大学教員やめてデータサイエンティストになります

退職エントリってやつです。
私は現在、国立大学で助教をやってます。
そこを今年度いっぱいで辞め民間企業に行くことにしました。
5年任期の3年目を終えるところでの転職です。

思えば学部4年からから10年以上、土壌や微生物の研究をしてきました。
学位取得後はポスドクとして北は宮城から南は沖縄まで、場所を変え、テー
を変え、必死にアカデミアにしがみついてきました。
そしてやっとのことで3年前に大学教員になれました。

しかしこのポジションは任期付き(5年、更新なし)なので、安心も慢心もきません。
大学着任の直前に出たこんな記事が界隈では話題になっていましたhttps://anond.hatelabo.jp/20180326180513
この筆者も私と同じ境遇(任期付き助教、更新なし)で、次が決まらずに所属先を去っています。
こうはなるまいと、現職に着任したその日から転職活動を始めていました。

着任後、研究の方はそれなりに順調で科研費を獲得し、新学術のコンソーシアムにも入れてもらい、学会の奨励賞をもらい、論文数もそこそこ見れるようになり、企業と共同研究も始め、ベンチャー企業のアドバイザーにもなったり、色んなものが順調に進んでいました。

ではなぜこれからってときに転職を決意したのか

理由はこの5つです

1.この年で不安定(任期付き職)は辛い
2.業界の将来性を見て
3.(不安定さからくる)研究へのモチベーションの低下
4.アカデミアにいても(好きな)研究ができるとは限らない
5.転職先がすごく評価してくれた

1.この歳で不安定(任期付き職)は辛い

前述しましたが今のポジションは任期5年でその後の延長はありません。
つまり任期切れと同時に大学を追い出されます。
これを書いてる2021年2月時点で私は37歳。
いい年齢になる中でまだ不安定な職にいるのは年々辛くなってきました。
その理由はやはり家族です。
妻と二人の子供を養い、これからますます養育費がかかってくる中、いつまでもフラフラしていていいものか。
家族のことを考えるとそろそろ一ヶ所に落ち着いて、妻の働き場所や子供の進学といった、長期のライフプランについてことを腰を据え考えていきたいと思い始めました。
周りには任期付きポジションながら家族を養ってる人がたくさんいます。
そういう人たちは本当に尊敬します。
でも私は耐えられませんでした。

2.業界の将来性を見て

しかし安定性だけなら、アカデミアでパーマネントポジションを取ればいいだけの話です。
実際に就活の初期はアカデミア一本に絞り、大学や国研をメインに探してました。
でも、ないんですよ、求人が。
ここ数年で私の研究分野の大御所が何人も定年退職されていますが、その後任が募集される気配がありません。
ラボ自体がなくなったところもあります。
博士過程に進学当時は「真面目に研究して成果を出せば必ずいいポジションはみつかる」と言われてましたが、ポジション自体が出てこないとは想定外です。
残り任期内でパーマネントポジションが出てくる可能性が高くなさそうな中、民間企業という選択肢を真剣に考え始めました。

3.(不安定さからくる)研究へのモチベーションの低下

もともと知らないことを知るのが好きで、複雑な自然現象を解き明かすために研究者への道を選びました。
しかしポスドクとして任期付きの職を転々とする間にその思いはどんどん薄れていきました。
具体的には研究に対するモチベーションが「新たなことを発見する」よりも「業界で生き残ること」にシフトしていきました。
研究計画を立てたり、データを解析したり、他の人とディスカッションをすることはすごく楽しいです。
一方で研究の目的が自分の研究業績を稼ぐこと、すなわち就活の道具になっていました。
「生き残るためには年◯報ペースで論文を書いて、外部資金も取って、共同研究もやって…」っていう打算的な考えもしていました。
こうなると徐々にサイエンスを楽しめなくなっていき、研究へのモチベーションが低下していきました。

4.アカデミアにいても研究ができるとは限らない

大学教員になり改めて日本の研究環境の厳しさを思い知りました。
現ラボのボスを見ると山のような会議、書類仕事、学生対応で研究する時間が年々減っていってました。
さらに大学から配分される研究費も削減され続けています。
私も外部資金が取れず数万円の予算で研究をしなければならない年もありました。
その中でできることは非常に限られており、研究もほとんど進まず非常に苦しい時期でした。
上述のモチベーションの低下も重なり、ここまで苦労してまでアカデミアに残る意味があるのかと自問自答する日々でした。

このようにいろいろと思うところがあり、昨年の秋から本格的に企業への就活も始めて行きました。
転職活動のアレコレについてはココに書きました。

そして、2月上旬に企業から内定をいただくことができました。

5.転職先がすごく評価してくれた

転職先はヘルスケア系のベンチャー企業です。
これまで専門としてきた、土壌や微生物、もっと言うと農業とは完全に異分野です。
ここでは私の経歴や技術を非常に高く評価してくれました。
また勤務地、待遇なども最大限の配慮をしてもらい、良い条件を提示していただけました。
最も決め手になったのは「楽しそうだ」ということです。
仕事の自由度も高く、これから伸びる分野で、会社や社長、社員同士の雰囲気も良さそうで、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まり、海外展開も期待でき、残業が少ないという私の条件にぴったりな会社でした。
他の選考との兼ね合いで内定への返事をなかなか返せなかった中でも、「どうしてもあなたに入ってほしいから」とギリギリまで返事を待っていただけました。
人生でこんなにも必要とされたのは初めてと言っていいかもしれません。

これらが決め手になり、転職を決意しました!

転職先が決まったことを妻に報告したところ、

「これでやっと安心できる」
「次はどこに行くのだろうと結婚当時からずっとドキドキしてた。」
「やっと10年かかった就活が終わったね」

などの言葉とともに、涙を流して喜んでくれました。
任期付きというポジションが家族の負担になっていた事を改めて感じました。
この言葉が聞けただけでも「転職して正解だった」と思います。

最後に

Twitter(@chol_gyu)でネガティブなことをつぶやくたびに、様々な方からエールをもらい、そのたびに勇気づけられました。
本当に感謝しています。

これから研究を続けると間違いなくより多くの成果を残すことができました。
まだ解析途中のサンプルもたくさんあります。
やっと芽を出し始めた研究テーマだらけで、さあこれからというタイミングで、それらを全部切って次に進みます。

参画しているいくつかのプロジェクトを含め、一緒に研究してきた先生方には大変心苦しい思いでいっぱいです。
私のわがままを許してくれるか分かりませんが、決断した以上は命を懸けて頑張りたいと思っています。

今は何を言っても「裏切り者」と思われるかもしれませんが、いつかは、「あいつは企業に行ってよかったな」と思ってもらえるように頑張りたいと思います。

いつか描いた未来が僕のポケットにあるから

2020/3/1追記:この記事への反響と補足を書きました。
https://note.com/chol_gyu/n/n06973d8ec1af


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