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アラサー男性がモルカーと一緒に一人旅した話④

 こんにちは。また来てくれましたね。最早我らは一心同体。代わりに続きを書いてはくれまいか。

この記事は

の続きです。もし、以前の記事を未読でしたらリンクから飛んでいただけると幸いです。
 この記事は、アラサー男性の平凡な旅を、濃いめに味付けた文章で書き記すものです。ふぉとじぇにっく的な過度な期待はしないでください。
 半分くらいが船の話です。覚悟の準備をしておいてください!(声マネ)



旅程



8月6日① 8:15


■7:50

 どんなに特別な日も、夜が開ければさも当然のようにやって来るわけで。
 チェックアウトを済ませてホテルを出ると、当たり前のように火曜日の朝が広がっていた。

交通は一部規制。
公園周り以外は普段とあまり変わらない(らしい)。

 平和記念公園を目指して歩いていくと、次第に同じ方角を目指す人が増えてくる。平和大通りの辺りから、団体の姿も見えてくる。
 たどり着いた平和大橋は黒山の人集り。本当だったら公園に入りたかったけど、出れなくなると旅程に響くので、元安川の東岸の木陰からその時を待つ。

人、人、人。

 スマートフォンを使って、YouTubeで式典の配信を見る。川のこちら側もあちら側も人いきれ。式典の進行とともにじわじわと体温が上がり、公園一帯のボルテージが上がっていく。

■8:15

一分間の静寂。

8:25。放たれた鳩を見送る。

 すべきことを済ませたら長居は無用。
 荷物を詰めてころころと太ったリュックを背負い、えっちらおっちら歩き出す。木陰を出るとすぐに汗が吹き出してくる。当たり前だ、私は今を生きているのだから。それだけのことに、ありがたみを覚える幸せ。
 鯉城通りを進んでドーム付近まで来ると、色んな「団体」の方々が一生懸命喧騒を作っている。 どうぞお元気に。祈る日とちゃうんかなあ、8/6って。知らんけど。

8月6日② 広島城

■8:50

シロモと屋根ちょっと似てる……。城モってコト!?

 広島最後は広島城へ。
 お城なんて渋いところ…と思うなかれ。近年のお城は観光地化と生存戦略のために初心者でも楽しめる場所になっている。
 広島城は原爆で消失した後、再建された広島市民にとっての復興のシンボル。そのため展示は広島城を中心とした広島史に沿ったもの。あ、この説明に書いてあるところ、昨日通った!とかなって面白い。

猫背……ってコト!?

 ゆるキャラ展開にも余念が無い。
 まさかの三面図である。しろうニャの二次創作で有明を目指す人にとっては垂涎物かもしれない。
 ちなみにしろうニャさんは「広島城が好きじゃけえ」とかいう。そこのあなた。脳内で菅原文太の声で読み上げましたね?これがメンタリズムです。

広島市内は緑が多い。

 そして何よりもの目玉が天守閣からの景色。
 平和記念公園、宮島、呉、広島城、と戦争の影を感じ続けてきた3日間。最後に今の広島市を眺望出来たのは、何だかとってもいい感じ〜!(ロケット団)


8月6日③ 広島グッド・バイ


■10:35

 ポケモン映画のエンディングのような清々しさもつかの間、是倉いのは式典が終わり日常へ戻る広島市内を爆走するスプリンターと化していた。
 11:20のフェリーに乗るためには、次に来る広電に乗らないと間に合わない!

 3日目ともなれば広電に乗るのも慣れたもんよ。華麗にSuicaで乗車する私の姿はデカ荷物さえなければ立派な広島市民そのもの。

マジでどこでも行けるのでかなり利用回数はあった。

 せっかくなので旅行記らしいことを書こうかしら。広電はこの写真のように初心者にも分かりやすい設計になっているぞ!めざせ広電マスター!

■10:50

 広島から松山へのフェリーは、自動車利用じゃないと予約が出来ない。つまり、モルカーと旅するアラサーは先着順のチケットを買わないといけないのだ……。あれ?おかしいな。

ゲットだぜ!

 お船に乗れるよ!「やったねいのちゃん!」

広島には宇品の他にも阿品や温品と「品」のつく
地名が多い。


8月6日④ シーパセオ〜兄ちゃん編


■11:20


かんきつ系の色が差されているのエモじゃん。

 接岸したフェリー・シーパセオにいの一番で乗り込む。めっちゃ綺麗!豪華!きっとここは共用スペースね。私は2等の切符持ち。ハハーン。さては階下に行けばいいんだな?

「いえ、こちらのフロアのどの席でもご利用いただけます」

?????
ボックス席も座敷席もリラックススペースもパノラマ席もフードカウンターもあるこのフロアを?
5,000円で?私ここに住んでもいいですか?

リラックス・シートというリクライニング付きの
席を選ぶ。パノラマもかなり望める。

 是倉いのは船旅が好きである。ジョウト地方からカントー地方への移動は高速船アクア号を選ぶくらいには好きである。中四国間の移動にわざわざ時間のかかる船を選んだのだ。わかってくれるね?

 そんな船旅の「ここすき」ポイントを発表します。共感したら「ワイトもそう思います」でお願いします。

ここすきNo.1
ご飯

 非日常的空間での食事の、その楽しいことと言ったら!(英米児童文学風)
 その場で作ってくれるものはもちろん、冷凍食品を温めたものも大歓迎。むしろちょっと凍ってるくらいが「らしく」てたまらない。自販機で買えるホットスナックですら愛おしい。職場、昼の時間だけ船にならねえかな。

豚まんとレモンサイダー。

 シーパセオは船内中央の売店で食事も扱っている。注文を済ませ、「ここすき」のお出ましを今か今かと待っていた時だった。

「おひとりっスか?」

 豚まんを待っている間、前のお客さんから突然呼びかけられる。

すげーナチュラルにパーソナルスペース詰めてくる。
陽の人はアンチATフィールド持ち。

 見ると、クロップ頭にキャップを後ろ前に被り、オーバーサイズのシャツとダボついたパンツ、闇遊戯も満足してくれる量のシルバーアクセサリーの青年が笑顔で立っている。こ、こいつ……ラッパーのヤンキーだ!!

だ [助動]

①「である」が音変化したもの。主に名詞や準体助詞の「の」に付き断定を意味する。
例「ラッパーのヤンキー。そうに違いない。俺は詳しいんだ」

②形式名詞「はず」や格助詞「の」に付き断定の強調をする。
例「ラッパーのヤンキーだ。そうに違いない。俺は詳しいん

③テレビアニメ『チャージマン研!』に見られる特有の語尾。有識者は「DA」と表記する。

民明書房刊『是倉いの語彙大全』

 「へえ。彼女さんに会いに?」
 残念ながら中四国に知り合いはいない。これはアラサー男性の寂しい一人旅である。
 「ああーっ。いいっスね!リフレッシュっスか!」

 こ、こいつ……!全肯定してくる!き、気持ちいい……!!もっと頼む。
 いやいや、油断してはならない。マルチの勧誘遭遇率が比較的高い私だ。そういう奴の可能性もあるじゃあないか。
 答えてみろルドガー!YOUは何しに瀬戸内へ!?

「あっ、それが、お母さんと二人で旅行で」

 100点満点の、気恥ずかしそうな笑顔だった。
 それは、母と二人旅していることへの羞恥ではなく、嬉しさを隠しきれない様子だった。
 カウンターで飲み物を2つ受け取った彼は、良い旅をと笑顔で残し、パノラマ席へ戻って行った。

……っすっげぇ〜〜〜良い奴じゃん……!!

 残されたのは汚い心を持ったアラサーだった。何が「ここすき」だ。私は人に優しくあらねばならぬ。東京駅の駅員さんも、あなごめしうえのの店員さんも、ラッパー風の彼も、良き心を持った人なのである。かくなる上は、この心を洗濯せねばならない。そうですよね、ミサトさん。

 そんなことを悶々と考えているうちに、見知った景色が眼前に広がる。呉港に到着した。ラッパーの君はこちらに手を振り母君と下船して行く。
 サンキューチェケラ。君は大切なことに気づかせてくれた。


8月6日⑤ シーパセオ〜音戸の瀬戸編


■12:10

 アナウンスだアァァッ!これを待っていたッ!
 「音戸の瀬戸」を通る一瞬ッ!
 逃してはいけないッ!!

オムライス。

 あ、ちょっと待ってくださいね。今食べちゃいますから。

ざざざざざざざざざざざざざざ。

 あったよ征服王。これがオケアノスだ。
 見事なまでに深い青に染まっている水面。

ここすきNo.2
デッキからの景色

音戸の瀬戸へ。
奥から伸びる航跡波は先を行く船のもの。

 音戸の瀬戸は平清盛が沈む夕日を扇で招き返し、一日で開削したとされる海峡。あれ?日が沈むのを遅らせたなら一日じゃないんじゃ。

清盛塚。らしい。

 清盛塚に寄せる航跡波からもご承知いただけるように、めっちゃギリギリを通る。在りし日のアイルトン・セナだってもうちょっとこう、手心とかある。KATーTUNだって、いつもこうなのはさすがに肝を冷やすだろう。あわや・・・ーーー・・・である。ギリギリざんす。へへ。この臨場感がたまらねえぜ。

橋は「二基」あったッ!

 音戸大橋については、広島県のHPがプロジェクトXもかくやというアツさで説明している。

 是倉いのは人間の努力が好き。歴史とかスキスキ星人である。デッキからは頑張って作ったでっけえ橋とか、水面ギリギリの所まで建て並べた家とか、そういうものが見えるから好き。
 一方で何も考えずに、二度と同じ形は現れない、生まれては消えゆく波を眺めるのも好き。
デッキには好きが詰まっている。隙間なく。
 おし。心の洗濯機がピーっと洗濯終了を告げる。
 今の私は泉から出てきた綺麗なジャイアン。
 だけど、乾かさないといけないからもうちょっとだけデッキにいよう。


8月6日⑥ 上陸


売店の横にある、航路を示すパネル。


■13:50

 パノラマ席が空いたのでそちらに移ると、海の向こうから何かが迫ってくるのが見えた。
 ああ、翼よ。あれが四国の灯だ!

映っているのは乗ってきた船ではない。

■14:00

 ヒューストン、ヒューストン。こちら是倉11号。これより四国に着陸する。初めての四国。人類にはどうでも良くても、是倉いのには偉大なる一歩だ。
 シーパセオは松山観光港に着岸した。
 港には伊予弁で書かれた吊り下げ広告がたくさんあった。
 ギラギラとした日が山を緑々と映えさせる。
 本日8月6日は火曜日也。〽︎火曜日はお風呂に入り、である。
 さあ、待っていろ道後温泉!

高浜駅 ここから徒歩10分

 消沈。
 その日、松山市は35℃になった。


雑記 広島の子どもたち


■8月5日 大和ミュージアムにて

ぴえん。

 戦艦大和はファンサも認知もくれないけど、推すのは自由である。憲法20条にもそう書いてある。
 多分、大和ミュージアムに来る客層が求めてるものとはズレてるんだろうけど、なんだかそこがすごくイイ。職場体験で高校生が作ったってのもすごくイイ。体験先として人気なんだろうなあ、大和ミュージアム。
 ……「大和ー!こっち向いてー!」で46cm砲向けられちゃ堪ったもんじゃあないが。

■8月6日 広島城

 広島城へは開城と同時に入ったので、出る頃には観光客が増えていた。
 タイムスケジュール管理が中学一年生の制服並にガバガバな是倉いのは、広電に向かって全速前進DA!したのは皆様先刻ご承知のことである。
 が、迷い翔ける極上の戦士を引き止める一団の姿があったことを、皆さんは知らない。

 「あのー、お兄さん。ちょっといいですか?」
 暑い中長袖シャツのムッシュに呼び止められる。
 ちょっといいですかは、大抵ちょっと良くない時に使われる。夜道でお巡りさんの口から出された時は心臓が深海に持っていったカップ麺みたいにキュウっとなる。

「女子高生がこの日のために勉強して、戦争にちなんだ案内をしています。どうか聞いていってもらえませんか」

プリーツ描きたくない夫。
隠せばいい太郎。

 この急いでいるのにめっちゃ断りづらいの来た。洗顔中に宅配が来たくらいの間の悪さ。否、彼女らには非は無いのだ。開城して間もない時間。まだ一組も捕まえられてないのか、ムッシュからは必死さを、女子高生たちからは獲物を待つハンターの殺気を感じる。ザ・グレート・カブキでもそんな怖い顔しない。もっと笑ってや。

 ごめんなさい。急いでるんです。頑張って!
 カエサルもかくやとばかりのショートメッセージをキメて罪悪感から足早に去る。
 子どもの努力を受け止めてあげないってかっこ悪いよね、ってこの私の姿で世界中のみんなに伝わればいい。サウイウ嫌ワレ者ニ私ハナリタイ


■8月6日 シーパセオ


席で船が波をちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷかき分けて進む様をぼうっと見ていると、どこからか視線を強く感じる。近くにポケモントレーナーかシアーハートアタックがいる。
ふと、横を見ると小学校低学年くらいの少女が私の机を視゛っと見つめている。
ははあ。さては、このモルカーが気になるんだな?

坊ちゃんだんご。

モルカーを机の端の見やすい所へ移動させてあげると…………。

「パパー!」

 全力Uターン。
 ええ……不穏……。世の中幼児が絡むと大人は容易く悪にされる。デスゲーム開始直後並にヒリつく時間が過ぎる……。
 しばらくすると少女は父親と連れ立ってどこかへ行き……、戻ってくると幼いドヤ顔で坊ちゃん団子を見せつけてきた。

 そっちかーーーーい!!!
 よかったね!!!!

■ ■ ■

 広島の暑さを逃れた是倉いのを待っていたのは、また地獄だった。
 (中略)
 灼熱の太陽と、アスファルトからの照り返しとをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここは惑星メルキアのゴモラ。四国の愛媛。
 次回「松山」。
 来週も是倉いのと地獄に付き合ってもらう。

 お疲れ様でした。

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