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孤独なJKと、そのJKが好きな男の子の話

「結局のところ人間は誰しも一人なんだよね。」

図書室の窓からそよ風が吹き込んでいる放課後、君は右耳に髪をかけながら言った。

「それは…今僕たちがやってる受験勉強のこと?」

英語のテキストからちらりと顔を上げ彼女の表情を確認する。
彼女は一点の空を見つめていた。

「ううん、人生そのものが。誰と一緒にいたって、どれだけ多くの時間を共に過ごしたって、結局自分の最大の理解者は自分自身しかあり得ないし、他人も自分自身にしか興味がないんだよ。」

「君の言いたいことは分かるけど、そんなさみしい人生つまらなくないか?」

「さみしい人生というか、これは自明の理じゃない?だってあなたは私の理解者に近しい存在かもしれないけど、私のことを全て理解していると言えるの?私自身に興味があるの?」

「そりゃ全てを理解出来ているかと言われたら分からないけど、でも少なくとも君に興味はあるよ。好きだから付き合っているんだし。」

「ふうん。じゃあその興味って自分のフィルターを介さずに持ってるの?あなたが興味のある部分に対してのみ、じゃない?」

「…というと?」

「例えば、私はAとBという性質を持った人間だとするよ。まあ人間はこんなに単純な生き物ではないから分かりやすく極端に例えるけど。」

「うん」

「で、あなたは私のAという性質には興味を持っているけど、Bという性質には興味があるどころか気付いてすらいない。この場合でも私に興味があると言えるのかしら?」

「うーん…そんなに全てに興味を持ったり理解しようとするのは物理的に無理じゃないか?だって違う人間だし。」

「ほらね、そうなるでしょ。だから結局は人間誰しも一人なんだよ。」

もう完全に英語のテキストから彼女の話に意識がうつってしまった。
彼女が見つめる空虚の先にはなにもないように見える。

「…君の理論は筋が通っているように聞こえるけど、やっぱり僕はそんなさみしい人生つまらないと思う。」

初めて彼女が僕の顔を見た。
今まで壁に向かって話していたと思っていたのに、そこに初めて人がいることを確認したような顔をして。

「どうしてそう言えるの?これは変えられない普遍的な事実だと思うのだけれど。」

「前提はそうだと思う。みんな他人が考えていることを全て理解することは出来ないし、AとBの性質両方に気付けないこともあるだろうよ。でもそれを前提として、他人との理解度をお互い深め合うことは出来るんじゃない?」

「…というと?」

「こうやって対話すればいいんだよ。ただそれが全てではないと思うけど。」

「対話、ね…。でも対話をしたところで相手の頭の中を覗けるわけではないじゃない。そしたらやっぱりその人がどんな考えを持っているかの判断はこちらに任されてしまうわけで。」

「だから対話が全てじゃないんだって。しかも一度のラリーで全てを完結しようとしてるからその発想になるんじゃないの?対話は何度でも出来る。」

「そんなの非効率的で面倒なだけじゃない。」

「そうかなぁ、僕は君となら何度だって対話をして君に対する理解を深めていきたいし、君にも僕のことを知ってほしいと思ってるよ。それが例え“君の中での僕”だとしても。」

「“私の中でのあなた”でいいの?理解の食い違いや行動との誤差が生まれてしまわない?」

「そうしたらまた対話や行動で軌道修正なり、訂正なりすればいいじゃん。そうやって相手への理解の解像度を上げていく作業をしていくって面白くない?」

「面白いかしら…私には面倒な作業のように思えるけど…。」

「じゃあ僕が面白いと思わせてあげるよ。あと、僕はいま君と対話していて楽しい。」

僕から視線を外し、少し考える素振りを見せた。

「あなたが楽しいのであれば私は嬉しい。今はそれが精一杯かな。」

「いま君が精一杯僕に向き合ってくれてるだけで嬉しいよ、ありがとう。」

今すぐに出来なくてもいい、そういう意味を込めてはにかむ君にそう答えた。

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