二十歳を超えてから初めてハマった海外サッカーで最も目に止まったのは健気に走る同年代のストライカー(?)だった。
1997年。教科書に載るような代表的な出来事といえば、クローン羊が誕生したり、地球温暖化防止京都会議において京都議定書が採択された年に、自分は生を受けた。今年で24歳となる。
他の同年代の人間たちがどのように思っているのかはわからないが、自分はとにかく周りの同年代に気を配っている。
何年でどのようなキャリアを積んで、世に出るのか、脚光を浴びるのか、そして財を成すのか。……自分は置いていかれていないだろうか?そんなことを考えていると、夜目が冴えて眠れなくなる。とにかく今、最も気になっているのは同年代の活躍である。
さて、そんな同年代の人間で、最も自分の目に止まったのはイングランドのプレミアリーグ、マンチェスター・シティに所属するガブリエウ・ジェズスだった。知らない人は是非調べてもらいたい。ブラジル人の若きストライカーで、特徴は可愛らしい「困り顔」である。
一昨年の夏から、DAZN(有料動画放送サービス)でプレミアリーグの中継を見始めた。きっかけは弟であり、彼の勧めがあって本格的にマンチェスター・シティを追いかけることとなった。
マンチェスターといえば、赤い悪魔ことマンチェスター・ユナイテッドの名前が有名であるが、弟は生粋のマンチェスター・シティファンであり、自分もその軛を脱することはできない。ましてや赤色のチームなんか応援できない。従って、我が家は兄弟揃ってマンチェスターといえばブルーである。
プレミアの中継を見るのは初めてだったが、非常にエキサイティングで、何よりも弟と共通の話題、喜びを持つことができるようになった(弟の話はいずれ書くことにする)。
閑話休題。ジェズズの話に戻るとしよう。彼の立ち位置は非常に興味深い。ここでいう立ち位置とは、チーム内での立場とサッカーのゲーム自体でのプレーについての双方を指す文言である。
ガブリエウ・ジェズスはセンターフォワード(フォーメーションの先頭に立って点を決める役割。ストライカーとも)を中心にプレーする選手であり、彼の背番号はストライカーの象徴9番。つまり、彼の仕事は単純明快、「点を決めること」だ。
彼の話をしようと言いながら、また少しだけ話が逸れるが、マンチェスター・シティにはクラブのレジェンドである一人のストライカーがいる。それがセルヒオ・アグエロである。
つい先日、引退を発表した選手なのでネットニュースか何かになっていたのを目にしたかもしれない。彼は2011年から2021年まで10年以上に渡ってシティの攻撃を牽引してきた名ストライカーであり、衝撃的なゴールを次々と連発して、10年間で驚異の259発のゴールを叩き込んでいる。マンチェスター・シティのストライカーといえば、たった去年までアグエロしか考えつかない。途方もないレジェンドである。
何が言いたいかというと、細かいところを抜きにして、先ほど紹介したガブリエウ・ジェズスは明確にアグエロの二番手ストライカーとして数年間を過ごしてきた、ということである。
そんな彼が最も苦手なのは「簡単そうに見えるシュート決める」ことである。これは本当にもう、思い出すたびにファンとしてはらわたが煮えくり返る思いがするのだが、本当に簡単そうなシュートを決めない。
フリーで待っていて、入ってきたドンピシャのクロスに脚を出すことができない。キーパーと一対一になった時、なぜか相手のキーパーの体に向かって蹴り込む……などなど。弟とどれほど暴言を放ったかわからない。
とにかく彼は「決めきれない」。それがアグエロと比較してしまうとまさに顕著であり、とにかく背中の9番が寂しそうに見えることが多い。
でも、自分はそんなジェズズが大好きだ。
彼のプレーを見るとワクワクするし、彼のゴールをいつも待っている。
理由は幾つかある。
まず一つ目は彼の決めるゴールである。先ほどから「簡単なゴール」を決めないと腐してきたわけだが、彼は決して点を決めるのが苦手なわけではない。
「簡単そうに見えるシュート決める」ことが苦手な反面、彼の此処一番での勝負強さは折り紙付きだ。
彼のゴールの多くは非常に印象的な場面、大一番で飛び出しており、狭い場所での折り返しやキーパーの反応を許さない死角からの一撃、強烈なボレーシュートなど……なんとも「難しいシュート」ばかり目につく。しかもそのほとんどが強敵相手である。だから、彼のゴール一発一発が非常に印象深い。センセーショナルってやつだ。
サッカーを観るようになって初めて感じたことであるが、ゴールには印象深いものとそうでないものが存在しており、後者を体験した時の興奮は計り知れないものがある。大一番ほど、何か彼に期待してしまう。
二つ目は彼のゴールパフォーマンスである。是非、彼がゴールを決めた瞬間を見て欲しい。彼はゴールを決めると、手を電話の形にして耳につける。
電話の相手は母親だ。
ジェズスは子供時代、ブラジルで貧しい生活を経験しており、その時、母親が家族を支えてくれていたという話が有名である。
そして、少年は今世界で羽ばたくサッカー選手として活躍している。非常に夢のあるサクセスストーリーだし、なんとも心温まる話だ。
だから、彼がいくら目の前にあるゴールを外しても、なんだか憎みきれない。そして、嬉しそうに電話をかけている姿は非常に可愛らしい。こういうとき、人間に一番大切なのは「可愛さ」なんだなぁとふと思う。愛され力と言っても良いだろうか。
最後に、三つ目は彼のプレースタイルである。マンチェスター・シティのサッカーを見たことがない人は是非見て欲しい。彼らのサッカーはまさに団体競技である。
通常、ストライカーことセンターフォワードの選手は相手のゴールの近く、ペナルティエリアなどに積極的に走り込んでボールを受けて、シュートを決めることが主な仕事である。
従って、「ストライカーは守備をサボる」というのがお約束的なイメージである。点を取っている王様タイプと表現するとイメージできるかもしれない。
だが、シティでそのようなプレーは通用しない。全員で守備をして、全員で攻撃を行うのがチームの原則だ。だから、センター・フォワードのジェズスは面白いことに、キックオフと同時に真ん中付近まで降りてくることが多い。つまり、パスを受けに来て、仲間に渡すという仕事がメインとなる。
またある時には、彼がウイングと呼ばれるサイドアタッカーのポジションに入って、仲間たちにクロスを上げてゴールをアシストしている。
守備ではゴールキーパーまで走って行ってボールを取ろうとプレスを仕掛けるし、相手に攻められた時には自分のチームのゴールまで戻って行って、必死でボールを取り返す。相手の攻撃を遅らせる。「献身性」という言葉で表すには少し勿体ない。
要は攻撃も守備も一生懸命チームのために走る。
それが彼のプレースタイルなのだ。
このように語ってくると、ジェズスは決して点取屋だけをこなすストライカーとはいえない。
けれど、サッカー中継の解説者でおなじみの戸田さんは決まってジェズスを「ストライカー」と呼んでくれる。
これがちょっと自分には嬉しい。
なんだか、ジェズスの試行錯誤が報われている感じがするからかもしれない。
我らがマンチェスター・シティの偉大な指揮官ペップ・グアルディオラもジェズスがゴールを決めた後のインタビューでは彼を「最高のストライカーだ」と言って称賛する(勿論、決めきれなかった場合は、他チームのセンターフォワードを羨んだりもする)。
だから、自分もジェズスをストライカーだと思っている。
泥臭い二番手のストライカーである。
アグエロはシティを去り、そして引退した。果たして、彼は一番手になれるのだろうか。
なれないような気がする。
けれど、同年代で必死に自分の仕事を見つけようと、あるいは全うしようと努力するジェズスの姿はとても健気で、眩しく映る。
これからも我々ファンをブチ切れさせて、興奮させて、そして沢山電話をかけて欲しい。
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