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「ー 白い手 ー  女の手 ー だろうか?」

前回、「スレイヤーズはとりあえずいきなり襲撃されるところから始まる」と書きました。
今回も例外ではありません。
ただあまりにも静かで、あまりにも不気味なのが、普段と違います。

神坂一著『死霊都市の王(スレイヤーズ8)』(富士見書房、2008)

前回のラスト、魔竜王ガーヴの圧倒的な力の前になすすべも無くなったリナ一行に、ガーヴが近づいてきて、そして絶叫があがるところで幕を閉じました。
スレイヤーズらしからぬ、結末のないラストでしたが、その結末から物語ははじまります。

一見無力そうな腕が、あのガーヴの腹から生えている。

白い女の手、というと「十二国記」の汕子を思い浮かべたりしてしまうのですが、こちらはそんな可愛らしいものではない。
なにせ、リナの使える範囲で最強の魔術、神滅斬でも太刀打ちできなかったガーヴが、女の手のようなものに腹を貫かれ、絶叫をあげているのだから。

冥王フィブリゾ、すき

はい、ここでみんな大好きフィブリゾの登場でーす!
ガーヴの腹を貫いたのは、見た目10歳前後の美少年の姿をした冥王フィブリゾでした。
赤眼の魔王シャブラニグドゥの5人の腹心のうちで最強、今回の、というか4巻以降に暗躍していたガーヴの計略をことごとく邪魔するため、リナにゼロスをあてがった張本人。
つまりは第一部におけるラスボスです。
7巻に既に出てきているんですけどね、死んだふりをしてリナを騙したりと、当たり前になんでもやるタイプ。
しかも自分の力は温存しておく派。
そして可愛い。
はい好き。

魔族は概して(下っ端のやつほど)人間を侮りがちですけど、それは当たり前のことで、魔族の力は絶対的だからです。
で、まあフィブもそれはそうなんだけれど、一発で「ガウリイを人質にすればリナが動く」と読み切るのは観察眼が半端ないと思います。
はいそこ、話の展開の問題だとか言わない。
とにかく、主人公サイドからしたらえげつないほどにあっさりと、ガウリイを捉えて虚空へと消えるフィブリゾ。
そして「サイラーグへおいで」と言葉を残す。

大切なものを失ったときに、どうするか

これがスレイヤーズ全体を通して語られているテーマだ、というのは何度か書いていますが、それが今回、徹底的な形であらわれます。
本人が口で何を言おうと、リナがガウリイを大切に思っていることは間違いありません。
仮に捕まったのがゼルやアメリアでも、もちろん助けようとするでしょう。
それでも、人質がこの2人だけだったら(この2人も結局捕まるけど)、リナは最後にあの決断をしたでしょうか。

レゾは、何よりも欲していた「視力」を手に入れるため、結果として魔王の封印を解いてしまった。
ハルシフォムは恋人の死が受け入れられずにクローンを創り、そして不死の研究をはじめた。
アルフレッドは王位を欲するあまり魔族との取引を、ズーマは生きる目的のために殺戮を繰り返した。

それらはすべて、リナからしたら「はた迷惑な自己中な行動」であり、自分や周りの人間を傷つける行為だったために、戦って生き抜いてきた。

でも今回は、もし他に「正義の味方」がいたら、リナこそが「自己中な行動で世界を危機に陥れる」側になってしまった。
アメリアがいうように、「冥王が何を企んでいるか知ったら、わたしはリナを止めなきゃいけなくなる。たとえガウリイさんを犠牲にしても。でもそういうのは嫌だから」、だから正義とか世界とかよりも、仲間の救出を優先しよう、と、リナの背中を押してくれます。
いいねえ、友情だねえ。

リナの決断

リナには、フィブリゾの計画が何なのかわかっていました。
それでもガウリイを諦められなかった。
他に何か方法がないか考え尽くして、試し尽くした。
途中で合流したシルフィールの後押しもあって、最後まで戦い続けた。
リナはかつて、神官であるシルフィールから「重破斬だけは使ってはいけない。世界を滅ぼすから」という神託を受けていました。
異界黙示録から金色の魔王の本当の正体を推測したリナは、今ではシルフィールの言葉がわかるようになっていました。

それでも、最後のギリギリの瞬間、リナが選んだのは世界を守ことよりもガウリイを救うことでした。
リナはここで、一線を超えてしまった。
このあと物語上では一度もこの線を超えていないけれど、一線を越える決意を、気持ちを知ってしまった。
これが第二部のラストにもつながってきます。

が、リナの主人公補正があるとすれば、それは実に運よく、金色の魔王のカケラと冥王がボコりあった結果生き延びたことと、ガウリイが無事に戻ってくることでしょう。
第二部のラストは、そうはいかなかったから。
そういう意味では、リナには僅かでも希望が残されていた反面、リナ以外で闇落ちしていった人たちには、すでに希望がまったくなかった、という大きな違いがあります。
これは結構大きいぞ……

そして第二部へ

ガウリイが大切だと気づいてしまい、そして一緒に旅をする名目を必死に考え出したリナと、リナの内面の葛藤や戦いの内実を知らず、リナの提案にのるガウリイ。
第二部でその関係性はさらにいっぽ進みますが、うん、神坂先生の、ラブコメ未満の絶妙なやり取り、好きなんだなあ。
男女の相棒が対等でいられるのって、やっぱり好きなので。

そして第二部では、2人とは真逆の男女コンビが参戦しますよ!
第二部はいいぞ。
アニメシリーズしか見ていなくて原作読んでいない勢のみなさん、第二部をどうぞよろしくお願いします。


あ、まってこれ言い忘れてた。
L様好き!好きだよ!かっこいーー!!!


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