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「この本はいわゆる図鑑ではない。」

ページを開くとまず目に飛び込んでくるのは、まるまるとしたベニテングダケだ。
マリオの赤いキノコ、といえばだいたいイメージがつくと思う。
ページをめくるごとに、赤い、茶色い、白い、黄色い、青い、丸かったり細長かったりぽこぽこしたきのこが、次々と目に飛び込んでくる。
かわいい。
そして、とくに美味しそうではない。

保坂健太郎監修『世界の美しいきのこ』(パイインターナショナル、2013年)

「世界の○○な○○」というタイトルの写真集が、雨後の筍のように現れた時期があった。もう10年前くらいだ。
大型のハードカバーもあれば、小型のソフトカバーまで様々だが、パイインターナショナルはA5変形版というのかな?正方形のソフトカバーでシリーズを出している。
わたしも何冊か持っているが、写真は綺麗で値段も手頃、○○好きの人へのプレゼントに、とりあえずちょうどいいかな、という感じだ。

本棚本シリーズは、本の最初の一文をタイトルに持ってくることにしているので、ぺらり、ぺらり、とページをめくって「まえがき」を探したら、なかった。
清々しいまでに、きのこの写真からはじまり、きのこの写真が続く。
まさかキャプションの「ベニテングダケ」をタイトルにするわけにもいくまい。
よくありそうな、ページ途中のコラムもこぼれ話もなく、文章が現れたのは180ページになってからだった。

そう、この本は「図鑑」ではない。
きのこの生息地や特性を教えてはくれない。
毒性の有無や見分け方を教えてはくれない。
当然だが、自生しているきのこがどれほど椎茸に似て見えても、絶対に食べてはいけない。
きのこはそれだけ、危険な菌類だ。

でも、人間にとって有害であっても、その見た目の美しさや不思議さにはまったく関係がない。
だってかわいいじゃない。
イラストから置物からキャラクターから、キノコがモチーフになるのもよくわかる。
だってかわいい。
だってこんなに色とりどりだ。

解説によると、日本で名前のついているきのこは約2000種、世界では2万種ほどあるらしいのだが、まだ名前のつけられていないきのこは、推定で20万種と考えられている。
20万種!
そんなに種類が多いとは、まったく想像もしていなかった。
スーパーで見かけるきのこなんて、10種類にも満たないというのに。
世界の情報化が進んで、世の中に知られていないことはもうないんじゃないか、と感じてしまうこともあるけれど、世界にはまだまだ知られていないことの方が多い。
つくづく,自分の知っている範囲でものごとを測ってはいけないなあと思う。

まあそんな小難しいことはいいじゃない。
美しいきのこをみて、美味しそうだなあ、食べたら死ぬだろうなあ、と思っているくらいが、平和でちょうどいいのだろう。


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