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「本須麗乃は本が好きだ。」

もやの中を手探りで進んでいるような、というのがこの本の一番の印象でした。

香月美夜著『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘I」』(TOブックス、2015)

本好きの人間は、とかく「本」「書店」「図書館」が題材の本が大好きです。。
フィクション、ノンフィクションに関わらず、これは世間一般に知られた真実でもあります。
わたしも例に漏れず、この『本好き』シリーズは出版当時かなり話題になったのを覚えています。

「でも“なろう”系のラノベだしなあ…… まあいずれ機会があったらでいいか」

と思っていたのも事実。
実際、本を手に取るまでには第1巻の出版から5年近く経ってしまったのでした。

そして、この本はわたしが2番目に聴いた「オーディオブック」でもあります(1冊目は『モモ』)。
ちょうどオーディオブックで1冊無料になるタイミングで、かねてより気になっていた本でもあったので、「無料だしつまらなければ途中でやめればいいや」と思って聴きはじめました。

ところがこれがおもしろいんだな。
結局今ではどハマりして、2020年にはじめて書籍を購入して以来、何回読み返したかわかりません。

書籍版だと、巻頭イラストはあるし、主人公マインの家の見取り図も、マインの暮らす町、エーレンフェストの地図もあるし、途中途中で挿絵もあります。
オーディオブックの経験は、そういった「書籍」としての特徴をすべて取り払ったものでした。

主人公の麗乃は、地震で本に埋もれて死んでしまい、異世界に生まれ変わります。
それも、「マイン」という貧民の家庭の、病弱な幼女として。
麗乃の意識をとおして見るマインの世界は、まずはとにかく不衛生。
日本の一般家庭に育った麗乃にとって、土足というのがそもそもNGだし、貧民層なので家は狭いし、寒いし、衛生概念なんてないし、「これは病気になってもしかたないよね」と思うような環境でした。
そしてマインは5歳程度の他の子どもと比べても恐ろしく体力がなく、少し部屋の掃除をしようとしただけで倒れて熱を出す、背も低いので台に乗らないとドアノブも開けられない、というしまつ。

大学卒業間近だった麗乃の意識は、この小さく非力なマインの中で、さまざまな葛藤を感じます。
その中の最たるものが、「本がない」ということ。
家族は貧民なので、そもそも文字も読めないし書けない。
父親は兵士をしているけれど、仕事に使う簡単な言葉しかわからない。

本が大好きで本だけが生きがいの麗乃にとって、本がない、文字もない世界は、ほんとうに地獄のようでした。

と、こういったことをオーディオブックで追っていくわけですが、当然ながら家の見取り図もないし街の地図もないし、そもそもキャラクターの見た目が表紙になっているマインしかわからないので、本当にもやをかき分けるような読書(?)体験でした。
マインが見たこと聞いたことしか情報がない、というのは、通常主人公よりも多くのメタ知識を持っている読者からしてみれば、なかなか得難い体験だったと思います。
よくわからない世界で、よくわからないなりに試行錯誤するマインの追体験をするような読書体験でした。

いやそれにしても、いま小説は30巻まで出ているのですが、あらためて1巻がどこまで話が進んだのか確認してみたら、まだベンノさんの面接をクリアしただけじゃないですか。
マインの異常性に気がついているのは、この時点ではベンノさんとオットーさんだけ。
マインの家族は、「最近元気になってきたと思ったら、変なことばかりする子だ」と思っている程度で、マインが成人のような知識と行動をとってもおかしいとまでは思っていません。
そういえば、このころはそうだったなぁ…… ルッツでさえ、まだ気がついていないものね……

わたしがこの物語が好きな理由のひとつが、「細かい描写をおろそかにしない」ということにあります。
例えば料理の仕方しかり。
例えば「家族は髪も洗わなければ体も洗っていない」という事実。
貧民街のトイレ事情。
豚の屠殺がお祭り扱いなこと。
そういった、「麗乃の常識とちがう、こちらの世界の常識」が丁寧に描写されています。

異世界もの、というと「現代日本レベルの常識で舞台だけ近世ヨーロッパ風」というのがあったりもするイメージですが、この本はそういうところがないのがいいところです。
単純に考えると、マインは現代日本の知識、しかも本好きなので大抵のことは知識として知っている、という「異世界転生ものあるある俺TUEEEEE設定」なのですが、「虚弱貧民幼女」と「知識はあってもモノがない」というデバフがかかっているせいで、あまりそのチート感が発揮されていません。
今後バシバシ発揮されていくけどね。
チートであってチートの立場にいない、というのが、物語への入り込みやすさに一役買っているのだと思います。

ところでオーディオブックを聞いているあいだ、ベンノさんのイメージが『乙嫁語り』に出てくるスミスさんの友人の彼(名前忘れた)の絵面だったので、実際に挿絵イラスト見てびっくりしました。
だれこのひらひらナンパ男。
いや、いいんだけど。
ちゃんとオールバックにすれば年相応に見えるけどもね、ベンノさん。

ベンノさんは大変好きなキャラで、ルッツと同率くらいです。
30巻まで出た今では、順位をつけるのが難しいのですが、とにかく初期の好きキャラ1位は間違いがありません。
いい性格してるよ、ほんと……

さて、2023年はじめの本棚本は、宣言していたとおり電子書籍になったわけですが、電子書籍解禁したことで、これから紹介できる本が格段に多くなります。
最近の好きなシリーズものは結構電子書籍もあるのでね。

今年も自分が一番楽しいように、本棚の本を紹介していこうと思います。
お付き合いいただけると嬉しいです。




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