幼児的万能感と妥協のなかで

4月からとあるIT企業に就職し、研修がスタートしてから早くも1ヶ月が過ぎようとしている。入社してからの2、3日はガチガチに緊張して、話しかけてくれた先輩社員にもトンチンカンな受け答えをしてしまう有様だったけれど、少しずつではあるが研修にも慣れてきた。


しかし、これまで研修を受けてきて、僕は大きな不安を感じ始めた。


「この業界、自分に向いてないのでは?」


というのも、僕は根っからの文系人間だから。大学では英米文学を専攻していたし、数字や数式は中学の頃から大の苦手で、見ただけで拒絶反応を起こすと言っても過言ではない。プログラミングの世界では、直接的に数学の知識を使うことはあまりないけれど(多分)、数学的な思考は必須だと思う。僕はこれまで文学畑を渡り歩いてきたから、そんなもの持ち合わせていないし、これから身につけるのも骨が折れる。


じゃあ、なんでIT企業に就職したんだよ。と思うかもしれない。おそらく原因は、自分でも無自覚だった幼児的万能感と、早く内定を決めて楽になりたいという焦りから来た妥協である。


思い返せば就活の時、僕は

「どんなに数式的なものが苦手でも、基礎からみっちり勉強すればいけるっしょ!!」

と考えていた。


とんだ阿呆野郎である。一年前に戻れるならば自分を平手打ちしてやりたい。


確かに、本当に基礎の基礎から学べば、できないことはないだろう。極論かもしれないけど、理屈の上ではそうだ。しかし、これまで22年間生きてきて、数式なるものが嫌で嫌で仕方なかった僕がその苦手を克服して、さらにIT業界でそこそこ仕事ができる人材になるには、途方もない歳月がかかるのではあるまいか。


IT業界を志望している学生には分かると思うけれど、SEやプログラマーになるのに学部は関係ない、と多くの企業は言う。確かに、理系でもプログラミングを勉強してきた人はあまり多くはないだろうし、その点で言えば、新入社員は学部関係なく初心者だ。だが、プログラミングに向いた素質というのは存在するはずで、僕にはそれが圧倒的に欠如している。努力でどうこうできるレベルじゃない。

そう、一年前、就活をしていた時の僕はまさに、努力すればなんでもできると思っていたのだ。22年間のあまりぱっとしない、基本的に怠惰に過ごしてきた日々から目を逸らし、どういうわけか「自分ならできる!」という根拠のない自信に溢れていた。

もうひとつの理由は、単なる妥協だ。周りには複数内定を獲得する学生もちらほらいる中、僕は6月になっても内定をもらえずにいたから、さすがに焦りを感じていたのだ。実は、ITの前に別の業界を志望していて、結構人気の業界だったからか僕が無能だったからか分からないけれど、その業界ではひとつも内定がもらえなかった。

だから、途中で志望業界をIT に変更した。この時は、こつこつ勉強するのは自分の性に合っていると思っていたし、なにより人手不足の業界だから、どこかしらには受かるだろうという妥協もあった。もう雇ってくれるならどこでもいいや、くらいの心持ちでいくつかの企業を受け、数少ない内定をもらえた会社の中のひとつに、僕は今勤めている。

自分の能力を過信し「努力すればなんでもできる」という幼児的万能感と、どこでもいいから早く内定が欲しい、という妥協から選んだ今の職業は、びっくりするほど自分に向いていない。と研修が始まって約1ヶ月の時点で、僕は思っている。というか、実際に向いてない。

それでも今、向いていない仕事に就いてみて初めて、自分のやりたいことにきちんと向き合ってみよう、という気持ちになっている。就活の時は、仕事はあくまで生活に必要なお金を稼ぐための手段と考えていたけれど、本当は怖かっただけなのかもしれない。自分が本当にやりたいことを仕事にしたら、それがうまくいかなくなった時に逃げ場がないような、言い訳ができなくなるような気がしていた。


ただ、やりたいことを仕事にするのは怖いけれど、それができた時にはどんな喜びを感じるのだろう。その喜びに、僕は興味がある。だから今は、自分のやりたいことを真剣に考えてみようと思う。つらつらと。


今日はこんなことを考えました。そろそろ寝ます、お疲れ様です。

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