GENJI*REDISCOVERED        源氏物語絵巻 『朝顔』之三

画像1 寒い冬になりました。新年、あけましておめでとうございます。  今年の(新暦の)1月1日は、「旧暦」ではまだ12月11日です。『源氏物語』しはすの雪の夜の話-「朝顔」帖、「朝顔」帖の絵となると、必ずと言ってよいくらい「雪遊び」の図が描かれてあります。ちゃんと本文を読まない内は、「夏」を連想させる「朝顔」という章題に「冬」の「雪」の絵が…と、例えば「かるた」のように「帖名」で「絵」を取る遊びがあれば、こどもでも一番に覚えて取れる=印象的な組み合わせなのです。 と、この帖に「幻の『枕草子』」?が出てきます。
画像2 12月の月の夜、光源氏は、雪の積もった庭に童女たちを下ろして「雪遊び」をさせます。穢れのない雪の上は、殿上と同じ衣料で降り立っても良いのでしょう。まさか素足のはずはなく…って無理。やがて濡れて染みて冷たいでしょうが袴で雪の上に。夜着の子もいる「雪遊び」です。雪で「山」を作ることは当時の流行りというか、雪が積もるとやる事であったようです。先行の『枕草子』に登場する「雪山」のこと…も貴族たちの「あそび」に影響を強くしていたかとも思われます。とにかくは「雪まろばし」て、雪の玉の大きなのを造ります。
画像3 天からの真っ白な「雪」が地上を「別世界」に変えることは、天変というより「吉兆」でした。見苦しい庶民の屋も雪に覆われて美しい景色となる…くらい。そこに、色とりどりの衣の童女を置く…のは、とても華やぎのある貴族好みの状景…だったのでしょう。雪が積もった木々、雪に埋もれる「松」と「竹」の姿の違いに言及する式部の視点です。「朝顔」帖中にはありませんが、雪の重みに撓っていた木の枝が何かの拍子に雪煙を上げて撥ね起きる様も一興だったと思われます。月に照らされる一面の雪景色、「銀世界」と今は言う光景を愛でる光源氏=紫式部
画像4 その状景を「すさまじいもの」と言ってる無風流が居る。と、光源氏に言わせています。そして、それが『枕草子』の「すさまじきもの」段だと記す「源氏注釈」の存在。今読まれているどの系統の『枕草子』にも、そう書かれてあるという「すさまじきもの……おうながけそう、師走の月」は見つかりません。『朝顔』前半には、すさまじき媼のことが書かれてあって、あまりに符号しています。(…この『枕』の件、長くなるので、また別のところで、)「12月の月を悪く言った人」を貶めて光源氏、御簾を巻き上げてお月見。建物内には居ても寒いでしょう。
画像5 光源氏は、色の無いこの光景に、「この世のほかのことまで思い流され」る。「おもしろさもあはれさも残らぬ折なれ」と言います。「(故 藤壺 の居る)あの世のこと」とか「些末な日常事を離れて視る世界」とかいろいろの訳がありますが、後世の『新古今和歌集』や『幽玄』の美意識、世界感を思わせる「超」「新鮮」「先鋭」な感覚感性です。 夕方から眺める、雪を光らせる月光。東のつま、から池が見える。ことから、これは、春の町の西の対での、池の上にかかる満月の夜の事かと考えられます。
画像6 光源氏の「美意識」語りを、横で聞いている紫上。 この「寒い」シーンで、光源氏は続けて「御前に雪山をつくられた(故藤壺)中宮」や「前(桃園)斎院」「(朧月夜)尚待」「山里の人(明石君)」ら女性の事を語ります。紫上は「氷閉じ 石間の水は行きなやみ 空澄む月の影ぞ流るる」(紫上、泣いている?)と詠みます。今は我が身の横に在る体温だけを頼みに、他の女性の事を語る光源氏の気持ちを掴みかねる紫上…と読者。冷え冷えとした冬景色です。
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