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【ネタバレしかない】『十二国記30周年記念ガイドブック』絶叫感想 その2

後半のインタビューを読み終えたところです。
もう…… 息切れがして……
「漂舶」を読む前に一度絶叫を言葉にしておかなければならないと思いました。
関係者各位(編集者、校正者、装丁者等)のインタビューの後に小野主上のインタビューがあるわけですが、とりあえずここまでの時点で一番大切なことを叫ばせてほしい。

小野主上インタビュー

一番好きなネズミっていったらさ

リーピチープ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
リーピチープ!
リーピチープが楽俊のモチーフになっていたなんて!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ありがとう小野主上!
ありがとうC.S.ルイス大先生!!
ありがとう瀬田貞二先生!!!!
リーピチープを小野主上に届けてくれた全ての人に全力で感謝申し上げます。

補足します。
リーピチープは英国ファンタジーの金字塔のひとつ、「ナルニア国年代記」に登場する、ものいうネズミの族長であり、アスランと王に忠誠を誓った気高い騎士なのです。
リーピチープほど忠誠心に厚く、誠実で、一生懸命で、尊い存在はないほどに素晴らしいネズミなのです。
わたし、最終巻でリーピチープが出てくるシーンを思い出すだけで泣ける。

その!
リーピチープが!
陽子の物語の転換点として「必要なキャラクターを出すならネズミ」という発想のもと、楽俊として生まれ変わるなんて、こんな凄いことってあります?
立場も造形も性格も全く異なるネズミですが、「楽俊が出れば安心」「楽俊に任せれば平気」という安心感をもたらすのは、このリーピチープの最後までぶれることのなかった忠誠心なのだと思うと、すとんと納得がいってしまうのです。

山田画伯のイラストが可愛くて再登場させた、というエピソードを読んで、山田画伯に手を合わせました。
ありがとう、楽俊がたくさん出てくるきっかけを創ってくださって。

ちょっとリーピチープで興奮して、他のインタビューの内容を覚えていない。

構想の話

これはファンの深読みあるあるなんですが、わたしは割と「各タイトル…… ものすごく意図的な何かを感じる」と思っていたクチで、「岸」とか「海」とか「天/空」という言葉や方角を表す言葉がものすごく多いんですよね。
それは物語の性質上、当然のことなのかもしれないのですが、
「この物語が”岸”でこっちにも”岸”がついているから、つまりこの2作品はうんたらかんたら……」
みたいな妄想と考察を始めるとたまらなくおもしろくなります。
それが、「タイトルはたいてい後からつけます」みたいな話だったので、ぶっとびました。
いや、きっと小野主上の深層心理で何かしらの関連が築かれているに違いない…… と夢を捨ててはいませんが。

そして、『魔性の子』の「あちら側の話」として始まったホワイトハート版の「十二国記」シリーズが、レーベルの性質上「中島陽子=景王陽子」の物語として始まったにもかかわらず、大筋の構想を外れることなく「高里要=泰麒」の物語として収束した、というのが本当に信じられません。
30年近く、もともと描いていた大まかな構想を維持し続けて収めるって、一体どんな技量ですか?

あと、書いていくうちに「言語」や「土地」について慎重に精密になっていく感じ、とても好きです。
わたしの愛するJ.R.R.トールキンの『指輪物語』も種族ごとの言語や歴史が精密で、歴史地図が作られるほどに細やかに設定されています。
こういうところでも、勢いだけではない精密な作風なんだなぁ、と感嘆します。
そう、徒歩で歩ける距離って限界がある。
交通手段が徒歩しかなかった時代には、人々は現代人よりももっと早く歩けたという話を聞いたことがありますが、それにしたって限界がある。
そのあたりの、「人間の力の限界」を旅程として表すのって、ものすごく身体感覚に敏感じゃないといけないと思うのですよ。

その大変さ、『月の影』前半の陽子しかり、『図南』の黄海の旅路しかり、『白銀』の驍宗捜索の行程しかり、を「物語に必要な過程」として描く一方で、「神仙」という切り札でスピード感を与えることも可能であるというのが、この作品の強みですよね。

最強の切り札。
「延」
『西の海神 東の滄海』ですら、延王が切り札なんだからずるくないですか。
ずるいですよ、この主従。

関係者各位のインタビュー

どの方も、『白銀の墟 玄の月』の発売当日のエピソードに触れられていて笑いました。
そうだよね、出版社としたらえらいこっちゃだよね。
あんなに煽りまくったプロモーション展開しておいてね。
編集の方が例の山下書店にいらしたエピソードを話されていましたが、「わたしその場におりました。ドヤァ」という気持ちでいっぱいです。
あれはもう、ファンと天候の起こした奇跡としか言いようがありません。

わたしは『華胥の夢』刊行後に「十二国記」に入った勢なので、当時の刊行ペースやらレーベルの特徴など、まったく考えたことがありませんでした。
新潮社のファンタジー文庫も他の本は(覚えている限りでは)読んだことがなく、講談社ホワイトハート文庫も他に読んだことがありません。
わたしはえてしてそういうところがあって、気に入った作家は出版社やレーベルを超えて追いかけますが、「似たようなテイストが読めるだろう」という理由で同レーベルに手を出すことはほとんどありません。

いろんな人の手を経て、しかも出版社を二社跨いで一つのシリーズを作るって凄いことじゃないですか?
よくそんな許可が降りましたよね。
講談社も新潮社もやるなぁ…… 新潮社としてはあれかな、「あ!うちで出した本の裏話が講談社で出てる!!」ってなっただろうな。
新潮社の文芸雑誌「yomyom」に十二国記の短編を出したことで、最終的に新潮社に戻ってきた感はありますね。
おかげで「ホワイトハート版を買うのはちょっと……」と躊躇っていたであろう壮年世代を読者に取り込めたのは、結果としていいことだったのだと思います。
たまたま通勤電車の時間帯が一緒だったおじさんが読んでいた本が、十二国記だった時の興奮は今でも忘れられないですよ。

とりあえずインタビューの感想はここまで。
これから「漂舶」読んで絶叫してきます。

「漂舶」読みました

あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
これが!
あの!!!
うわさの!!!!
幻の短編!!!!!!

読めてよかった!
ありがとう小野主上。
ありがとう新潮社編集部。

延の官吏がかわいい

延の三羽烏が見られるという話は聞いていましたが、これほど生き生きと王と麒麟を締め上げる三官吏が見られるとは思いませんでした。
わたしの一番の推しは朱衡です。
ドラマCDは聞いていないしアニメも見ていないんですが、わたしの中の朱衡はCV石田彰です。小牧教官くらいの感じの。
いいよね、にこやかに一番えげつないことをさらっと行う感じがね。

それにしてもかわいいな…… 延の官吏って不憫で優秀だよな……
わたし、帷湍はもっと融通のきかないタイプだと思っていたんだけれど、まあ先王の時代を生き抜いてきた官吏なのだから、このくらい何ということもないのかもしれない。
それでも、あの主従を抑え込んでおけるだろうと愚直に信じてしまうところが可愛いよね。
その点、成笙が一番常識人というか、バランスがいい気がする。
この3人が仲良くずっと官吏をやっていていてほしいと思うのだよ。
それがきっと延を支えているのだよ。

とはいっても、この人たち今(十二国記最新時点)でも現役で官吏やっているとしたら、延王より長生きなのは当然として、下手したら宗王の登極したころとか知っているんじゃなかろうか?

小松と斡由

尚隆が己と斡由を引き比べているとは、まったく想定していなかった。
更夜のために塚を作ったとしても、そこに自分自身を重ねているとはね……
思えば斡由の乱があったのが尚隆登極の20年後。
小松の民が生き延びてさえいれば、一世代交代した程度の時代だったのだなあ。
一緒に漁をした漁師には、孫ができていたかもしれない。
遊んでやった子供たちは、親になったかもしれない。
自分の親に手をかけてでも民を守ろうとしていれば、守れていた命もあったかもしれない。

斡由のしたことは民のためというよりも己のためだったけれど、結果として民は潤っていた。
自分が同じ選択をしていたら、小松家はどうなっていただろうか、と。

あのいつでも頼もしい、物語のジョーカーである延王が、小松三郎尚隆として描かれているのが意外だった。
六太は尚隆のそういう一面を知りながらも、そこには触れようとしないのが、お互いを信頼し合っているバディ感があってよいですね。
好きだなあ、延主従。

終わりに

最高でございました。
小野主上、山田画伯はもとより、新潮社のみなさま、講談社のみなさま、刊行当時から作品を愛しているファンの皆様方、心より御礼申し上げます。
マジ感謝。
読めてよかった。

小野主上におかれましては、どうぞご健勝であらせられますよう、切にお祈り申し上げます。
新作短編集お待ち申し上げております。
台風直撃でも買いに行きますんで。

最近、自分の好きな作品の「30周年」が立て続けに起こっているので、本当にすごいことだなあと思います。
作品を作り上げているのは作家と画家の両方だ、というのは心から頷くところでして、両名には末長く活躍していただきたいものです。

ほんと、例え作品を書かなくなったとしても、美味しいものを食べて幸せに生きてほしい。

そして東京ではそろそろ山田画伯の十二国記原画展もあるようですし、画集の2巻もでますし、楽しみはまだまだ続きますね!

さて、「漂舶」を読み終わったら『西の海神』が読みたくなるかな、と思ったのですが、意外と『図南の翼』を読みたい気もしてきたので、どちらにするか悩みます。
それとも短編集にしようかな。
もうしばらくは、十二国記読み返しのターンが続きそうです。

十二国記の民もそうでない方も、どうぞ次の新刊が出るまでご無事で。


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