいですね。

9位【窓・送・巡・歌】幽谷霧子

霧と転じゆくものたち 霧子・真乃ガシャ
2023/9/11-2023/9/21

ちょっとした縁から番組のナビゲーターを担当することになった霧子が、とある画家の足跡を辿るというお話。ウチにテレビは無いですし、実家に居た頃だってもうほとんど観ていなかったのですっかり遠い記憶ですが、番組の雰囲気的にはBSか、地上波だと朝5時とか夜11時すぎとかにひっそりとやっている感じがします。今もああいう番組やっているのかしら……と言いつつあまり膨らませようもないのでとっとと内容の方に移ろうと思います。

まずカードタイトルですよね。窓送→(そうそう)→葬送ですし、「巡」は輪廻ですし、かなり直球なタイトルのカードです。今にして思えば【夕・音・鳴・鳴】の「われたよ」時点でそうだったんですが、どんだけ輪廻転生好きやねんとやや面白味が勝りつつあるのは内緒。

看板に偽りなく「葬送」と「巡」を語ったカードではありつつ、比重としては「巡」の方が大きかったのかなという印象ですね。「葬送」≒見送りのシーンとしては2つだったのかなと思います。

ひとつは勿論、アニメーションにもなった蝶を見送る場面。離れのアトリエに入り込んだ(帰ってきた)蝶は転生した画家であり、窓を開けて外界へと解き放つことで更なる転生へと向かう彼を見送ったということかな。

スクショ難しい

この”お見送り”はコミュ4で行われるのですが、コミュ3において今回の番組のネタであるこの画家には「キリコ」という名前の娘がいたそうです。それが霧子を起用した理由のひとつだったらしいとプロデューサーが伝えたところ、彼女は「(画家に)呼ばれたのかもしれない」と想像します。単に誰かに送りだしてもらわなければ旅立てなかったからなのか、画家は自らの新たな旅出を娘に見立てた誰かに見守ってほしかったのか。霧子の「物語」が正しいと仮定してですが、その人となりを想像してみるのもまた一興。

「私たち」は「ずっと遠く、日の沈む方」に向かっている。

もうひとつの「葬送」はコミュ2の選択肢左で見つけることが出来ます。額面通りに読めばロケ地は東京から遠く離れた西日本のどこかだということでしかありませんが、はてさて本当にそれだけでしょうかね。

また先ほどにも書いたように、巾着になったちりめん、移り変わっていく車窓の景色、戦争とともに各地へと流されていく画家.…..と、「巡」の要素はかなり目立つというか数多く散りばめられていたかなと思います。

巾着≒霧子
番組ではシベリアの体験などももう少しフォーカスしたりするのでしょうか

加えて今回は、転生の前後における連続性についても言及していることが(過去の霧子コミュから考えると)画期的というか、印象的でした。

トンネル前後の世界が別のものなら不連続
一方で観測者たる乗客たちは連続

最も分かり易いのはこの新幹線での会話ですが、 遠く離れても巾着には家の匂いが感じられたり、ロケ地から帰ってきたふたりの服にホコリが残っていたり。もちろん画家の強い望郷の念もそうです。場所や姿が変わっても変わらずに残り続けるものこそが「魂」である、ということなんでしょうかね。

余所者にとっては何もない場所は、しかし画家にとっては沢山の音や匂いに満ちた場所であり、
異国の戦地にあってもずっと忘れなかった故郷だった。

霧子自身は【夕・音・鳴・鳴】でも言っているように(画家ほどの)場所自体への強いこだわりはないようですが、この「いつか帰るところ」への強い関心のようなものはシャニマス全体を通してたびたび感じるんですよね。恋鐘にとっての長崎、ノクチルにとっての「陸」、天井が探していた「家」。考えてみるとこれらの場所も何かの終わりであり、また始まりです。こういう符号を探すのはやっぱり楽しいですね。

それにしてもギリギリ視界の端っこに捉える程度とはいえ、「戦争」を扱うとは思ってもいませんでした(それでもセンシティブな領域ゆえの9/10実装ということだったのかなと邪推)。しかし、この題材選定は意外と必然なのかもしれないなと今ふと思いました。シャニマスの描くものが人や社会の性であるとするならば、個人と世界の玉突き事故的なダイナミクスが行きつく最悪の現象としての戦争もまた人によって営まれるものであり、私たちと地続きのものだからです。

これは願望ですが、小泉悠にシャニマス読んでほしい。適性あるから。

8位【ネームレス・ヘヴンに憧れて】桑山千雪

トワイライツコレクション
2023/8/21-2023/8/31

南のリゾート、から少し外れた島でのグラビア撮影のさなか出会った地元住民の少女「ヨシエ」との交流を描いた一枚です。「地に足をつけた」雰囲気を狙ってのロケ地選定だそうなんですが、これは「地に足をつけた」雰囲気なんですかね?

まぁそれはさておき、南洋幻想っていう言葉があるらしいです。wikipediaによると

寒冷な地域に出生した人が「南の島」や「南洋」に憧れを抱く感情、あるいはその概念。(中略)日本人が国名が示されることの無い「南の島」という言葉や「南洋」という言葉に抱く漠然とした「暖かく、未知の発見と出会いのある、ロマンチックなユートピア」であるというイメージはこうした背景から生まれている[13]

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E6%B4%8B%E5%B9%BB%E6%83%B3

だそうです。wikipediaのベタ張りとか中学生ぶりかもしれない。こういうイメージはまぁ確かに馴染み深いもので、これがカード名の意味するところなんでしょうね。

「あなたは―――(詠唱破棄)」

そんな"ネームレス・ヘヴン"で出会った少女であるヨシエは、住民同士の繋がりが強固な島での暮らしを窮屈に感じており、学校の卒業と同時に島を出ることを考えていました。島を出て都会に行けば、本当の自分を解放して生きられるかもしれないと。都会もまた、ヨシエにとっては"ネームレス・ヘヴン"だったという構造ですね。

そういうやつも居るから間違ってないぞ

それを過去の自分の似姿のようだと感じた千雪は、「夏の宿題」としてヨシエの悩みにどんなアドバイスを与えるか考えていく……というのが本カードの要旨です。WING(およびその前日譚たるSTEP)からの千雪の歩みを振り返る契機にもなりつつ、所謂「283の論理」の要諦である「選択と幸福」についての関係と思想を端的かつ明快に理解できる非常に優れたコミュであり、未読の方にはぜひお勧めしたい一枚ですね。

ただこのカード、千雪とプロデューサーのやり取りが達人同士のそれ過ぎて最早オモロの領域に片足を突っ込んでいて、もちろんノイズではないんですが、「こいつら……」という感覚が常につきまとうことでしょう。

凄いよなこの女
凄いよなこの男
なおこの場面、ヨシエがPに会釈してから慌てて退室した様子がSEから分かる

どちらの文脈でもサビを切り出そうとすると本当にキリがないので、短いですがこのカードの紹介はここまでにしておきます。さすがは桑山千雪と言ったところで、そういう意味でも必見の一枚でした。

7位【ふりそそぐもの】月岡恋鐘

期間限定 名を知るや、果てなく降りつむ純白の
恋鐘・あさひスタンプガシャPlus
2023/12/11-2023/12/20

もともと【よか匂いのする陽気やけん】を読んだ3月時点では「これがランクインするだろうな」と考えていました。恋鐘の優しさに深みをプラスするものだったというのがメインの理由ですが、加えてそれが斑鳩ルカと283プロの関わり方をも予感させる内容だったためでした。ただ、どうにもルカ軸の展開が予想と異なる方向に転がりだしたので評価に悩んでいたところ、恋鐘の恋を語るものとして優れたこちらに変更しました。思いっきり代替案として採用しておいてなんですが、ルカ抜きにしてもどちらも良コミュであることは付言させてください。

【ふりそそぐもの】は、あるメジャーバンドから新曲のコーラスおよびMVの撮影を依頼されるお話です。ラブソングであるこの曲は既に歌詞が先行して決まっていたものの歌い上げの方向性に彼ら自身悩んでおり、コーラスを依頼する恋鐘を巻き込む形で恋愛観について掘り下げていく……というもの。恋愛観とはいうもののアニメーション演出の萌え萌えな印象とは裏腹に真面目なトーンなので、アニメ演出が足引っ張ってるのではという気がしなくもない。ちなみにこれはMVのワンカットという位置づけですが、後述する通りしっとりした曲なので曲の方向性とも合致していないのではと……

食リポそんな観点で見る奴いないだろ

あらすじについては上に書いた通りですが、恋鐘に白羽の矢を立てた経緯は「グルメリポの様子を見てその優しさ・善性に感銘した」というなかなかに笑えるもの。本人たちはいたって真剣にそう思っているので微笑ましいと言うべきでしょうね。

さて、そんな彼らの曲と恋鐘の「愛情」に向ける熱意と信頼に気圧されてしまった彼女は曲の解釈や自身の「愛情」をうまく言語化できません。咄嗟に割って入ったプロデューサーの助けで、それは宿題となります。

コミュ2:「こんなにわかってくれるのに」

その「宿題」の中で最も解釈に苦戦したのがこの部分。叶わぬ片恋にあっても想い人の幸せを祈る姿に強く惹かれる、だからちゃんと向き合いたいと。他ならぬ彼女自身がそういう恋をしているからというのは、この男以外の誰もが知っていることでしょう……と言うといつもの「クソボケ朴念仁ラブコメね~」と片付けてしまいそうなのですが、通しの印象だと切なさ、もの悲しさが勝つような気がします。

ギタリストが語った恋鐘を選定した当初の理由は、歌詞の女の子の持つ「温かく、明るい光のような気質を曲ではなく、歌い手そのものから出す」ことで説得力を持たせるためでした。ただ結果としてそれは彼らの期待以上だったと言います。その理由はコミュ中では明言されませんが、彼らも恋鐘の「恋」に気づいたということなのでしょうね。それをボカしたTrueのラジオでの振る舞いを見るに、彼らもかなり善の側に立った人物だと思います。

ところで結局恋鐘は、「『自分の恋もあの人の恋も白く美しい雪の下に眠らせられたらいい』と考えているのかもしれない」という解釈で歌ったようなのですが、彼女自身はそうはできないとプロデューサーに語ります。それはつまり自身の恋を明言するに近しく、流石にそれが分からない程ではなかったようです。

この先の決定的なシーンは敢えて掲載しませんが、彼女の「恋」の先がこれより描かれることはきっとないでしょう。やはり、カメラの束縛から解き放ってやってほしいなと切に思います。

6位【うつくしいあした】園田智代子

屑星 one スクープ 智代子・咲耶スタンプガシャ
2023/3/10-2023/3/19

智代子がアイドルとなったきっかけである「瀬野あすみ」(フルネームとしては本カードで初公開)のエピソードがゴシップによって明かされてしまう話。拾った情報ですが「美しい明日」に掛けているとのことで、なるほど。

私は試し読み機能を使わないのですが、てっきりこの「発端の話はNGで」の部分が試し読みとして出ているのかな~と思って読んでいました。読み終わってからネットを覗いたらざわついていたので確認したら、思い切りゴシップのとこで驚きましたね。

嫉妬!嫉妬なんですかあっ?
やかましいわ

この記事がいやらしいのは、一部は筋が通っているところです。たしかに書類選考を迂回して合格したのは事実であり、その点でフェアではないと指摘するだけであれば抗議は難しいでしょう。書類選考に落ちた当該ロットの参加者たちにしてみればごもっともであり、タレコミのように書類選考を突破した参加者たちにしても共通の評価基準に即していないのではと疑うことも理解は出来ます。もっとも、後者たちは(仮にゲタを履いていたとしても)智代子に対する優位を示せなかったといえばそれまでですが。この点については後ほど彼自身がそっくりそのまま発言してくれるのですが、おおむね事務所側の責任でしょう。

問題は以下の部分です。

駄文トリミングするこっちの身にもなれ

記事は智代子のオーディション参加の経緯を「意図的な計画」であると断定し、瀬野あすみへの攻撃を行いました。ここには一切の根拠も正当性もありません。ゴシップなんて燃やせればあとはどうでもいいんでしょうが、ムカつく話ですね。この嫌さを狙って出力できるってのもどうなんだただこのガバガバな隙があるおかげで事務所としても正当に抗議出来る大義名分を得られた訳なので、良いんだか悪いんだかよく分からない。これが阿久井とかだと隙を見せなそうなので二度と登場しなくていいぞ。

初の改行なし+ポポポ音区切りなしの台詞送り
この後のSEってスマホ投げてるんですかねやっぱ

安っぽい表現ですが、聖人揃いの初期組の中でもトップクラスの聖人である智代子と言わずもがなプロデューサーが(真っ当ではあるものの)「強い怒りと悲しみ」に打ち震えるのはインパクトがありましたね。

それでも自分の責任だと言いきるあたりは二人の少し違う所というか、彼女が徹底してるところ( 彼なら自分の不足は認めつつ、「間違っているもの」に対して憤りを見せたんじゃないでしょうか)。それでもやっぱりこのふたりって似ているなと思います。

「雨なんて降って―――」
「いや 雨だよ」

このシーン、【ちょこ色×きらきらロマン】の「走れ、届け、どうか どうか」を彷彿とさせる感じになっていて(あの時とは構図が逆ですが)かなり良かったな。しかし「噓の無いアイドルで在りつづける」のが彼女の誓いであるならば、この「雨」は数少ない例外ということになるんでしょうか。ニクいね。

あんまり関係ないけどSTEP何やること残ってるんでしょうかね?

5位【Anti-Gravity】芹沢あさひ

期間限定零れ落ちる色たちのイデアリスム
あさひ・灯織スタンプガシャPlus
2023/2/28-2023/3/10

ダンスの舞台オーディションをめぐる一幕についてのお話。そのお題目である「重力」を表現するフロアダンスが読解のポイントなのですが、「ダンスという身体動作そのものの写実的な描写」を試みたことも本カードの大きな特徴であろうと思います。あくまで飼い慣らされた人間の感覚ですが、アニメーション演出も相まってそれはかなり上手く行ったほうなのではないかと思います。

ダンスのジャンルとしては何なんでしょうね。「Wintermute,dawn」(以下WMD)で彼女が習っていたのはコンテンポラリーだと明言されていましたが、それとはまた違うんでしょうか?いちおう「コンテンポラリーダンス」で雑に検索して出てきた以下の動画では「コンテンポラリーに技名はあまりない」と言われており、それを鵜呑みにするとやっぱり違う……のかな?動きとしては近そうですけど。

【Anti-Gravity】における「重力」とはすなわち「他者との関係」を指しているのだと思います。まぁ、モチーフとしての重力を扱ったり示唆したりしたのは何も本カードが初めてという訳ではないのですが。

オカン冬優子

LP~【ひかりしめすは】に観察された直近のトレンドである「あさひが他者に愛を返すこと」からは少し外れ、改めて「他者から受け取る愛」そのものにフォーカスしなおしたコミュだったのが本カード(およびWMD)だったのかなと。

ただ「愛」とポジティブには表現しつつ、ハートフル100%な話だったかというと全くもってそうではありませんでした。むしろ「あさひにはこうあってほしい」という、ともすれば押し付けがましくすらある願望の方が(特に序盤で)目立つ構成にすらなっており、GRAD・【不機嫌なテーマパーク】で顕著にみられた単方向的なコミュニケーションを思い起こさせるような流れでした。「重力」の負の側面というやつですね。

余談ですが、私はあれらに一定の理解は示す立場を取っているものの、流石にその前後と比較して見劣りしない話だったとまでは思っていません。

提出稿は会心の出来なので、表現そのものに何か違和感があった

その意味で、上記のように違和感を不合格通知の場=舞台稽古見学で光の演出を見る前に表明していることは注目に値するでしょう。

結論それは舞台演出に合わせた動作のチューニングに対するものであり、彼女の演出に対する理解や直感が優れていたという証左だった訳ですね。それを逆手に取った彼女は「誰も見ていないならその制約≒重力を取っ払うことができ、そのダンスを自分のものとして踊れる」と考え、しかしプロデューサーに観客でいることを要請しました。

背景はSTEPからの引用

自由でいるためには拘束を拒絶する必要があり、しかしその代償として訪れる孤独から救ってくれる誰かをも同時に求める。単純化してしまえばなんとも身勝手な話ですが、そうした相反する願いに揺れ動かされてしまうのが人の情というもので、これぞあさひシナリオだよなぁと涙の滲む良作でした。

ところで本カードは2023/2/28実装だったのですが、つまり「セヴン#ス」と同時実装だったということなのですよ。そう考えると、「誰も居なくても踊りたいが、誰かが見てくれたら舞台になる」という気づきは、実に含みのあるメッセージのように思えませんか?

4位【とキどき間氷期】七草にちか

続・おいてけぼり全集 にちか・智代子スタンプガシャPlus
2023/9/30-2023/10/10

かわいいですよね、がおにち。弊TLもしばらく彼女に蹂躙されてました。ゴジラって-1.0どころかシンすら観てないので何にも分からないですが、本コミュに怪獣要素が必要な理由はほぼないので、コスの選定はたぶん趣味なんでしょうね。攻撃的なところに着想を得たのかな?全体としては夜にち以降に鮮明になった「家族」についての1枚です。

ということで冒頭コミュ1では、まさにその家族であるはづきとの生っぽく、崩した口調での会話をこれでもかと繰り広げたあと、にちかが玄関の前でプロデューサーと出くわすところが描かれます。

いくら多少気心を知った相手とは言え、約束もないのに成人男性が自宅の前で待っていれば、場合によっては恐怖すら覚えられても仕方ないでしょう。それでも、たとえこの関係がどんなに歪だとしても、少しずつでも、あなたが私のために尽くしてくれていることを受け入れたい……というのが【泣けよ洗濯機】True以降のにちかの基本的な姿勢だったと思います。

「ありが―――」

そのためわざわざ鍵を持ってきてくれたことに感謝しようとしますが、それは他ならぬプロデューサー自身の常識的な「撤退」によって意図せずかき消されてしまいます。この状況そのものの異常さに加え、「家(ここでは家族のほうが適切かも)」の領分に接近することへの烏滸がましさを彼は重々承知しているからです。お互い、それをはっきりと言葉にはしませんが。

取り繕おうとした言葉さえも「あなたとは違って」に繋がってしまう

そしてドアが二人を家の内と外に別け隔て、生活音が部屋に寂しく響く。この歪な距離をめぐる二人の自意識と暗黙の了解が切なく、そして愛おしい。美しい……

このように例のごとく断絶に振り切った一枚なのかと思いきや、全体としてはむしろ受容を描いた一枚であり、それはカードタイトルにもなっている「間氷期」という言葉にも表れています。間氷期とは数万年のオーダーで地球の気候を見たときに繰り返される氷河期と氷河期の間の温暖な時期のことを言うそうで(現在がそうなのに、氷河期に対して圧倒的に聞き馴染み薄いのは何故?)、各コミュが「氷河期」「間氷期」に相当するのなら、断絶を描いたコミュ1とTrueへの布石であるコミュ3が前者、それ以外が後者になるのかな?

間氷期にあたるコミュ2「 ん ょう ←消すな笑」なんかは特に温暖というか、保護者の迎えが遅い子供(それはにちかの過去の姿に重なる)と遊んであげるにちかにプロデューサーが巻き込まれる形でかくれんぼするという話なのですが、全体的にこのコミュでのにちかの砕けた口調や非常に近い距離感に狂わされた人も多そうですね(笑)。

また本カードは9/30実装と言うことで例年通りひと月早いハロウィンコミュだった訳ですが、まさかハロウィンをお盆として使うとは。いや、もちろん元はそういう風習な訳ですが、今日この頃の日本とりわけ渋谷では仮装パーティーとしての地位を確立したという感覚があったので……

読んでる時コミュの流れをひとりで再現しちゃった

メイクスタッフもなかなか風変わりなところがありますが、それにしっかり感化されるくらいにはにちかも父親の姿を強く追い求めているということの裏返しでもあるんですよね。それを思うと、彼がその(敢えてこう言いますが)代わりを担おうとしていることを認識したうえで、(きっと代替としてではなくそれに込められた愛を)認めて報いることが如何に凄いことか。

来たるハロウィン当日、喧騒の中「すべてがあった頃」の記憶に耽るにちかは自分に呼びかける声を突如聴いた気がして、

思わずその言葉を口にしかけます。

結局、そこに立っていたのはプロデューサーでした。本当に会いに来てくれたのを邪魔されたのか、ただ幻に反応しただけだったのか。父に向けた胸中の言葉は父のような男に送られた格好となり、可笑しさと不満を混ぜこぜにしてぶつけたところでおしまいとなります。美しい……

間接的にとはいえ「いってらっしゃい」と「おかえり」を言えたことで、この「家族のような関係」は完結した……んだと思います、たぶん。同じ釜の飯を食らうではないですが、そういう余白が残されていない訳ではないものの、そこまで行くと二人の関係が行くところまで行ってしまった感じになってしまうので(婉曲的)そこまではやらないかもと思い直す近頃なのですが、皆さんのご意見はどうでしょうかね。

一方今後解決されるべき課題として残されているのはやはり「靴」ですが、こちらはこちらで解決のイメージが描けないというか、絶好のチャンスであるLPで意図的に回避したうえにそれを明言しているので困惑しているんですよね。してないとは思いつつ引けていないマイコレでやられてたらちょっと本気で凹みそうですが、LPですらついぞ叶わなかった瞬間はいつか来るんでしょうか。せめてそれだけでも見届けたい……それだけは……

3位【三文ノワール】黛冬優子

ものみな素描で終わる 冬優子・咲耶ガシャ
2023/11/13-2023/11/21

今年最も話題になったであろう問題作。当初は本記事中で所感をまとめていた所やや長くなり過ぎたので単独で記事化しました。のですが、なんだかんだ他のカードの記述も長くなってしまい結果としてバランスに欠ける構成となってしまったかも。

ご興味があれば魚の餌にでもしてやってくださればと思いますが、二、三付け加えて考えたことがあったのでこの場で追記しようかなと思います。

  • 映画の結末の解釈について

この感想の中では「冬優子扮する"ユウコ"が映画のラストシーンにおいて入水自殺した」との解釈を取り、その意味についてこう書きました。

芸術を時間に対する抵抗と考える彼は、義体による永遠の生ではなく自死による時間の停止を描いた。

私の中ではこの解釈自体に特に変更はありませんが、自死=時間の停止であると同時に「義体化とは異なる形の永遠の獲得」であることも表現すべきでした。監督はフィルムの役者たちを「幽霊」と呼びましたが、幽霊とは止まった時間の中で永遠に漂い続ける存在です。

  • ユウコの選択について

仮に「ユウコは入水自殺した」という説が正しかったとして、その選択はどう解釈すれば彼女の旅の目的に適うのかという視点が欠落していました。彼女は特殊な能力を行使して人々を救うことだけが、あと僅かな寿命の自分に残された価値だと考えています。人々の救済だけを至上命題とするなら、義体化は本来願ってもない選択肢のはずです。正直これは結論から逆算するためのこじつけでしかないのですが、能力の行使を続けた先にある末路が自死よりも惨いものであり恐怖していたか、または「救済」だけが自身の価値であると突きつける旅そのものに疲れ果てたのかもしれません。いずれも妄想の域を出ないので、この説の弱点であることは認めざるをえないでしょう。

  • 本カードの特色について

本カードはおそらく2023年でも最も話題になったPカードの1つですが、アイドル以外の選択肢の提示にしてもアイドル活動の時間制限にしても、はたまたプロデューサーをカメラの中に引き込むべきか否かみたいな話にしても既にいくつもの類例があります。とすると本カードを異色たらしめるものはテーマの新規性ではなく、強烈な時事性と演出のレベルの高さでしょう。それだけで年間トップを食えるポテンシャルを持ったカードではありましたが、今の私の気持ちにより深くコミットしてくれるカードがあったためこの位置になりました。


2位【ふたり色クレオール】八宮めぐる

トワイライツコレクション
2023/10/30-2023/11/13

オファーを受けて出演予定のあったある舞台演劇。ところが制作内での認識齟齬が発覚し、役作りの大幅な修正か、降板の二択を迫られためぐるとプロデューサーの「選択」についてのお話です。実装前の生放送で公開されたアニメーションではPラブ的なアレかと騒がれましたが、こうした予想を大きく覆した格好となりました。

既に多くの方が指摘されていますが「めぐると演劇」というと、かの名作【チエルアルコは流星の】が連想されます。一応おさらいしておくと、めぐるの配役が脚本の見直しにより消失してしまったものの、プロデューサーの尽力によって当初とは別のキャラクターとして再び配役を獲得したというお話でした。前者はどこかかつてのめぐるを、後者は現在のめぐるを思わせるような人物像であることも印象的でしたね。

不朽の名作

【ふたり色クレオール】で起こった事件はそれとは似て非なるものでした。当初283プロ側が想定していたサウレ像は絵本版に基づくものでしたが、実は舞台は原作小説に立脚したものであり、そちらでは「息の根を止めることで苦しむ人々を救う」という人物だったのです。

めちゃくちゃ大ポカやんけ

にわかに舞台は「明るく優しい光の物語」というよりむしろその真逆の印象すら受けるものへと変わってしまいます。演出家はその不幸な行き違いに苦しむめぐるを労い、またその演技を素直に評価しつつ、これは仄暗い物語にしか救われない人々のためのものであると舞台への思いを吐露します。

「呼吸」の語彙をめぐるに結びつけるのは流石にやり過ぎか?

めぐるはその聡さと過去の経験から、ただ愚直に照らす光だけが全てではないことを知っています。ゆえに彼女は「夜の太陽」になりたいと告白しましたが、それはもちろん人々の苦しみ悩む心そのものを奪うことをソリューションとする訳ではありません。

s-SSR【ああひかりよ】コミュ2「よみちのみちしるべ」より。
夜の太陽=月では?とすぐに訂正されるのですが、
私はこの表現がとても強く印象に残っています

とはいえ仮にも正式に受けた仕事である以上、オーダーには応えるのが道理というものです。このジレンマに板挟みとなって上手くパフォーマンスを発揮できないめぐるのため、プロデューサーはある決意をします。「小説版の解釈に基づく舞台に、絵本版の解釈のサウレで登壇せよ」というものです。

もちろん演出家の了解を得る必要はあるにせよ、こんな突拍子もない第三の選択肢は二つ返事で了承できようはずもありません。「舞台が無茶苦茶になるのでは」と至極当然の疑問を呈するめぐるに、彼は「俺のためにそうしてほしい」と要請(細かいですが命令ではないのがミソ)します。

結局めぐるはその要請に応じることを「選択」したようです。そのおかげで舞台は大成功を収めた、はずもなく、賛否両論の結果となりました。ですが演出家はどこか満足げにプロデューサーに語りかけます。「世界の価値とわたしの選択」について。

私もこういうのを支持したい。
不条理に浸ってニヒリズム気取っても益がない

プロデューサーはそんな様子を強く回想しつつ、めぐるから「選択」を提示されるところで本コミュは結ばれます。

無数の選択肢からの選択

ところでシャニマスのシナリオでは「君はどうしたいのか」が最も重要なテーマとして取り上げられ、アイドルたちに対して幾度となく投げかけられています。主に初期のにちかWING評でしばしば見かけた(未だに擦ってる奴もたまにいる)「プロデューサーにちかのこと見てなくね論」についてはちゃんとイラついてるんですが、無論にちかシナリオにおいても根源的な問いとして設定されています。急になんだよという感じですけども、「人に聞くのは結構だけどもシャニP君さぁ、君はどうなん」というところは我々ウォッチャーとしては気にかけてきたんですよ(だからこそにちかWINGの先の発言に注目してきた訳です)。「プロデューサーとしての想い」が固まりつつある中で本格的に「個人としての想い」にも光が当て始められたとすると、やはりファンダムの議論にはかなりの程度回答を用意してくれるんだという期待は持っても良さそうだなと今回読んでいて思いました。

拙稿「今年もやりますPコミュマイベスト10 in 2022」より

これは去年の記事からの引用です。ウォッチャーとしてはドンピシャで鼻高々といったところ……と誇れるほど大層ではない初歩的なものですが、コンテクストを正しく抑えられているのはやはり気持ちがいいものですね。本コミュのメッセージとしては、単に「アイドル(たち)の選択」だけで世界が成り立つのではなく、「プロデューサーの選択」だけによって世界が成り立つのでもなく、「世界は人々の選択の掛け算によって成り立つ」というものだと思います。逆説的ですが、だからこそ個々人の選択が問われ、価値が生まれるのだと。シャニマス概論最新版としてこれ以上ないカードだったと思います。

【注意】以下は12/20以前に書かれたものであり、濾過されていない不満がぶちまけられています。クレオールそのものからは範囲を逸脱するので、よほどの物好き以外は無視することを推奨します。

さて、そんな大傑作だった【ふたり色クレオール】。ここにある寓意を読み取らんとするのは自然な心の動きでしょうか?私は「作品が立脚するイメージの大幅な転換」という舞台設定からは「斑鳩ルカ加入後のメッセージの変節」を真っ先に連想しました。

クレオールからルカを連想する割と自然な導線として、
クレオール→チエルアルコ→s-Rという流れもあるんですよね

せいいっぱい批判を抑制してルカを通して描きたがっているものを考えると、消しきれない衝動(ルカになお残るアイドルを続ける動機およびその強さ)と、闇による救済(この比喩むず痒いからなんとかしてくれ)の可能性なのだと思います。

こっちは嫌いじゃないというかむしろ好きなんですけどね
問題はこっち。これ撤回しないと無理だろ……

物語の見せ方についてはともかく作品が描きたいテーマとして考えた時、前者については特段の異論はないのですが、私が納得いっていないのは後者です。

想いが万人の心に響くものではないこと、直接は届かなくとも届いた誰かから別の誰かに伝播する、いわば回折のような形で届きうることや、それでも届き切らない人々がいることを真摯に描いたのが「YOUR/MY Love letter」でした。

スクショ撮影にあたって再読しましたが、やはり最高傑作です
これでもう十分以上にやりきったと思うんですが

イルミネ~シーズまでを十把一絡げに「光」として扱うことそのものに大きな疑問はあるものの、これからルカ軸で開拓したい領域がこの最後の人々なのだと解釈しています。それ自体は、とても難しいことだと思いますが、いいでしょう。

問題は、「闇による救済」の凡例としてバイ・スパイラルで描かれたのが「ヒステリーを起こして街中を走るルカを盗撮した映像が拡散され、それをみたAが救われた気分になる」というものだったことです。

あと、ここまで行くと医療の範囲じゃないですか?

こんなものは「消費」どころか、合意なき「搾取」以外の何物でもありません。病んでいるのは同じでも【X-DAY】で自主的に行っているファンサービスとは事情が違うのにそのことへの自己言及が全く見られないとなると、私にはただ中二病にかぶれただけの幼稚な主張としか思えませんし、もし物語構成上差し込めなかったというのであれば欠陥もいいところだと思います。仮に「救済を騙る搾取」のように批判的に描かれていたなら面白い構図も見えてきますが、実際には肯定的ですらある始末です。

そりゃ勝手に救われた気分になってる方はいいですよありふれた話でしょうよありふれた不条理に抵抗するのがシャニマスの良さじゃなかったのか不条理の再生産はガシャだけにしてくれよ

さて抑制すると言っておきながら溢れ出て止まらないこの憤懣、もしも、クレオールでの選択が「闇による救済()の肯定」への抵抗をも包含するものだったとしたら?欺瞞を否定してくれる気概の持ち主の参戦表明だったら?夢の見過ぎでしょうか。そうでしょうね。よしんばそうだとしても、それは作品全体として訴えていくメッセージにズレがあるということで、素直に喜んでいいことでもないでしょう。それでも全部がおかしくなっていくよりはずっとマシです。希望は喪いたくない……

願いを込めてベスト2ということで。

1位【DE-S!GN】市川雛菜

期間限定 sea in the fridge 雛菜・愛依スタンプガシャPlus
2023/1/10-2023/1/20

ということでマイベストin2023は【DE-S!GN】でした。4月の限定セレチケで交換する予定だったのですが、ラインナップの範囲が例年のものよりも狭められてしまったため8月のセレチケまで待たされてしまいました。ケチ臭い売り方に対する憤懣はともかく、雛菜のプロデュースコミュとしての構成要件とその完成度、何よりも上品な語り口で強く胸を打たれた一枚でした。

雛菜のカード命名法則に則って今回採用された単語は[design]。日常の語彙なので改めて確認するほどでもありませんが、一応ね。

「design」とは、一般的には何らかの目的機能を持つものを作り出すための計画構想意味する

https://www.weblio.jp/content/%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3

また本カードでは設計としての意味合いとは別に、[sign]が重要なワードとして機能します(「わたしのもの」としてsignすること)。接頭語[de]には複数の意味があるようですが、ここでは強調の意なのかなと思います。

さて、本カードの構成としては伏線となるコミュ1~3で「署名すること(=de-sign)」を強調し、それをコミュ4・Trueで回収しつつ「将来の設計(=design)」を語るものとなっているのですが、後段の厚みが凄いのと、記事の文章量の都合上ここでは前段について語ることは省略します。ただ基本的には「自分のものには『自分の名前』を署名すること」が述べられていると抑えていれば十分でしょう。

というわけで一気に飛ばして問題のコミュ4「VALUE!」です。たまたま車で海の近くに寄ったので散歩をする場面です。「車」「海」ですってよ。

海風に煽られてあわや帽子が飛ばされかけてしまう雛菜。そういえば帽子には名前を書いていなかったと最近の出来事を思い返しながら、唐突に「海にも名前を書くこと」を思いつきます。

書いた文字は『市川雛菜』。海を雛菜の所有物にすることはたぶんできないよとプロデューサーが笑うと、アイドルとしての『ひなな』サインに変えることにしたようです。

この台詞本当に素敵だなと思います。

雛菜は弱冠15歳にしてはとても達観した人生観の持ち主であり、WING時点で人生を運営する主体である自分自身の感覚こそが真に重要であると考えている様子がありました。ただ同時にそれは思考や可能性を閉じてしまう側面も持っていて、アイドル活動やプロデューサーとの対話を通して深化させてきたのがこれまでの歩みです。そう考えると、「今の自分にはそれほどの価値がない」というこの発言に含まれる客観的な視点からは確かな精神的な成長を感じられるというのがまず理由のひとつ。

もうひとつが「わけてもらう」という部分。これって不動産として海を所有するという話ではないですよね(というか日本では海岸は国有財産なので、プライベートビーチというのは実際には存在しないらしいです)。私自身明確にイメージできている訳ではないので綺麗に言語化するのは難しい……自己実現とか自己承認とか便利な言葉を使ってしまえばそれで終わる話かもしれませんが。

ノクチルにとっての「海」は「いつかたどり着く場所」であり、彼女たちの人生における大きなマイルストーンです。そんなとても大事なものを自分のものだと認めて受け取れるという状態は、自分が歩みたい生き方を理解し、今の自分は確かにその道のりに在ると肯定できる……ということだと思います。そんな未来に行きたいという希望が上品に表現された良い台詞です。

そしてここからの流れも本当にいい。

今はまだ海をもらう資格がない。どんな海にどうやって行きたいのか分かっていないから。ただ、きっとその海にはアイドル以外の幸せもあって、そこにたどり着くためには何かを選択しなければいけないかもしれない……そんな予感を貴方は理解してくれていた。

私と貴方は相異なる別個の人間であり、決してお互いにその心を見通すことは出来ないとかつて言った彼女が、それでも貴方は私であると認めることがどんな意味を持つのか。

そして、そんな貴方をいつか「わたしの海」に連れてきてあげると言うのがどんな意味を持つのかなど、言葉にするだけ野暮というものでしょう。

分かってんのか?

……と締めたかったところなのですが、ダメ押しと言わんばかりに出されるのがTrue『NAM/ED』。コミュ1で起きた事件(?)の埋め合わせとしてプロデューサーが買ってきたおやつが3個入りだったので、余った1個に名前を書くという流れ。ここまでは至極順当で平穏ですね。

書いたのは『市川雛菜』(重要)

しかし雛菜はふと「プロデューサーも自分のものである」と示すためにプロデューサーにサインを書かせることを思いつき、要求します。

まぁ、だいぶ萌え萌えですがこれもベタな展開。プロデューサーは少しの逡巡し、この後誰に会う予定もないからとじゃれあいに乗ることにしました。それならとペンを取った雛菜は、

『市川雛菜』と書こうとして、

『ひなな』に変えました。

最初は「『市川雛菜』じゃなくて『○○雛菜』になるかもしれないから、ってコト!?」と思ってかなりビビっていたんですが、読み返してみると流石にそこまで行くのはギャルゲ脳すぎたなと反省しています。ただ『市川雛菜その人としての持ち物』と『アイドルひななとしての持ち物』の区別があり、「『市川雛菜』のものではない」という判断が働いたのは事実です。それを「今は『市川雛菜』のものではないが、いつかそうなるまでは『ひなな』のものとしてサインする」と読むのは突飛な発想ではないと思うのですがどうでしょうか。もしそうだったら、洒落た愛の告白だと思いませんか?


総括

もしも全部(とまでは言わずともある程度)目を通していただいた方がいらっしゃればの話ですが、すみません、楽しい記事にはなっていなかったかもしれません。私はなるべく肯定的に、しかしなるべく公正を意識して読み、そして感じたことは正直に書こうと思ってシャニマスに接してきました。今でもそうです。たとえ「彼ら彼女らの日常をカメラで映したもの」という建付けであっても、それが創作である以上は創作として向き合うべきだし、シャニマスはその批判的な視線を跳ねのけるだけの説得力を持った誠実で素晴らしい物語だと信じているからです。ただこのポリシーのうち、「なるべく肯定的に」の部分は保ちきれなくなっているのかもしれません。私が思うその原因は4月以降の物語と展開が説得力と誠実さに欠けたものだったからですが、もしそうではなく、私の読解が激しく間違っていたり、感性が衰えたりしたからだったのだとしたら、大人しく身を引くべきなのでしょうね。これは意識的に書いてきたのですが、私は最後まで応援「する」のではなくて「できることを願う」というスタンスです。

斑鳩ルカの283プロへの加入およびコメティックの実装、新作ゲーム「シャニソン」の登場、アニメ化、コミカライズ、コラボ、エトセトラ。コンテンツ全体として見れば凄まじい供給の一年でした。たぶん過去最高でしょう。私がシャニマスに感じた不満のいくらかは、コンテンツ全体の施策や展開上の制約として生じたものだったのかもしれませんし、ローンチが落ち着いて運転が安定するようになれば、往時のシャニマスが私の前にも戻ってくるのかもしれません。それに考えようによっては、シャニソンが登場したことでシャニマスは終わることが出来るようになったのかもしれません。そう考えると悪いことばかりでもありませんね。少し気持ちが上向いたところで、本記事を締めたいと思います。

末筆ながらここまでお読みいただきありがとうございました。来たる6周年とその先のシャニマスが、私たちにとって良きものでありますように。

引用

12 もっと呑気に生きていけるように。 | この戦争は、私たちの日常とつながっていて。小泉悠×糸井重里 | 小泉悠 | ほぼ日刊イトイ新聞

【床の動き3選③】コンテンポラリーダンスのダンステクニック

長い目で見れば地球は寒冷化するってホント?→木野佳音|東京大学

ガシャ-シャニマス攻略 Wiki*(ガシャタイトルおよび期間の参考)

アイドルマスターシャイニーカラーズ

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