阿久悠の記したSHEENA & THE ROKKETSの人・音楽・愛

いなせなロック夫婦と歌謡曲の巨人による奇跡

作詞家・作家の阿久悠(1937~2007)は、SHEENA & THE ROKKETS(シーナ&ロケッツ)のアルバム「Rock on Baby」(1994年4月21日リリース)全曲の作詞を手がけた。
この共作にまつわるエピソードを、阿久悠が晩年の著書『なぜか売れなかったぼくの愛しい歌』(河出文庫)で取り上げている。

始まりはこうだった。

ビクター・レコードの一階ロビーの奥に、レッスン室のような、視聴質のような、応接室のような小部屋があって、そこで、シーナ&ザ・ロケッツ、つまり、シーナと鮎川誠の夫婦と会った。新しいアルバムの全曲の作詞を依頼された時のことである。
ディレクターが同席していて、阿久悠の作詞でと言い出したのが彼ら自身だということで、ぼくは突然やる気になった。このような一見異種交配と思われる組み合わせの場合、ディレクターの思いつきだけでは失敗することが多く、やはり本人同士が魅かれる、ものがないと駄目なのである。
ぼくは面白い世界を詞にできそうだと思い、彼等もまた、何が持ちこまれるのかわからないながらも、ひどく楽しみにしている気配が察せられた。
その時の印象は、夫婦そろって脚より細いような革パンツを穿いていて、それがたまらなくカッコよく見えたことと、夫婦の関係がきわめて新しいものに思えたことである。

阿久悠『なぜか売れなかったぼくの愛しい歌』pp.87

話し合いの結果、阿久悠は依頼を快諾し、アルバム全曲(10~12作品)の詞をでき次第納める約束をした。
この時点でミュージシャンやディレクター側は詞の完成まで半年、曲作りに半年、レコーディングはもう半年、つまり計1年半ぐらいかけて進行する仕事だと想定した。
ところが、往年の大ヒットメーカーが馴染んでいた仕事のテンポは、その3分の1程度の期間で完遂する感じだったから、直ちに取りかかる。
そして「ロックなひと」と見込んだ重鎮の職人的律儀さとエネルギーに愛すべきロッカー夫婦は腰を抜かすのだ。

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