辻仁成『サヨナライツカ』
次は『サヨナライツカ』を読むと言っていたので、感想を少し。
文体が読みやすかったので、あっという間に読んでしまった。
さて、感想と言ったものの、浮気が題材の作品はこれまで好んで読んだことがないので、どう評価したら良いものか……..。
舞台は1975年のタイ。
主な登場人物は、主人公の豊、婚約者の光子、浮気相手の沓子。
光子を東京に残し、豊は仕事でタイに駐在していた。沓子とは、友人に紹介されて知り合った。
内容に関しては、浮気してしまったばかりに苦悩を味わう話なので、完全に同情はできない。けれど、かといって起こり得ない話かというとそうでもないような。「恋はするものではなく、落ちるもの」的な…。
しかし、周りから「好青年」と呼ばれる主人公豊は、保守的で、お人好しで、意気地なしだ。
婚約者の光子ことは当然好きだ。しかし、浮気相手の沓子こそを心底愛している。
かといって浮気相手の沓子を選びきることは、世間体や婚約者や家族への義理もあり、できない….。
カァ〜〜なんじゃわれえ〜〜〜〜!
誰も、幸せにならん!!!
初めに「どう評価したら良いものか」と言いつつ、しっかりキレてた。内心。
顔とうわべの態度が良いと、こんな面倒が起きてしまうのか。(顔とうわべの態度がいい人なら身近にいるのだが、彼はうわべだけでなく中身もいいと信じている。つまり何が不安になったかというと、彼氏と私で、豊と光子にそれぞれ似ているのではないか。つまり彼氏は浮気する可能性がある人柄なのではないか、と不安になったのである。我ながら、なんて失礼な…….)
自分に重ねて不安になりつつ、光子に同情しつつ、豊と沓子の互いを求め合う関係に懐かしさのようなものを覚えつつ、読んでる間はしっかり泣きました。
恩人から、豊への忠告としてあった、「悩んでもいいけれど、迷うとろくなことがない」という言葉が印象的でした。
悩んでもいいけれど、
迷うとろくなことがない。
染み入る….。
✳︎
ちなみに、1975年のタイの描写はとても好みだった。ここしばらくの私のアジアブームのニーズにマッチしていた。
豪華絢爛なザ・オリエンタル、バンコクのサマーセットモームスイート、ホテルマンの世界一のおもてなし、朝に夕に見えるチャオプラヤー川の流れも、叙情的でいい。
そんなわけで、先日カルディで「トムヤムカシューナッツ」なるものを見つけたので、衝動的に買ってしまった。
アジアなムードなのだ。アジア……いまはタイを欲しているのだ。口が。
ぱらぱらとページを見返しつつ一粒…….
!!?!
……私はまだ、タイを知らないと思い知らされた。
(彼氏にあげたら吐き出してた)