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北朝鮮の新しい自動車工場・自動車合弁会社

北朝鮮は古い歴史がある勝利自動車工場やかつて韓国と合弁で設立した平和自動車を除けば、バス工場などが細々とある程度で目立ったものはなかった。

しかし現在、北朝鮮は中国との合弁会社や新たな自動車工場創立の流れが強まっている。この動きは2010年代に入ってから急速に見られ始めた。ここではそれらの合弁会社に簡単ではあるが触れていく。

・チョンプン(清風)合弁会社

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ネナラブランドとして紹介されたチョンプン合弁会社のラインナップ(Foreign Trade of the DPRK)
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「わが民族同士」では会社名が伏せられている(わが民族同士)

2012年の第13回平壌春季交易会に参加しており、少なくともその頃から活動していると思われるが情報は皆無だった。しかし、北朝鮮が発行する貿易誌「Foreign Trade of the DPRK」の2017年No.4にて掲載され、2018年に対外宣伝サイト「わが民族同士」においても、『新型の自動車「ネナラ」号』と題して記事がアップされた。この記事では社名は伏せられ簡易なスペックが書かれているのみ。ネナラ(내나라)とは「我が国」を意味し、記事によれば、

△ 仕様

―燃料消費42~50g/km(乗用車、バス)、58g/km(トラック)

―最高速度120~180km/h

―最大出力55~80kW

△ 特長

―燃料消費が少ない

―暖冷房装置、動力ステアリング機能、電動窓がある

―電動アウトサイドバックミラー、停止始動システム、後進警笛システムなど種々の制御システムを備えている

とあるが、豪華装備は一部の上級モデルのみという指摘もある。車種はいずれも中国のFAW(中国第一汽車集団)及びFAW傘下のブランドの自動車で、上の画像のラインナップでは、

SUV…Senia R7(中央)、左下から順にクロスオーバーMPV…Senya S80、セダン…天津一汽夏利汽車 Vita V5、バン及び救急車タイプ…Jiabao V75またはV77、トラック…Jiabao V80となる。ただ、Foton(福田汽車)や金杯汽車、BYD、長城汽車の車種が清風のエンブレムを装着している画像があるためFAWで統一されている訳ではないようだ。他にも耕運機らしき機械やトラクターも含まれるようだが全く情報が無く不明なままだ。

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その他ラインナップ(chinacarforum)
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「Foreign Trade of the DPRK」2018年No.1で掲載されたネナラのミニバン(Foreign Trade of the DPRK)


・クムピョン(金平)自動車工場

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金平自動車工場のトラック(ネナラ)

金平自動車工場では、0.5トン、2.5トン積みの小型トラックと、3.5トン、5トン、10トン、16トン、20トン、30トン積みの各種トラックを生産しています。年産2万台生産能力をもつ同工場には、保管能力の大きい部品保管場と補助組立て流れ式ライン、近代的な完成組立て設備が整えられています。

補助組立て流れ式ラインにはボンネットと荷台、エンジン及び変速器の組立て工程が、基本組立て流れ式ラインには完成組立て工程が整えられています。

生産されたトラックは、近代的な検測設備をそなえた検車ラインでスピード計器、シャーシー、ヘッドライト、ブレーキの性能などを正確に検測し、製品を技術的に保証しています。

能力のある技術者と組立て工を擁している同工場では、プレス、塗装などの生産工程を補強し、部品の国産化比重を高めることに力を入れています。

(ネナラ、2015-12-29)


2015年にポータルサイト「ネナラ」で紹介された自動車工場。公開されている車種から、中国の華晨汽車とルノーが設立した合弁会社の商用車ブランド、金杯(Jinbei)製トラックや福田汽車製トラックなどを輸入し組立生産するトラック専門の工場と見られる。住所は平壌市力浦(リョクポ)区域となっている。

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検車ラインで検査中の風景(ネナラ)


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金平のピックアップトラック。瀋陽金杯車両製造有限公司の大力神のリバッジ車(ネナラ)


・トクチュン(徳中)自動車合弁会社


2013年6月に創立された徳中自動車合作会社は各種のトラックを生産しています。

当社は、勝利自動車連合企業所に能率的なトラック総組立て流れ式ラインを備えたトラック組立て職場を設け、性能のいいトラックを生産しています。

種々の配線や導管、スプリング、車軸、エンジン、変速装置の組立てなど、流れ式ラインの各工程の作業は高級技能工が受け持ち、完成されたトラックは厳格な検査を経て出荷されます。

当社のトラックは積載量に比べてエンジンの出力が相対的に高く、車体が全面2重になっているので圧力によく耐えます。また、高性能の電子装置は個々別々になっています。

2.5トン積みピックアップトラック、5トン、8トン、10トン、25トン積みの平トラック、コンテナートラックなど、現在生産されている「勝利」トラックは10余種で、年間生産量は数千台にのぼります。

当社は、勝利自動車連合企業所の技術陣と生産潜在力を効果的に利用して国内のトラック需要をまかなうとともに、主な部品の国産化を実現するために極力努力しています。

当社は、品質優先、品目拡大、信用第一主義を経営原則としています。

当社は、国内のトラック生産分野で覇権を握って国内の需要をまかなうだけでなく、国際市場に進出するため技術陣と生産土台を一層強化するとともに、世界各国との交流と協力を深めています。

(ネナラ、2015-09-06)

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徳中自動車合弁会社のラインナップ(ネナラ)

引用元の通り2013年6月創立の合弁会社。勝利自動車工場と中国企業の合弁会社のようで、実際に同工場に組立ラインを併設して組立生産している。勝利自動車は2017年からSINOTRUCKのHOWO L2を新型5tトラックとして生産開始したことが報道されたが、それより前からSINOTRUCKを生産する準備は整っていたようだ。

・サムフン(三興)自動車合弁会社

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三興自動車合弁会社のラインナップ(ネナラ)

三興自動車合弁会社では「天地」ブランドの0.5トン積みピックアップ・トラック、1トン、3トン積みの平トラック、3トン積みコンテナー車など多様な形の小型トラックを生産しています。

「天地」トラックは形態が先進的で性能がよく、丈夫なのでユーザーの関心を集めています。

当社は、特殊車(ショベルカー、フォークリフト、タンク車、油槽車)と農業機械など、各種の運輸機械の注文に迅速に応えるための販売サービスシステムを完成すると同時に、アフターサービスにも相応の関心を払っています。

当社は、生産システムをより完璧に構築して製品のコストを下げ、品質を向上させることに主な力を入れています。

(ネナラ、2016-03-23)

天池(チョンジ、白頭山の山頂にあるカルデラ湖の名称)というブランドとしてトラックを中心に組立生産する。内容から注文に応じて組立するスタイルと見られる。トラックといってもダブルキャブスタイルのトラックが中心らしい。

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「Foreign Trade of the DPRK」2016年No.1にて掲載されたサムフンの画像(Foreign Trade of the DPRK)

・朝鮮ピョンウンチュンソン合営会社

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チョンマリトラック(chinesecars)

2015年に創設された会社で、中国商務省と北朝鮮対外貿易省が審査し、丹東朝鮮辺境貿易省と朝鮮首都旅客運輸指導総局がそれぞれ54対46の割合で投資した。共同投資額は約800万ユーロ(約108億ウォン)。北朝鮮初の貨物トラック会社として金正恩も関心を寄せているという。年々高まるトラックやバスの需要に応えていく形で、チョンマリ(千万里)貨物トラックやクムガンサン(金剛山)バスを生産している。また、ピョンウンチュンソンの工場と見られる建物が大同江の畔にある。

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座標は38°59'11"N 125°45'33"E(Google Earth)

・ラソンペクホ(羅先白虎)貿易会社“サムデソン(三大星)自動車工場”

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会社紹介(Automotive Research on North Korea)

2009年設立の貿易会社で海洋製品加工等に加え、三大星(サムデソン)という工場でトラックを生産している。

・朝鮮彗星(ヘソン)貿易会社“プッククソン(北極星)自動車”

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プッククソン(北極星)485Dトラック(ネナラ)

強い馬力、丈夫な車体、少ない燃料消費はニーズの関心を集めています。 ピックアップ・トラック(485D型、520D型)、2トン積み保冷車、冷蔵車などがあります。

(ネナラ、2013-12-25)

2013年の第16回平壌春季国際交易会(16th Pyongyang Spring International Trade Fair)にて複数のトラックを出品した。トラック専門と見られる。

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出品されたトラックは中国製トラックのリバッジモデル(Automotive research on North Korea)

・プソン(부성)

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プソンのポスター(Automotive Research on North Korea)

2016年に開催された第9回平壌春季国産商品展示会でポスターが貼られた謎のトラックメーカー。

・羅先全強(ラソンチョンガン)加工会社

チョンガントラクター(ネナラ) 
羅先の国際展覧会に出品されたチョンガントラクター(ネナラ)

羅先の加工会社で、中国では一般的なタイプの三輪自動車をチョンガン(全強)の名称でリリースしている。この内ルーフがないタイプ(上画像)は、元々は中国のFeicai 7Y-1150D-2というモデルのようでエンブレムがそのままになっている。

冷戦期はソ連や東欧諸国といった旧東側の自動車を輸入しコピーしていた北朝鮮だが、2000年代~2010年代に入ってからは中国車が大半の比重を占めるようになり、現在はほぼ全てが中国車の組立生産という状態である。勝利自動車工場など一部は未だにソ連の遺産のような旧式の生産を行っているが、合弁会社が次々と現れ北朝鮮のエンブレムを付けた中国車がラインに並ぶ光景は当たり前になりつつある。

しかしコロナの世界的流行で中朝国境が閉鎖され厳しく監視される状況になってからは中朝国境地域の合弁事業が深刻な財政難に悩まされているという報道もあり、自動車も例外ではなさそうだ。平和自動車などの最新モデルが展示会のような公の場で展示されたのも2019年が最後で、2020年及び2021年は開催されていない。

参考文献

http://naenara.com.kp/main/search_first

https://www.chinacarforums.com/threads/north-korea.2791/page-4

https://nkrecognition.proboards.com/board/80/samdaesong-3-great-stars

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