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染み付いた味覚は変えられない〜麦とオルヅォの話〜

どれだけ国際化が進もうと、物流が盛んになろうと、世界各国の料理を手軽に食べられる様になろうと、親しみのある味というものがあります。
味というのはその土地特有のもので、土壌が違えば野菜の味が変わり、水が違えばスープの味が変わり、気候が違えば美味しいと感じる味付けが変わります。

身近なものだと、例えば紅茶。
イギリスに行ったことのある人はわかると思いますが、イギリスで飲む紅茶は、例えテイクアウトの1ポンドのミルクティーであっても、日本で700円出して飲むものより美味しいのです。それは、イギリスの水、茶葉のブレンド、牛乳の質によるものでしょう。
一方で、日本から持っていった緑茶は、イギリスの水で淹れるととたんに不味くなります。渋みと苦味がなくなって、キレもスッキリ感もない、もたっとしたお茶になります。おもしろいものです。

このような土地柄による違いがある一方で、好みの問題で、似た様な素材なのに別物になる、というものがあります。

今回そう感じたのは、「オルツォ」という名のイタリア版麦茶です。

わたしはもともとカフェインが大好き、というか、紅茶が大好きでよく飲みます。ところが、ここ2年ほどはボディメイクをしているために、牛乳をダボダボ入れてミルクティーにすることができません。
無脂肪乳でいいじゃないか、と思うでしょうか。これがダメなんですね。脂肪分のない牛乳では、美味しいミルクティーになりません。
そこで、このところコーヒーを飲む比率があがってきました。コーヒーは紅茶ほどにはこだわりがないので、脂肪のないうっすい牛乳でも、まあなんとか飲めるからです。

しばらくそうしていたのですが、
「筋トレの効果をあげるためには、日常的なカフェインの摂取量を減らした方がいいですよ」
との助言を受けてしまいました。
なんですと。
カフェインには覚醒効果があるのはみなさんご存知でしょう。これが、筋トレ前に摂取することで、血流をよくしてエネルギーの消費を助けてくれるそうです。そして、この効果を最大限に生かすには、体がカフェインに慣れていないほうがいいのです。

そんなわけで、目下カフェイン摂取量をさげるために、今いろいろな飲み物を試しています。

とうもろこし茶とか、蕎麦茶とか、ルイボスティとか。
いろんなお茶がありますが、今回であったのは麦茶でした。

ルピシアという、紅茶をはじめ、さまざまなお茶を取り扱っているお店があります。フレーバーティーの種類が豊富で、緑茶やルイボスティー、麦茶にも、フレーバーがついているものがたくさんあるところです。
先日お店にたちよったところ、「りんご」とか「パイナップル」とか、珍しい麦茶がたくさんありました。香りをためして、爽やかなりんご麦茶にしたのですが、その横にあったのが「オルヅォ」という聴き慣れないお茶でした。

オルヅォはイタリア版麦茶だそうです。
麦を焙煎して香ばしさを出した飲み物で、イタリアではちょっと時代遅れの健康飲料だったのが、近年見直されて人気が出てきたとか。
ルピシアでは、ノーマルなものの他に、チョコレート、いちご、キャラメルなどのフレーバーを扱っていました。ミルクで煮出しても美味しい、という説明に心をときめかせつつ、ストレートでも香りを存分に楽しめそうな、チョコレートの香りのものを購入しました。

さっそく淹れてみます。
りんご麦茶は、いわゆる「茶色」といいますか、ペットボトルでも見るような透き通った茶色いお茶が出ました。当然ですね。
ところがこのオルヅォ、分量通りいれると、黒に近い焦茶の液体ができます。向こう側を透かして見ることができません。味はというと、美味しいし飲みやすいです。飲みやすいですが、
「ねえ、この麦茶煮詰めたの誰?」
と言ってしまいそうなほどに、濃ゆい麦茶になります。
おもしろいなあ、でもこの濃さ、なんか知ってるんだよな。
そう思いながら飲んでいたら、ピンときました。

そう、この濃さ、エスプレッソと同じくらいの濃さです。

あ、そっか。これはお茶じゃなくてコーヒーなんだ。

そう考えると、色の濃さも味の濃さも納得がいきます。
ふと、かの有名なお茶会事件のことを思い出しました。

アメリカ独立戦争の契機として語られる、「ボストン茶会事件」という出来事があります。
イギリスの重税に反発したアメリカ人が、関税がかけられた茶葉の箱を港に降ろすかわりに、ボストン湾に投げ込んだ、という事件です。その後アメリカでは、紅茶ボイコットをするかわりにコーヒーの需要がのびたとかなんとか。
ところが、アメリカにもともと入ってきていたコーヒーは、いわゆるエスプレッソでした。紅茶に慣れ親しんだアメリカ人にとって、イタリアやフランス式のエスプレッソは、濃すぎて飲めたものではなかったようです。そこで、お湯を足して薄めていった結果、慣れ親しんだ味、つまり紅茶の味に近くなるまで薄くしてしまいました。
これが、「アメリカーノ」の発祥といわれています。

され、オルヅォの話に戻ります。
オルヅォの濃さ、これはつまり、麦をエスプレッソローストくらいまで焙煎した結果なのです。きっとコーヒーの値段が高騰するとか、代用品が必要だとか、そうなったときに、手近にあった麦を同じくらいまで焦がしてみたのでしょう。イタリア人のコーヒーにかける情熱が垣間見えます。
ちょっと調べてみたところ、イタリアではディカフェコーヒーの代わりに、マキネッタ(エスプレッソマシーン)で抽出したりするようです。やっぱりこれは「麦コーヒー」であって、「麦茶」ではなかったんですね。
わたしはまだ「お茶」としてしか飲んでいないので、いずれマキネッタでの抽出も試してみようと思います。

味覚とはおもしろいものです。
同じ「麦」という素材を使いながら、味は似ているというのに、方向性が全く違う飲み物ができてしまいます。生魚だって、日本なら醤油でお刺身、イタリアならオリーブオイルでカルパッチョになるんですから。

日本人にとっては煮詰めすぎたような麦コーヒーを飲みながら、各国の味覚の違いに思いをはせつつ、「次に海外旅行行けるの、いつになるかな……」と思わず遠い目になったのでした。
はやくイタリアのバルでカプチーノが飲みたいです。


オルヅォはこちらで買えますよ(ルピシアの商品リンク)。

ルピシアのではありませんが、アマゾンでも扱っていました。


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