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「店内は、すでに戦場と化していた。」

シリーズものの2巻以降、というものについに手を出してしまった本棚本紹介です。
いやあ、気分が軽い。
現実問題として、シリーズものは適度に織り交ぜていかないと、「残り全部スレイヤーズ」となりかねないんですよねえ、冗談ではなく。

そんなわけで、長編17巻、短編35巻を誇るスレイヤーズシリーズの長編2巻が本日の本です。

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神坂一著『アトラスの魔導士(スレイヤーズ2)』(角川書店、2009年)
こちらはやっぱり新装版なので、旧版は1990年です。いやあ、挿絵の感じが古い。

「スレイヤーズ」シリーズ、そして神坂先生の作品のすごいところは、「主人公は初めからレベル100」なのに、作中でパワーのインフレ(少年漫画あるある)が起こらないことです。
スレイヤーズは1巻で魔王を倒してしまったので、「さて、最強ボスを倒してしまったぞ。シリーズどーすっかな」というところから構成が始まるわけですが、結果としてそれがうまくいったすばらしい例ですね。……いや、意図していないのに第二部ラストを1巻に繋げる力量たるや、ものすごいストリーテラーですよね、ほんと。

で、魔王を倒しちゃったあとの2巻は、フィールドが町中になっています。
最強の破壊力を持つ魔法を操れる我らがリナ=インバースも、きちんと良識()のある人間なので、町中で建物を破壊したり、善良な一般市民を巻き込んだりすれば、自分が犯罪者になることをしっかり自覚しています。
なので、お得意の高火力魔法は使えない。
とすると、さまざまな小技と呪文の特性を組み合わせて、トリッキーな戦いをしなければなりません。

うまいなー、こうやってハイパワーな主人公の力を封じるんだものな。
それに加えて今回は、「犯人は誰だ!?というか、一体何が起こっているんだ!!」という謎解き要素もあって、しかも事件が結構ドロドロしくて、いい感じにじめっとしたホラーみがあります。
いいよね、アトラス。一番好きかといわれたらそうでもないんだけど。

スレイヤーズのおもしろいところは、本編関連キャラが短編に出てきたりするところで、今回でいうと戦闘狂ロッドの妹のレミーが本編でリナと関わっていたり、さらにアメリアと関わるスピンオフがあったりと、けっこう遊んでます、先生。
ロッドはあんな激渋キャラなのになぁ……

短編のほうもですが、2巻はやっぱりスレイヤーズシリーズの方向性として大きな点であると思っています。
ここから継続して因縁を持つキャラもいるし、「愛する人を失ったとき、人はどうするか」という、テーマの一つにも触れているわけで。
スレイヤーズといえば、「魔族の陰謀との戦い」の面が際立っていて、戦闘シーンや戦略には毎度息をのむのですが、同時に「人間の感情が引き起こした事件」も同じくらいあって、敵側とはいえなんともいえない気持ちになります。
そこがいい。

それにしても、「店内戦場化」の原因なのに悠々と避難してご飯を食べ続けるリナの図太さよ。この強さがあれば、リナは“あちら側”にはならないんじゃないかな。


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