POSSESSOR

あらすじ
 
誰もが権力を狙い、座を取り合う裏社会を闊歩する青年、ノギ。彼は怪盗として、セレブが所有する高価な宝物や秘密裏な情報を盗み出し、金に換える仕事を生業としている。彼は盗みを働いた現場に一切証拠を残さない名怪盗。その秘密は、彼がつけている特別な腕時計にある。

補足

・登場予定アイテム一覧
・時間時計:特定の操作を行うと好きなだけ時間を止められる。ちなみにノギのおじさんから貰ったものである。
・毒ピル:飲み続けると体液の全てを人体に有害な毒液に変えることができる。自分自身には効かない。
・千里眼トランプ:未来や相手のこと、様々な情報を読みすることができる。占いという形で使われ、セレブ達から絶対的な信頼を得ている。
・殺人カメラ:顔の半分以上を収められた写真をちぎったり、折ったり、燃やしたりすると、被写体の人物に同じ現象が訪れる。現像後の写真が水浸しになるとその効果は失われる。ある企業に雇われた殺し屋が使う。
・ドーピングオーブン:このオーブンで焼いたパンや料理を食べ続けると、超人的な肉体、運動神経を得ることになる。裏社会の強者の一人、8人の子供を産んだママが、この道具で料理するため、子供達はみな驚異的な身体能力を持ち、セレブ専用のボディガードとして派遣させ、稼いでいる。
・透明人間薬:飲むと透明人間になる薬。ある真面目な少年が、父親が怪しい研究に手を付けていることに気づくと、父親は息子にこの薬を盛り、透明人間にしてしまう。それによって人生を狂わされた少年は、父親に復讐しに、透明人間で製造会社に乗り込む。
・ドッグマスク:つけると犬以上の嗅覚を得られる。尻尾を掴みにくい人間を追う時に、殺し屋がつけていたりする。
・バタフライナイフ:普通のもののようにくるくるさせていると、いつの間にか可憐に舞う蝶々に化ける不思議なナイフ。憎い相手を切った後にくるくるすると、変身した後の蝶々は赤く、羽ばたくほど巨大になり、その羽根の一振りが起こす風の威力は、どこまで大きくなるかまだ計り知れない。アイテムの製造会社同士の戦争に巻き込まれ、障害を患ってしまった妹を治すため、ノギを倒して手がかりを得ようとする兄が持っている。
・記憶の髪留め:つけた者同士で記憶を受け継ぐことができる髪留め。障害を患った妹がつけている。

・これらの不思議なアイテムは、「Night of Eve(NoE)」、「Dorn of Christmas(DoCh)」という二つの会社が製造している。両社は利権にまつわる争いが絶えず、ノギが手を貸すことによって戦争はより激化する。

M・・・モノローグ
()・・・心の声、もしくは補足情報

第2話 毒薬
https://note.com/chommin/n/ndcca26a7ddfe

第3話 鉄の男
https://note.com/chommin/n/ncf67811343bc

第1話 時間時計

 夜の高級街。高価な服装に身を包んだ人々が歩く中、スーツを着たノギが両手に紙袋を持って歩いている。
ノギ(以降、ノ)M:俺は怪盗だ。週末はブランドスーツを決め込んで街に繰り出し、お金持ちさんに世話をしてもらう。高級デパートでショッピングをし、暗くなったら映えるジュエリー通りをゆっくり歩く…今日はあまりないかな…お、あれいいじゃん。
 次のコマで持っている紙袋が増えている
ノM:え?どうやって手に入れたかって?今見てなかったの? 
 次のコマで上着が新しくなり、頭にティアラを乗せサングラスをしている。
ノM:え?また増えてる?今見せたでしょ?…ん、これじゃないな
 サングラスが伊達メガネに変わる。
ノM:これでいい…俺は他の泥棒が持ってない最強の武器を一つ持ってる。それは人の目をだます技でも、セキュリティをかいくぐれるハッキング技術でもない、これだ
 袖の下に2つの腕時計。
ノM:え?盗んだものだろって?あーちがうちがう、そっちじゃない。こっち、この銀色のシンプルなやつ。普通の時計じゃない。時間を止められるんだ。こいつのおかげで、庶民じゃ住めない高層階で、庶民じゃ食えない食事ができる
 ノギ、あるホステス店に入る。ボーイが対応する。大量の紙袋を渡す。
ノ:これ、みんなに
 ホステス達、黄色い悲鳴を上げながら駆け寄り、紙袋を漁る。
ノM:ひとしきり女の子へのプレゼントを買い揃えたら、ぼったくりの店に入って席をシャンパンタワーで囲む。これが週末の食事ってやつ。(ボトルを一気飲みする)…っかあ!!
おっさん(以降、お):おーい今日もやってんのー?
女たち:あ!吉田さん!
お:(ノギと同じソファに座る)ほーらおいでー
 半分の女がおっさんの元にすり寄る
ノM:このおっさんは俺を特に世話してくれてる人。たまに素敵なえさ場を教えてくれる。
お:ノギちゃん聞いてよ、明日の授賞式、岩崎光が来るんだってよ。
ノ:え?あの通信会社の人?
 翌日、華やかなパーティー会場。品のある家族達。皆立ち話をする。
お:会長だよ?急遽審査員勢に推薦されて出席するんだってさ。重要なのはこっから。今回の式は、ほら、ベストファーザー賞だから、大企業のお父さん達が息子を連れてくるわけよ、自慢げにね?だから親共は自分の娘を連れてって、旦那の品定めとお父さんへの挨拶の両方を済ませられちゃうってわけ
ノ:ああ…そんな、シンデレラのお母さんみたいなことするんすね今時笑
お:でね?会長の今の妻が、この子をよく思ってないらしいのね。この子がいると会長が子供作ってくれないって。だから、一回奥さん黙らせるために、今日この子連れてくるんだよ
ノ:おおー、で、その子がどうしたんですか?
お:…いやどうやら、中学の頃から援交にパパ活。家のこと隠してお偉いさん方とえっちらほっちらやってたらしい。しかも、相手は偶然にも、父親のライバル企業ばかり…
ノ:え?それって…
お:ゆすりに使ってたんだ。わが愛娘をな。で、今回その番が俺に回ってきたってわけ
 皆がざわめく。おっさんがノギの脇腹を指で突っつく。
ノ:ぐふっ(口に含んだ酒をグラスに戻す)
お:やっとお出ましだ
 入り口を見る。岩崎家族が会場に現れ、周りが娘を見て息を飲む声が聞こえる。
お:ほら、あの子だ。気まずそうにしてるお父さん達が見えるだろ?笑
ノM:一瞬で持ってかれた。どんな高級なホステスにもいない、あんな可憐で上品で…一目見ただけで、今まで会った全ての女のリストが吹き飛んだ
お:あれがガチの高嶺の花ってやつだな。あいつの裸が見れたら一生安泰だ
 娘は男と会話をしている。ノギはその光景を見て企みを思いつく。
ノ:俺、ちょっと行ってきます
お:お、漢!気をつけろよ(ささやき声)性病持ちらしいぞ
 ノギ、娘の横に立つ。話しかけずに立ったまま。
 娘、気づいて挨拶する。
しえり(以下、し):?!こんばんは〜
ノ:…ああ、こんばんは
し:…何か用ですか?
 会場の窓の外、薄暗い夕方、手すりに鳩が止まってる。
ノ:あーいえいえ、お召し物に、くっついてますよ?
し:え?(背中を見る)
 ノギ、しえりが見てない方の肩から隠し持ってた小さな鳥のフェルト人形を取ったように
ノ:ほら、ここです
し:あ…はは!なんですか?これ
ノ:いやー僕も不思議に思ってて…お友達ですか?
 しえり、苦笑。
ノ:…あ、すみません!
 ウェイターからグラスを2つ貰う。
ノ:...生姜というのは昔から魔法の薬だって言われています。ご存知ですか?
し:いや、聞いたことないです…笑
ノ:え?例えば、この子をこれに沈めるじゃないですか(人形を酒に入れる)
し:え
ノ:で、指を鳴らすと…
 何も変化は起きない
ノ:…ん?
し:…あ!では、またー
ノ:ああ!ちょっと待って!
 さりげなく腕時計に触る
ノ:ちょっとね、生姜の濃度が薄いのか、多分時間差で_
 人形、ノギのグラスからしえりのグラスに瞬間移動する
し:うわっ、え?え?
ノ:(濡れた指先をさり気なくピンピンと弾きながら)ほーら、ジンジャーの不思議な力が、この子を移し替えたんです
 しえり、くすっと笑う
し:もう、わかりましたから…(グラスをノギに渡し離れる)
ノ:あ!待ってください!クラスの様子がおかしいです…!
 しえり、振り返る。グラスの酒が不自然に揺らぐ
し:え…?
 片手で時計を何回もカチカチし、時間停止、解除を繰り返している
し:どうやって_
 突然、グラス内の鳥の人形が本物の鳩に変わり、酒や破グラス破片が飛び散る
ノ:おお!
し:きゃ!
 羽織っていた上着を盾にするしえり。ざわつく周り。
ノ:命まで吹き込むんだねえ~!
鳩:っほ…っほ…
女性1:なにあれ、マジック?
女性2:普通白鳩じゃない?
 窓の外の手すりには、濡れた鳥のフェルトの人形が置かれている。
 しえり、笑わない。
ノ:あれ?
 しえりの父、怪訝な顔でしえりと場所を移動する。しえり、ノギをじっと睨んでいる。
 手すりの上の人形を、飛んできた烏が攫っていく。
参加者1:あら、あそこの窓、開いてたっけ?
参加者2:さむ、ウェイター、閉めて―!
 空もすっかり暗くなり、本格的なパーティが始まる。舞台では歌手が歌っている。
おっさん:でも、あんだけ込んだマジック見せたのに、さっぱり振られるとはなー
ノ:…はあ、不合格かー…(歩き出す)
おっさん:おい、どこ行くの?
ノ:ちょっと頭ふらふらするんで外行きますー
 窓の外に出て、手すりから夜景を見ながら酒を飲む
 そこへしえりがやってくる。
し:…さっきの、どうやったの?
 驚いて振り向く。しばらく考え、余裕ぶって、
ノ:…魔法?
し:はっ…さっきお父さんに、あいつには近づくなって言われてたよ
ノ:え…?誰が…?
 しえり、呆れた笑い
し:あなたどの企業のご子息の方?他の会合であんまり見ないけど_
ノ:しーっ、こんな話してるの見られたら俺が怒られちゃうよ、やめてやめて
し:あたしにどういう目的なの?
ノ:…一緒にご飯どう?
し:金ない男には興味ないの。
ノ:金ならあるよ。
し:ふーん
 しえり、ノギの身なりを一度眺める。ノギが持っているグラスを取り、少し飲む
し:どれくらい?
ノ:…君が欲しいの何でも買ってあげる
し:(また少し飲む)じゃああのホテル買って。
 しえりが指差した先には、ナイトプール付きの高級ホテルがそびえ立っている。
 しえりからグラスを取り、残りを全て飲む
ノ:(口を拭って)…いいよ
し:…っぷ、かわいいね
 しえり、中に戻る
ノ:ちょっと、ディナーは?
 追いかけると、ボーイ二人が道を塞ぐ
ボーイ:これ以上は、他のお客様の迷惑になりますので。
 ボーイの間からしえりに叫ぶ
ノ:…、ねえ!夜迎えに行くからねー!
 しえり、振り向かず手を振る
 会場の外、おっさんの車の中。運転手、おっさん、ノギが乗っている
お:まじで社長に土下座して1日だけレンタルしてもらったからな!お前の言ってた、あのーあれ、あれなんだっけネームプレート?あれも付けたけどよ?!誕生日ケーキかてめえ。お前これドジったらただじゃすまさねえからな
ノ:いやーほんとすいません!ありがとうございます!一生ついていきます!
お:ったく、ノギちゃんじゃなかったら許してないからな
ノ:あーいたいた!あれ!あそこ!
お:うおっ
 ノギらの車、歩く彼女の横に静かについていく。
ノ:おーい!
し:…!しつこいんだけど
ノ:こんな夜道女の子がひとりで歩いてたら危ないよ!
し:…
ノ:ここ、席空いてるけど、送ろうか?
し:…
ノ:どこ行ってんの!?
 しえり、ため息とともに立ち止まり、
し:父親の車!家族とご飯行くの!
ノ:お!そうなの?ちょっと乗りなよ。見せたいものあるんだ
し:なに?!
ノ:買ってきたよー!
し:?
ノ:あれ!
 例のホテルを指差す。
し:…は?何馬鹿なこと言っ_
 しえり、ホテルの前に立ち驚嘆する。
し:ええーー?!
 ホテルの名前は「Shieri's palace」
 二人、ホテルの中に入ると、スタッフ以外人が見当たらない、広く、豪華なインテリア、優雅な音楽。
 この状況をしえりはぼーっと眺めている
し:…
ノ:…コース、用意してるんだけど
し:…なんでもかんでも金で買おうとするのってどうなの
 ノギ、微笑む
し:…
 部屋、薄暗い中、二人は体を交えている
ノ:はあ、はあ…!もうやばいかも…!
し:いいよ?きてえ!!
ノ:うっ…!!_はあー(ベッドに倒れる)
し:はあ…はあ…
ノ:しえり、愛してるよ…
し:はあ…ははっ
 翌朝、ノギ、不快感とともに目覚める。隣にしえりはいない、布団の中を覗くと糞尿を漏らしている
ノ:え?うわやべっ!やっちゃった
 飛び起きて鏡を見る。全身にぼつぼつができ、腰回りはただれたようにひどい
ノ:うわ!!あの女まじで…!
 箪笥の上の腕時計が無くなっていることに気づく。
ノ:ああ!!ない!どこ…
 部屋を飛び出て走り出す
ノ:ああ痛い、取れそう…
 股間を抑えながら屋上プールに行くと、しえりは水に浮かんでジュースを飲んでいる
し:あ、おはー
ノ:ああ!いた!おい性病女!てめえとんでもねえもん移しやがって…!なんだよこれ重症じゃねえか!
し:うちのせいにすんの?こっちはどこも変じゃないよ?(泳ぎながら)
ノ:ちぃ!(内股で歩きながら)俺の腕時計は!?
し:え?ああー、これ?
ノ:ああ~!そうそうそれ、いて、ちょっと、それ返し_ごほお!
 咳込み始め、その場で倒れる
ノ:ごほ!ごほ!!っか…あの、救急車呼んで…
し:え?
ノ:救急車!!呼んでくれっ…!頼むっ…!
し:えーいいよー?じゃあその代わりにこれ貰ってもいい?
ノ:え…!いや…ごほっ…!それはちょっと…!
し:えーじゃあいっかな~
ノ:ええ…!?いや、おまっ…ごほっ!あがっ…息がっ…!ぐふっ!
 ノギ、静かになる
し:…ねえねえ
 ノギ、反応がない
 しえり、足でつついても動かなくなったのを見て、ジュースの残りを一気に飲む
し:っぷはー!ながっ!
 すると突然のサイレン、地上を見ると救急車から担架を持った隊員が降りている。
し:_え?なんで?
 周りを見ると屋上バーの中で隠れていた男性スタッフと目が合う。男性はさっと隠れる。
し:…やばっ!
 しえり、荷物を持ってホテルから離れていく
し:(電話で)とりあえず早く車出して救急車つけて
 しえりが通り過ぎた車の中におっさんが乗っていて、電話を取る
お:おう!おつかれい!
ボーイ(バーカウンターの下に隠れて):ちょっと高野さん!なんですかあの人!
お:いったじゃーん、お嬢お嬢(車を出し、出発した救急車の後をつける)
ボーイ:ノギさん血い吐いてましたよ??僕大丈夫ですか?ヤバいことに巻き込まれてません??!
お:大丈夫だって。とりあえずパパっとホテル出て、あとで辞める連絡入れな―
ボーイ:え?!ここ給料良いんで辞めたくないっすよ!
お:俺がまた紹介してやるから!今日は帰りな~(切る)…ノギちゃん死ぬなよ~!?
 病院に到着
 手術室
医者:…意識が戻ってきた、胃洗浄の準備を!
 病院の受付、果物の入ったバスケットを持った怪しい黒ずくめが電話口で
黒1:…はい、この病院で合っているようです、病室に向かいます
 病院の近く、路肩に止まった車の中でしえり
し:生きてるの?!
黒1:はい、そのようです
し:…人が少なくなったら病室に入って。置いてすぐ出てって。
黒1:(エレベーターを降りて)わかりました。しかし、しえり様からのものを本当に口にするでしょうか
し:あいつはなんだかんだ惚れてるよ。どうせ怪しみながら口にするわ。早く行ってきて!(電話を切る)…ったく、なんで救急車。(ノギの腕時計を出して)…ただのボロい時計ね
 黒服たち、こそこそと病室に入る。バスケットと置手紙を棚に置き、病室を出ていく。おっさん、廊下の角からその様子を見ている
 黒服たち、しえりの乗った車に戻り出発する
 夜、ノギ、苦しそうに目を覚ます
ノ:うう…病院…?(痛みながら起き上がる)
 お見舞い品に気づく。
ノ:…なんだ?おっさんか…?
 置手紙を見ると、
「ちゃんと生きてる?さっきはびっくりした!心配だからお見舞いに来たけど、まだ意識戻らなかったみたいだったからこれだけ置いておきます。食べれそうなら食べてね♥連絡待ってます(キスマーク)」
ノ:?!あいつ…!(果物を見る)くそ、誰に移されたと思ってんだ!(リンゴを手に取り食べようとする)あの女絶対ただじゃおかねえ_
お:(病室の入り口で)食べない方がいいと思うぜ
ノ:おっさん!いつの間に…
お:そんな目にまで会わされて、どこまでもめでたい子だな…
 ノギ、口を閉じ、ゆっくりリンゴをバスケットに戻す
ノ:…一体なんなんだ、あの女。どんだけすげえ病気持ってんだよ…
お:…あいつは病気持ちだって言ったが、大体いつも、あの女と寝たおやっさんたちは体に湿疹だなんだ騒いだあと、ぱったり消息を絶つ。捜索すると、全身溶けて爛れた男の死体が見つかるらしい。誰かに殺されて捨てられたのか。遺体解剖すると、ひどいものは数種類もの毒が発見され、人相特定も出来なかったり…
ノ:な、なんだよその話、まさかそれ全部、あの女がやったって言いてえのか?
お:君は病院に運ばれたのが速かったおかげで一命は取り留めたらしいが、壊れた組織はもう諦めた方がいいってよ
ノ:(ズボンの中を見て)…くそ!!あの女あ!訴えてやるう!
お:まあいい整形外科教えてあげるよ
ノ:おっさん…あんた知ってて俺をそそのかしたのかよ!自分が食われないように!!
お:お前を死なせるつもりじゃなかった。確かめたかったんだ、あいつの腕を
ノ:確かめるだと?!
おっさん:あの娘は箱入り娘の顔して、父親に使われている立派な殺し屋なんだよ。父親にとって邪魔なやつを殺し、一切証拠を残さない。証拠を消す執念が強いんだろう。この毒リンゴも、殺し損ねたお前から名前が割れないように、こんな大胆な方法で殺し直そうとしたんだ…一切証拠を残さずに仕事をこなす…まるでお前みたいだ
ノ:?!
お:あの子と一緒に仕事してみないか?
ノ:はあ?!俺を殺そうとしたやつと?!
お:でも死ななかっただろ
ノ:!
お:あの女の牙を喰らって生き延びたなんて聞いたことねえ。お前はあの女に耐性があると見ていい、死なずにあの女のネタを掴んだんだからな
ノ:でもあいつは父親の会社のためにやってるんだろ?小物の俺と組んでも何も…
お:小物だから自分よりでかい武器が必要なんだろ?これからもっと大物を狙っていくならお前一人だけじゃ無理だ。あの娘は人脈も裏情報も持ってる。あいつの弱みを握ったんだ。うまくゆすればそれらを使えるようになるかもしれない
ノ:!おっさん…
 おっさんの車内、夜の都会を走っていく
 翌朝、しえり宅、豪邸である。
家政婦:お嬢様、お手紙が来ております
し:ん~
 封筒を開けてみると、ノギへのお見舞いに沿えた置手紙がそのまま入っている
し:は?!どうやってうちに
 その置手紙と別に、もう一つメモが入っている
「おかげさまで死ななかったよ」
し:?!
「ことを荒立てたくない。今までの所業をばらされたくないなら、この場所に来い」
 メモには、泊まったホテルと部屋の番号が記されている。
し:…あのくそ犬…
 昼、黒塗りのベンツがホテルの通りに現れる
 ホテルマンが迎え、車を駐車場へ運転していく
 黒服二人、受付に申し付けて上階に向かい、しえりはロビーの椅子に座って待つ。手には通話中と表示されているスマホが。
 すると後ろから手袋を付けた手がミュートをタップしスマホを取る
し:?!なにっ…
ノ:おはよう、岩崎のお嬢さん。ちょっと二人だけで話したくてさ(通話をスピーカーモードに変える)
「お嬢様!部屋の前に着きました!(ドンドン)おーい!出て来いおらあ!」
ノ:はは、ヤクザだねえ
し:ドブ犬の臭いがしたと思ったら…返せ!
ノ:交換だ。俺の腕時計を返せ。
し:は?んなの知らな_
ノ:失くしたって言うならどんな写真が投稿されるか分かんないよー。うお!このラインハリウッド俳優の?!
し:てめえ!!
ホテルマン:岩崎さまー!お迎え様が来ております!
ノ:君を迎えに来たのか、じゃあ行かなきゃ
 ロビーを出て待っていたのは、しえり達が乗って来たベンツ
し:…は?駐車してたはずじゃ…
 運転席の窓が開く。ホテルマンに扮したおっさんが現れ、ノギの腕時計をちらつかせる
お:おぼっちゃま、ここにありましたよ
し:な?!
ノ:ありがとう、セバスチャン(スマホの通話を切りしえりに投げ渡す)
お:誰がセバスチャンだ
ノ:(腕時計をつけながら)捨てずに取っておいてくれてたんだね。さ、乗って
し:?!じゃああの部屋には…くっ!(黒服に再度電話をかける)
 次の瞬間、車の中に座っていて、電話はプープーと切れている
し:…え?
 ノギがドアを閉め、出発
し:今何が…
ノ:とりあえず落ち着きな。ビジネスの話をしよう
し:何が望みなの…?
ノ:俺はノギっていうんだ、色んな大富豪の宝なり秘密なりが好物さ
し:…はっ、本当に犯罪者なんだね
ノ:君には及ばないよ
し:…
ノ:でも俺は君を吊したいわけじゃない、むしろ助けてほしいんだ
し:は?
ノ:俺が次狙ってるのはこいつ(資料を出し)_証券会社の社長、この間高額の絵を落札したらしい…それを狙ってんだけど家のセキュリティが頑丈で…君にハニートラップを仕掛けてほしいんだ
し:はあ?!なんで私が
ノ:絵の額は12億
し:!!
ノ:少しは興味持った?たった一枚の絵盗るだけ。君は業界一モテている花魁だから、この社長をメロメロにして家でいちゃいちゃしているとき、俺にやったみたいに毒技を決めて救急車を呼んでほしい。したら救急隊員が家に飛び込んだ隙に入り込める!
し:なっ…そんな状況でどうやって盗みなんかできるわけ?!
ノ::俺は怪盗やってまだ3年だけど、誰より手際は速いよ。さっき君を運んだようにね?
し:…!
ノ:とりあえず、今大事なのは君がこの話に乗るかどうか。報酬は6億…いや、君と二人で成功したら、9億は上げるよ
 しえり、しばらく考えこみ
し:(ため息)…分かった
ノ:おお?!
し:ただし、もし絵がパチモンでも私を巻き込んだ以上9億は絶対払ってもらう、死んでも
お:…!
ノ:…ふ、上等じゃない。いいよ?死んでも払うよ
 しえり、にやりと笑う
 場面変わりとあるパーティー
 しえりは豪華な衣装で歩いている。離れた席にいるノギから無線で
ノ:ターゲットは田所方郭、絵の買ってからは浮かれて飲み歩いて、若い女に絵の自慢をして回っているそうだ
し:(田所を発見、女に鼻を伸ばして話している様を見て)…はっ、キモおやじの相手なんてちょろい_こんばんはー
田:うおっ?!岩崎君のところのお嬢さん?!奇遇だね!
し:父親が急な仕事で来れなくなりまして、代わりに私をよこしたんです
田:おーそうかそうか!ささ、こっち座って!
ノ「頼んだぜマグロちゃん」
し:(無線に小声で)黙れ…あはーありがとうございます!(乾杯する)
 深夜、タクシーから降りた田所の肩をしえりが支えながら家まで歩く
 二人、一つ目の玄関に入るとオートロックがかかる。エレベーターで本玄関へ
 しえり、リビングにつくと電気をつけ、田所をソファに降ろす
し:お水飲みます?
田:あ~ありがと~
 しえり、水を注ぎながらノギとの会話を思い出す
ノ:一階と二階の玄関はオートロックだが、エレベーターの故障時用の階段入口は何もついてない。救急隊員はそっちの入口から入ろうとするはずだ。そこを開けたまま田所が運び出されるまで待っててくれ。その隙に_
田:これだよしえちゃん、見て!
 正面の壁には大きな絵が飾られてある
田:本物の芸術さ…見てるだけで吸い込まれそうだろ?!
し:すごーい…!
 田所、しえりの肩を引き寄せて甘え始める
し:もう~、だーめっ
 ポケットの中の小瓶に手をかける
田:いいじゃん!
 田所、強引にキス
し:んっ!?(このくそじじい…)
 時間が経ち、ベッドに寝ている田所激しく咳をし始める
し:大丈夫?!
田:ぐへぇー!!(思いっきり血を吐き出す)
し:きゃあー!救急車ー!
 しえり、手際よく救急車を呼ぶ
 救急車が家に到着する
 しえり、田所の背中をさすり
し:ねえ!喋れる?!
田所:うっ…ぐへえー!(しえりの膝に血を吐く)
し:(うわ!最悪!!)ねえ!救急車呼んだ、どうすればいい?
 田所、咳込みながらキッチン横の勝手口を指さす
し:あそこね!
 しえりが勝手口の扉を開けて叫ぶ
し:こっちです!!こっち来てください!
 救急隊員急いで階段を上り、しえりはドアを開けたまま彼らを通す
し:(どうするんだ…?あんな大きな絵、防犯カメラに映らないわけがない、それとも強行突破?…やっぱりこんなの乗るんじゃなかった!)
 田所、救急車に運び込まれ、そのまま出発する
し:…ふう、とりあえず第一関門突破…あとはあいつの到着を_
 リビングに戻ると、巨大な絵が無い
し:ええ!
 すると無線が鳴る
ノ:…運び終わったぞ。戻ってこい…もたもたするな(ブツッ)
 しえり、急いで大通りに出てバンに乗る
ノ:うわ!なんだその血!
し:うるさい!それより_
 後ろを見ると先ほど見た絵がある
し:…!
 別日、豪華客船で大勝を祝う二人、テーブルの傍にはアタッシュケースの山
二人:かんぱーい!
し:っかはー、ったくどうやったの?絵をずーっと見てたのに、目を離した一瞬で消えたわ
ノ:へへー
し:ねえ私にだけは教えてよぉ~?
 しえり、ノギを甘い声と仕草で誘惑する
ノ:うへ…(咳払い)けっ、同じ目にあうもんか!
し:ちぇ
ノ:…これからも俺と仕事をしてくれるなら、教えてやってもいいぜ
し:ん~?私にも本格的に怪盗になれってこと?
ノ:ああ(グラスの酒を一気に飲む)今までは一人でやってきたが、それだと限界が近くてな。もっとでかい夢掴むには、仲間が必要なんだ。
し:ふーん?(顎に手をつき)でかい夢って?
ノ:(顎に手をつき)もっとでかい金…!億なんて可愛い、何千兆…!そしてその先にある地位さ
し:世界一の大怪盗?それとも、世界一の大富豪?
ノ:…世界一の王さ
 しえり、現実味のない話に飽き飽きする
し:はあー、そうなの。なんか気分削がれちゃったな―。もっとましなこと言う人だと思ってた。
ノ:…ちょっと、窓の外見てて
し:うん?
 時計をいじり時間を止める。波打つ海が止まる
し:?!!え
ノ:これが種明かしさ
 周りの人も動きを止めている、外のカモメも止まっている
し:…は…いつのまに仕込んだのか知らないけど、すごいわね、役者でも雇ったの?
 ノギ、甲板に出る。しえり、気味悪がりながらついていくと、広い海が全て止まっている
し:なっ…なによ、これ…
ノ:これで信じてくれ。俺は時間を止めることができる
し:?!
ノ:時間を止められるから、何を盗むにしても、道が開いていれば一瞬で終わるのさ
し:…その腕時計が…?
ノ:…ああ
し:(その景色に見惚れる)…なんで教えてくれたの?……あんたを殺そうとした私に…
ノ:…(頭を掻いて)さあな、あの誘いに乗って、最後まで付き合ってくれた時点で、信頼してもいいだろうって思ってた…
し:…くっ…くくくく…
ノ:ふは
 二人、噴き出すように笑い出す
し:(笑い転げながら)時間を止めれる怪盗...?くくく…もっと他にやることあるだろ…!
ノ:かはは、すげえだろ?!
し:だからっ…王様に…!なるほどねっ…くはは!
ノ:笑いすぎだろ
し:いやだって…時間を止めれるとか…うける…!
ノ:…で?どうする?
し:…はは、もっと寒い男だと思ってたけど、そんなでかい爆弾持ってるなんてね…!…いいわ
ノ:!
し:下らない援交には飽きてたからちょうどいい、でかい金、稼げるんでしょ?
ノ:…(笑顔で)そうこなくっちゃ!


#創作大賞2023 #漫画原作部門

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