#183 Bifidobacterium longumとはどのような腸内細菌なのか?
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今回のエピソードでは、プロバイオティクスとして注目されている乳酸菌の一種である、Bifidobacterium longum (以下ロンガム菌)についてのお話をします。ロンガム菌は、森永乳業株式会社の提供するビヒダスプレーンヨーグルトなどに含まれる細菌で、出生間もない赤ちゃんの頃から高齢になるまで腸内に存在するとされます。通常、乳酸菌は母乳に含まれるヒトミルクオリゴ糖を栄養に増殖し、離乳とともに存在量が経ることを考えると、ロンガム菌は人生を通じて腸内に居続ける特殊な乳酸菌であると言えます。
ロンガム菌は、私達の体とどのように関わっているのでしょうか?
早速、その生態からお話していきます。
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ロンガム菌の生態
まずは、ロンガム菌の生態からお話していきます。ロンガム菌は、嫌気性条件下で生育する細菌です。と入っても、低濃度の酸素であれば増殖できることが報告されています1) 。形は桿菌であり、生息域はヒトおよび動物の腸管内に存在するとされています2)。
ロンガム菌には、亜種としてロンガム菌infantis、ロンガム菌longum、ロンガム菌suis、ロンガム菌suillumが存在します3)。
日本国内においては、株式会社ヤクルトがロンガム菌を含めたプロバイオティクスの研究に精力的です。例えば、2019年の報告では以下の3点について報告されているので引用します4)。
この研究から、ロンガム菌の世代間の引き継ぎが行われていることが示唆されています。可能性として、過去の先祖から代々ロンガム菌が引き継がれて今に至ることも考えられ、示唆に富む内容の研究です。
ロンガム菌と免疫調節機能
ロンガム菌は、腸管免疫をはじめとする腸管バリアの維持に重要な細菌であることが考えられています。例えば、マウスを用いた実験では炎症による腸管障害マウスについて、ロンガム菌の存在が組織炎症や炎症性サイトカインなどのレベルを低下させること、腸管バリアにおいて重要なタイトジャンクションタンパク質の発現量を有意に増加させることなどが報告されています5)。
また、ロンガム菌、B. bifidum菌、B. lactis菌およびB. breve菌の混合物をマウスに投与した研究では、ロンガム菌をはじめとしたビフィズス菌の投与によって制御性T細胞を介した免疫寛容とそれに伴う大腸での炎症改善に寄与することが示唆されています6)。
このような免疫機能に対する有用性から、経口投与によるロンガム菌の利用、つまりプロバイオティクスへの応用が注目されています。
ロンガム菌のプロバイオティクスとしての利用
2022年、機能性胃腸障害を対象にした乳児を対象にした研究では、Bifidobacterium longumとPediococcus pentosaceusを機能性便秘などの機能性胃腸障害に診断された乳児に投与した結果、症状が改善することが報告されています7)。
また、2021年Nature Communications biologyに掲載された論文では、自己免疫疾患の一種であるバセドウ病患者に対して、抗甲状腺剤のメチマゾールとロンガム菌を同時に投与した結果、症状の改善と改善傾向の持続、プロバイオティクスが腸内細菌叢と代謝産物に影響を与えることが示されています8)。著者らは、プロバイオティクスと薬剤の併用によるこの結果を受けて、"腸-脳軸と腸-甲状腺軸を通じて神経伝達物質と血中微量元素に影響を与え、最終的に宿主の甲状腺機能を改善させた"としています8)。
このように、健康維持のみならず、疾患治療にもロンガム菌の応用が検討されています。
ロンガム菌は、私達ヒトにとって非常に身近な乳酸菌です。この細菌に対する理解が、健康食品や治療法の開発につながるでしょう。以上、Bifidobacterium longumとはどのような腸内細菌なのかお話しました。
次回は、病原性細菌としても知られるBacteroides fragilisについてお話します!
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参考文献
1) Kawasaki S, Mimura T, Satoh T, Takeda K, Niimura Y. Response of the microaerophilic Bifidobacterium species, B. boum and B. thermophilum, to oxygen. Appl Environ Microbiol. 2006 Oct;72(10):6854-8. doi: 10.1128/AEM.01216-06. Epub 2006 Sep 1. PMID: 16950914; PMCID: PMC1610298.
2) ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム, 菌の図鑑, Access: 20230227, URL:
3) 渡辺 幸一, ビフィズス菌の分類法の現状と動向, 腸内細菌学雑誌, 2016, 30 巻, 3 号, p. 129-139.
4) Oki, Kaihei et al. “Long-term colonization exceeding six years from early infancy of Bifidobacterium longum subsp. longum in human gut.” BMC microbiology vol. 18,1 209. 12 Dec. 2018.
5) Dong J, Ping L, Cao T, Sun L, Liu D, Wang S, Huo G, Li B. Immunomodulatory effects of the Bifidobacterium longum BL-10 on lipopolysaccharide-induced intestinal mucosal immune injury. Front Immunol. 2022 Aug 24;13:947755. doi: 10.3389/fimmu.2022.947755. PMID: 36091059; PMCID: PMC9450040.
6) Sun, Shan et al. “Bifidobacterium alters the gut microbiota and modulates the functional metabolism of T regulatory cells in the context of immune checkpoint blockade.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America vol. 117,44 (2020): 27509-27515. doi:10.1073/pnas.1921223117
7) Astó, Erola et al. “Probiotic Properties of Bifidobacterium longum KABP042 and Pediococcus pentosaceus KABP041 Show Potential to Counteract Functional Gastrointestinal Disorders in an Observational Pilot Trial in Infants.” Frontiers in microbiology vol. 12 741391. 12 Jan. 2022, doi:10.3389/fmicb.2021.741391
8) Huo, Dongxue et al. “Probiotic Bifidobacterium longum supplied with methimazole improved the thyroid function of Graves' disease patients through the gut-thyroid axis.” Communications biology vol. 4,1 1046. 7 Sep. 2021, doi:10.1038/s42003-021-02587-z