ユニークな宇宙論への招待で、SF作家の凄さがわかる—『宇宙人と出会う前に読む本』
様々な宇宙人が集う宇宙ステーションで、様々な宇宙人と話しつつ宇宙論を紹介するユニークな構成の一冊。通底するのは「物理は宇宙のどこでも共通」という思想で、それは正しいと思う。
しかし、扱っているトピックに偏りを感じるのも事実で、たとえば「宇宙人が左右対称とは限らない」「炭素生命体とは限らない」というところは言いながらも、「宇宙人が視覚に頼っているとは限らない」とは書いていない。説明が面倒になるからだと思うが、みな地球人の可視光に合わせてくれている。という前提で話が進む。
とはいえ実際視覚に頼らない宇宙人が出てくるSFはあるし、最近の超大作でもあった設定だ。具体的な作品はネタバレになるが、読んだ人なら思い当たるだろう。SFに限らずとも、地球上の生物だってコウモリなどがエコーロケーションを活用していたり、蛇がピット器官で赤外線を探知していたりする。そういうわけでここは惜しい感じ。
たとえ視覚に頼った生物でも地球人類の可視光バンドに合った知覚をしているとは限らないわけで、極端な話放射線を文字通り見て周囲を把握する生命体がいてもおかしくないよなぁ、とは思った。この辺りはSFをたくさん読んでいると気になるし、ブルーバックスの読者にはSF読みが多いだろうから、Amazonのレビューでも宇宙人の設定にはけっこう突っ込まれている。
超弦理論であったりダークマターであったり、それだけでブルーバックス一冊書けるテーマを幅広く扱いつつ、このユニークな構成にするのはさぞ大変だと思うのだけど、やはり中途半端という印象は拭えない。
たとえば本書では一章を割いて「太陽が一つなのは特殊事例」ということが説明されているが、我々は太陽を三つ持つ惑星に暮らす珪素生命体と地球人が繰り広げる大作『三体』を既に知っている。そして『三体』を思い出すと黒暗森林理論を思い出してしまう。SF読みには物足りない部分が多くなりそうな一冊だ。
逆に言えば、宇宙論を利用して物語を作っていくSF作家の凄さがわかるという皮肉が生じている。とはいえSFを読まない人がポップに宇宙論を知るには良い一冊だ。
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