POSSESSOR 第3話 鉄の男

 とある社長室
 社長、電話で慌てながら
社長:_どういうことだ?!御曹司が失態を犯したって!__岩崎の娘に手を出した…?あのバカ息子、分別も危機察知能力もねえのか?!どうしてくれるんだ!あの会社が無くなったら資金源が…くそ!あいつの親父に責任取らせるしかねえ__あ?株価?!(PCを操作して株情報を見る)なんだよ今はそれどころじゃ…うわあ!なんだこれ?!まだ情報は公表してないはず__は?怪盗?なんの話_
 つけていたTVから聞こえる
ニュース:_続いてのニュースです。株式会社オマルの代表取締役が、政治家に賄賂を贈呈した等の疑いで、書類送検されました
社長:はあ?!なんで俺!
電話口:お前も抜かれたんだよ、怪盗から…ま、せいぜい刑務所でお幸せにな…
社長:抜かれた…?俺が…?(切られる)おい待て、もしもし!…
 静寂になる社長室。微かにサイレンが聞こえ慌てて外に出る
社長:おい!支度して車出せ!いつものやつら集めろ!あいつもな!
秘書:はっ
 占い師の部屋。社長は汗だくでテーブルに座る
占:…犯罪者に来てもらっては困るのだが…
社長:(横に置いた金庫を指し)こんだけ渡したんだ…勘弁してくれ…
 入口には屈強な男が銃を持って立っている
社長:それに…ここには簡単に入れないだろ…
占:で?何の用だ
社長:はっ、分かってるくせに…あんたも最近聞くだろ?…俺もいつの間にかやられちまってた…誰が裏切ったかはどうでもいい…あいつらに盗られた俺の資産、情報…それらを野放しにしておくわけにはいかねえ…!(殺意の目つき)
占:…それを取り返したいんじゃな?(トランプをパラパラし始める)
社長:(嬉しそうに)はは…こんな緊急事態でも金庫持ってきたんだ、働いて貰うぜ
占:(ぴたっと止め、分けて広げる)…うーん、「鉄人」を使えばまだ可能性はあるじゃろう
社長:…!?お前…
 占い師に迫り
社長:なんで知ってる?!
秘書:社長!(止める)
社長:!
 周りを見ると、銃口を向けられている
社長:お前…まさかお前も俺をはめたやつに協力したのか!?
秘書:まあまあ、落ち着いて!絶対当たるから…
社長:…まあいい。うちのスーパーマンに助けてもらうか
 おっさんの会社
お:で?御曹司をマン汁でやっつけて、時間止めてる間に逃げてきたってわけ?
し:じじいてめえも爛れた肉塊にしてやろうか
お:それにしても、ノギちゃんがそんなに時計を使ってくれるなんて…(資料を見ているノギに向かって)お前、やっぱまだ惚れてんじゃないの?
ノ:馬鹿か、仲間だから仕方なく使ってやっただけだ
し:…何?無限に使えるんじゃないの?
お:…あいつの時計はな、時間を止めるとき、その間自由に動けてる分の時間だけ寿命が減るんだ
し:え?!
お:それが時間を止める代償だ。時間を止めるってことは生物の生命活動も止まる、つまり寿命も減らないでいられる。周りの人間の時間が止まっている間、あいつ一人の体だけは時間が進んでいるわけだから、つまりは時間停止をした分だけあいつの寿命は他の人より減るってことになる
し:…なるほど…?1時間止めたら周りより1時間進んで…1年間止めたら、あいつは先に1歳年を取るってこと?!
お:その通りだ、しかも自分以外の人も自由に動けるようにしたら、そいつの分も_
ノ:おいおっさん!勝手にべらべら喋らんでくれよー、それより次はこいつかあ?リゾートホテルの副社長が脱税…こんなん、うまく釣れたところでたかが知れてんだろ
お:ちょっと有名になったからってもうベテラン気取りか?
ノ:そういうわけじゃねえけどよ…
お:お前は今「下積み」の時期だ。黙ってやんな
ノ:はいはい…おい、ここ行くぞ
し:あ、うん
 ノギが扉に手をかけると突然、扉が誰かに突き破られ、扉は壁ごと地面に思い切り倒される
し:!?そんな…ノギー!!!
ノ:(しえりの後ろに立っている)ひえーあっぶね
し:うお?!いつの間に
 土埃の向こうには、巨漢が息を荒をくして立っている
ノ:(しえりを前に立たせ)…誰だ、あいつ
 おっさん、机の下からひょっこり顔を出す
鉄人(以下、鉄):ひゅー、ひゅー…怪盗って、ここ?
し:!?
ノ:なんだ!?どうやってここが…
 鉄人の目が光る
鉄:お前…!怪盗か!!
 鉄人、一歩でノギ達のそばのちゃぶ台に足を乗せる
二人:!?
鉄:怪盗、殺す…!
 鉄人、両腕を構えたところで止まる
お:(覆った手の隙間から覗く)...ん?
ノ:…!なんだ?襲ってこねえ
 鉄人、しえりに見惚れている
鉄:…
し:…!
鉄:…うおおおあああ!
 鉄人、思い切りしえりに抱き着くが、しえりは消える
鉄:??
 街中、ノギはしえりの手を引いて走っている
ノ:な、なんだあの巨体はあ?!
し:誰かが、私らをつけてたの?!
ノ:はあ、はあ…っ!わからない…!
お:これまでより仕事量を急に増やした分、恨みも色んなところに売っちまってたんだな
 三人、走り続ける
ノ:なんであんたもいるんだー!?
お:あんな化物と一緒にいろよってか。てかノギちゃんちゃっかり手引いちゃって_
ノ:(乱暴に手をほどき)うるせえ仕方ねえだろ!…あれてか、おっさんもいるってことは…?
 後ろから鉄人が全力疾走で走ってきている。吹き飛ばされる通行人達
三人:うおおお!!
ノ:と、とりあえず分かれよう!
 おっさん&しえり、ノギの二手に分かれる、鉄人、しえりの方へ走る
ノ:?!…あいつ!
し:きゃあ!こっち来てるじゃん!
お:…おい、あいつお前に惚れてんじゃね?
 鉄人の回想
ナレーション:彼は、今まで恋を成就させたことがなかった。手をつなごうにも抱擁をしようにも、全て相手を傷つけてしまうからだ(血を出し叫ぶ女達)。彼は学生時分、その大柄な体、そして純朴な性格のため、田舎でガキ大将を務めていた。校庭に迷い込んだ熊に裸一貫で立ち向かい、頸動脈を嚙みちぎって倒したという逸話を残している(熊と格闘する場面)。彼はそんな腕を買われ、田舎から上京すると株式会社マルオの社長を守るSPとして働き始める。しかし、血生臭い職業柄、女子は誰も寄り付かず、恋愛とは無縁な生活を続けてきた。(しえりの怯えた上目遣いの表情)しかし、彼女に会ってからは、その残忍な攻撃の手にも迷いが生じ、心がざわつきぽーっとする。(逃げるしえりの後ろ姿)あの子に触れたい…!抱きしめたい…!今までの失敗を忘れたかのように、彼の心は舞い上がっていた
鉄:うおー!(飛び掛かる)
し:!?
 ノギ、しえりの叫び声を聞き
ノ:!?どこだ!…くそ、また御曹司の手先か…?おーい!
 ある建物に入る
ノ:ここから聞こえた気が…
 横から銃口を向けられる
秘書:動くな…少しでも動いたら、もう怪盗ごっこも出来なくなるぜ
 その建物の裏のゴミ捨て場、鉄人がしえりの口を押え息をひそめる
し:んー!んー!
鉄:…
 しえり、鉄人の股間を蹴って解き放たれる
鉄:っほぉぐっ...!
し:ぷはー!はあ、はあ…!ったく、連日変態共が_(鉄人を見ると一目惚れする)
ナレーション:彼女は、今まで恋を成就させたことがなかった。幼い頃から父の戦略にその青春を使われ、まともな恋が見つかったと思っても黒い噂が邪魔をした。そのうちその体さえ武器とし、血を見ない恋は見つからなくなってしまった…(鉄人の顔アップ)しかしこの男は今までのどの男より清廉で、(鉄人のはだけて見える体)その強靭な肉体は、傷まみれの彼女の心を優しく包む毛布に見えた。食べたい…!貪りたい…!彼女の体はうずいていた
し:(子犬のように震える鉄人の胸倉を掴み)…おい
鉄:!?
 二人、接吻し、ゴミ袋の山の中に倒れる
 屋内、ノギは椅子に拘束されている
社長:…それでさ、俺の色々盗んだ泥棒さんが、一体どんな顔かなって映像記録を探してみたんだけど…
 ノギが書類を抱え歩いてきて、周りを気にしてぱっと消える映像を見せられる
社長:これねー?データが壊れてんのかなって確認したけど正常っぽくて、それでどーしても分からなくてさ、本人に聞きたいなーって…お前、どうやって家入ったの?
ノ:(…くそ、この状態じゃ時計をいじれない、どうすれば…)
社長:…おい、とりあえず身ぐるみ剝がせ
 部下たち、ノギの服を乱暴に引っ張り、腕時計も取ろうとする
ノ:…!!おい!やめろお!!
 部下たち、反射的に銃を構える
 すると、横の壁を破壊され鉄人が入ってくる。その三歩後ろをしえりが歩く
社長:_おおー連れてきたか、さて、お仲間にも_
し:…壊して
 鉄人、ノギめがけて走り出す
ノ:!?おい…ちょっとまっ!うおお!
 そのまま椅子に体当たりし、ノギの拘束が解かれる
ノ:ぐお!
秘書:おい鉄!お前何を_
 鉄人、秘書や他の部下をラリアットでぶっ飛ばす
ノ:ええ?!
し:早く!
ノ:あっ!(時間停止、ノギ、鉄人、しえり以外止まる)…おい、どういうことだよ
 しえり、鉄人の腕に抱き着き
し:私達、付き合うことになったから
ノ:(よれよれ服で)はあ?!
し:こーんなに丈夫な男は初めてだわ…このブツも、あのテクも、今までとは大違い…私の体液をあんなに浴びてもまるで平気
ノ:なっ?!お前ら…
鉄:ふほ(ほっぺを掻き照れ笑い)
ノ:…!おい、しえりてめえ敵と何して_(しえりに迫る)
 鉄人、蚊を叩くようにノギの頭を潰そうとするが、空振り
ノ:(鉄人の後ろで)!!は…あぶ、あぶねえなおま_
鉄:(振りむき)ふん!
 殴るが外れ壁を壊す
ノ:(鉄人のそのまた後ろの柱で震えて)おい!殺す気かよ!
鉄:ふごおお!!(地団太を踏む)
し:落ち着いて…リーダー!この子も私らの仲間になりたそうよ、こんな可愛い顔…
ノ:は!?おい、俺を殺したい風にしか見えないんだが?
お:仲間に入れてやれば?
ノ:!おいおっさん、どこいたんだよ!
お:怪盗には馬鹿力が必須だろ?この三人なら、盗めないものはないんじゃないか?
し:だって!
ノ:なっ…!
 鉄人、悪巧みな笑顔
ノ:…まじかよ

#創作大賞2023


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