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ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第10話

チョイスは毎日配信をした。

受け入れられない過去の自分の正体を探していた。

わがままで不器用で何の才能もない平凡以下の人間が、この世界に生きる意味を探していたのだった。

俺がこの世界で生きていてもいいと言ってほしい、ある種の自己顕示欲を満たしたいと、日雇いを続けながら1日数時間、必死にかかさず配信を続けた。

あるゲームのワンシーンが彼の心に突き刺さった。

ゲイであることを隠してきた主人公が、公衆の面前でモンスターに芸であることを暴露されてしまい感情が暴走する。暴走した感情はあらたなモンスターとなり主人公に襲いかかる。主人公は力でその感情を打ち倒し、静まった感情に向かってこう言い放ったのだ。

「これも……俺なんだよな」

主人公は怯えていた自分の心を受け入れ、またひとつ成長していったのだ。

「これって大事だよな」
コメントのない配信の中で、チョイスは独り言つ。

「自分の嫌いな部分ってさ、受け入れられないよね、でもさ、受け入れないと前に進めないっていうか、そんなの自分じゃない、ってやってるやつってその嫌いな自分に振り回され続けて対処できないんだよね、でも後ろめたくて隠したい性格を受け入れられた時、じゃあどうしよう、どうすればその性格を直せるだろう、矯正できるだろうって対処できるからさ、人前でやらなくなったりしてうまくいくようになるんだよね」

我ながら良いことを言うもんだ、と思うと同時にじゃあ俺はできているのか、お前は過去の自分を受け入れ、次に活かせるのか、とチョイス自身の声が胸に響いた。

俺はルーシーに甘え、ルーシーを裏切り続け、ルーシーを恨んでいた。ただただ自分の非を認めたくなかっただけではないか。まったく意味のないくだらないプライドが邪魔して前に進めないのは自分自身ではないか。努力が実らないのを社会のせいにして、自ら底辺の沼に落ちていこうとしているだけではないか。

明日は掃除をしてみよう。汚れがとれなくてもいい。

明後日は料理をしてみよう。食えないほどまずくたっていい。

その次は洗濯をしてみよう。シワシワになってしまってもいい。

ルーシーを恨むことで甘え続けているこの心を少しずつ矯正していこう、と彼は心に誓った。

それからも彼は配信を続けた。

ルーシーに会いたかったのだ。

ルーシーに一言、ごめん、と言いたかったのだ。

初めから自分がすべて悪いことはわかっていた。

わかっていながら受け入れようとしなかっただけだ。

言い訳をして、形だけでも許してくれる君に甘え続けた。

人は愛する者を傷つけ、傷つけた者を愛する

ついた傷が元には戻らない。君が戻らないことも知っている。

ただ会いたい。一言謝りたい。君に嘘をついたことを。

――俺は心から君を愛している


その後、ルーシーが配信に現れることはなかった。

あくる日、チョイスはまた配信を始めた。

「えー、今日はですね、ドライブ配信といいますか……」

「ここ数ヶ月一緒に暮らしていた人がいまして」

「僕がクズだったんで出ていっちゃったんですけども」

「それを深く反省しまして」

「今日から、彼女が見つかるまで、全国津々浦々を走り回って、彼女に謝りたいなと思います!!」

「それではレッツゴー!」

チョイスは左手を突き上げ、車の天井にぶつけると、カーステレオを再生した。

♪Lucy in the sky with diamonds

♪Lucy in the sky with diamonds

♪Lucy in the sky with diamonds

ールーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 終ー

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