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【発表要旨】リチャード・ミラーの理論に基づく発声指導の研究 —中学校合唱部における発声の課題解決に向けて—

本noteでは、平成29年度全日本音楽教育研究会大学部会沖縄大会での黒川の発表要旨をシェアいたします。

拙い内容ですが、音楽教育を学ばれている大学生、大学院生の皆さん、先生方のお役に立ちましたら幸いです。

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リチャード・ミラーの理論に基づく発声指導の研究
——中学校合唱部における発声の課題解決に向けて——

東京藝術大学(当時)    黒川和伸

【要旨】
本研究の目的は、アメリカの声楽教育者リチャード・ミラー Richard Miller (1926年 - 2009年)の理論に基づいた発声指導法を中学生への歌唱指導実践を通して検証し、その有効性を明らかにすることである。
本研究ではまず初めに、ミラーがどのような声楽教育者であるかを俯瞰するために、ミラーの声楽教育の特徴について検討した。その結果、ミラーの声楽教育の特徴は以下の2点に集約される。
① 歴史的な声楽教授法を、現代の生理学的・音響学的・物理学的見知によって再定義したうえで、声についての技術を教えた点。
② 声の技術の獲得と、芸術的な表現とは不可分であると考えた点。
第二に、合唱指導における発声に関わる諸問題について、課題解決にむけての方向性をミラーの理論に基づいて検討し、課題解決にミラーの理論が役立つ可能性を明らかにした。第2章で導き出された結論は以下の2点である。
① 声について何らかの問題を抱えている状態は、単に共鳴や呼吸法といった独立した問題ではなく、発声器官の3要素である原動力(呼吸)、振動器(喉頭)、共鳴器(声道)の相互作用に不具合が生じている状態である。
② 発声に関わる現状の課題を克服するためには、共鳴や呼吸法などそれぞれ個別の問題としてとらえるのではなく、発声器官の3要素の相互作用に注目する必要がある。
第三に、発表者による発声指導を継続して受けている合唱部員への質問紙調査とその分析、発表者自身による指導実践の事例分析、顧問教諭へのインタビューとその分析を通して、明らかになったミラーの理論をもとにした発声指導法の、実践における成果と課題を検討した。そして、これらの成果を通してミラーの理論が中学生への指導実践でも、ある程度の効果があることを明らかにした。
本研究における結論は、以下の2つに集約される。
① ミラーにおいて特筆すべき点はその体系化された理論と、具体的な記述である。ミラーの理論によって裏付けられたチェックポイントを用いることによって、学習者はイメージに頼らずに具体的な身体の感覚をチェックすることができ、結果としてそれらが学習者の指導者からの自立につながることが明らかになった。
② 学習者が自らの歌唱状況を具体的にチェックできるようになることで、学習意欲が高まることが明らかになった。これは、合唱コンクールの賞などの外的な報酬だけに頼らず、技能習得という内的な動機によっても学習者は学習意欲を高めることができることを示唆している。
ただし、いくつかの課題も残った。その1つは、本論での検証が質問紙調査の分析と考察、顧問教諭による評価、指導者である発表者の考察によるものである点である。これらの検証の客観性をさらに高める方法としては、専門家による音声分析や、聴取実験による主観評価の分析などの手法が考えられよう。

 

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