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【レポートメモ】長野県千曲市ふろしきやワーケーションの取組み(参加者伊藤さんver)

この記事の第2弾。

千曲市のワーケーションに関してのレポート。今度は参加者であり社会学者として博士課程に所属されている伊藤さんのレポートを。

伊藤さんのレポート(自前メディアに掲載)

※全文はフォーム登録後DLが必要。

Abstract

本稿では 近年、企業や自治体から注目される「ワーケーション」について、長野県千曲市でのワーケーション体験会参加者への調査結果の分析を してその効果と影響を分析する 。
分析の結果、ワーケーション体験会は交流機会と弱いつながりを創出すること 、仕事のストレスを軽減する効果があること、地方自治体にとっての関係人口を効果的に創出する可能性があること、体験会参加者は他自治体でのワーケーション実践希望も高いこと、職場でのワーケーション導入意識が高く他者へのワーケーションおすすめ意識も高いことが明らかになった。

ワーケーション体験会が参加者に与える影響に関する研究より

印象に残ったところ

  • ワーケーションに関する先行研究や各種調査数は未だ少なく、その多くが概念整理や実践者ではない非実践者への希望調査にとどまっている。

  • 印象調査と分析はエクスペディア・ジャパンや日本旅行、山梨大学田中研究室などが実施。

  • ワーケーション実践者にワーケーションが与える影響についてはNTTデータ経営研究所以外ほとんどない。(2020年の執筆時点にて)

  • 【RQ】そこで本研究では、長野県千曲市で官民が連携して実施する2泊3日のワーケーション体験会参加者への調査を基に、ワーケーションが参加者に与える影響とこれからのワーケーションの在り方と可能性を考察していく。

  • ワーケーションの流れ。天野(2018)定義右働き方改革でJALなど導入→2018自治体和歌山、長野先導→新型コロナ拡大→菅総理ワーケーション言及

  • 田中らの研究では10の異なる定義があることを示しつつ、日本型ワーケーションを定義した。(この論文はしっかりレビューした↓)

千曲市の概要。

千曲市は長野県の北部、北信地方の千曲川流域に位置する人口約 60,000 人 の自治体である。 2003年に更埴市、上山田町、戸倉町が合併して誕生した。古くから日本三大車窓の姨捨駅からの夜景や姨捨の棚田、戸倉上山田温泉、東日本最大級の前方後円墳森将軍塚古墳、名産である杏子など豊かな 資源が人々を魅了し続けてきた。
個々の観光資源の質は高くファンも多い一方で、一社千曲観光局職員によれば、千曲市としての知名度が高くない、個々の資源をつなぐ仕組みが無いなどの課題がある。
また 2019 年には台風19 号の大きな被害を受けたため、一部でクライシスによるネガティブな千曲市のイメージが全国に拡大した。

ワーケーション体験会が参加者に与える影響に関する研究より
  • 千曲市は2019年に長野県のワーケーション推進事業「信州リゾートテレワーク」モデル地域に認定された。ワーケーションは主に千曲市役所と株式会社ふろしきやが連携して進めている。2019年から不定期でワーケーション体験会を開催。年間3〜4回開催実績。

ワーケーション体験会の概要と日程表。(個別アクティビティの詳細は論文内参照)

本研究の被調査者となるワーケーション体験会参加者が参加したワーケーション体験会は、 2020年 11 月 4 日~ 6 日に 2 泊 3 日の行程で開催された
ものであり、筆者も 2 泊 3 日全工程に参加した。
体 会の参加者募集はWeb上で実施数週間前から行われ、当日は千曲市内外から計30 人が参加した。参加者は 2 泊 3 日通しで参加する場合は 1 2,000 円、この金額には場所代、レンタサイクル代、昼食代、交流会飲食代が含まれる 、宿泊代や交通費は含まれない。希望者には期間中無線 Wi-fiルーターを無償で貸し出しており、どこでも好きなときに仕事ができる。
(中略)
千曲市ワーケーション体験会の特徴としては、全体を通してそれぞれの参加者に各コンテンツへの参加不参加 が任される点が挙げられる。つまり2泊 3 日ずっと仕事をしたい人は仕事をし、各種コンテンツに参加したい人は参加できる仕様である。参加を強制する行程は 1 つもない。

ワーケーション体験会が参加者に与える影響に関する研究より
論文表1より

アンケート調査について

アンケートの目的。
1.千曲市ワーケーション体験会参加者がワーケーション体験会のどこに価値を感じたのかを明らかにすること。
2.千曲市のワーケーション体験会にはどのような効果があるのかを明らかにすること

調査は2020年11月8日~11月23日にかけてオンライン上で実施した。母集団は11月4日~6日の千曲市ワーケーション体験会参加者のFacebookグループに参加している33人。そのうち、回答者数は21人であった。調査はGoogle Formを用いて実施した。
(中略)
全 1 4 の調査項目のうち 13,14 以外は「思う」「少し思う」「どちらでもない」「あまり思わない」「思わない」の 5 択からの選択形式とし、分析時は各選択肢を 5 段階評価に当てはめた(思う:5〜思わない:1)

ワーケーション体験会が参加者に与える影響に関する研究より

調査項目と100%換算の数値

論文の表3より- 

結果

  • 全体満足度は94%と高い。

  • 仕事に関連する項目(2、7)はほかの項目と比べ相対的に低くなっている。(※理由の解釈が続いて書かれているが、この点は感想メモでふれる)

  • 留意すべきはワークとバケーションの両立を主眼とするワーケーションにおいて、ワークの評価が低いのに全体満足度が高いこと。企業単位でなく個人単位のワーケーションであることに関連と考えられる。

  • 自発的な個人単位でのワーケーション体験会参加の場合、仕事の生産性向上は必ずしも求められず「せっかく参加したからできる」仕事以外の時間やコンテンツのほうがワーケーション満足度に強く繋がると推測できる。(※)

  • 仕事以外の要因で全体満足度に大きな影響を与えていると考えられる項目はストレス軽減(3)、交流メリット(5)、偶発性(12)

  • 普段の仕事環境で繋がることがない人々との新たなネットワークが形成されてセレンディピティがもたらされたと参加者は感じている様子。

  • 従来のワーケーションの目的では、企業の生産性向上やストレス軽減、地方自治体は地方創生や関係人口の創出が押し出されてきたが、参加者にとっては他の参加者や地域住民との交流による弱いつながり(グラノヴェッター)の創出とセレンディピティがワーケーションの価値になり、参加の動機づけとなる可能性があきらかになった。(※)

  • 再訪希望は100%

  • これまでのワーケーション調査研究では、ワーケーション体験会参加者が複数回ワーケーションを同一地域で行うことで関係人口化する現象や可能性について取り扱われてこなかった。しかし、本調査からは、ワーケーション体験会参加者全員が再訪したいと考え、受け入れ地域の関係人口になっていく可能性が高いことが判明した。

  • ほかの地域でのワーケーション実践希望も98%と高かった。県が主導して各自治体個別に取り組みを進めている和歌山県や長野県では、自治体を超えた横のネットワーク形成をすすめることで、同一都道府県内の複数地域に効果が波及する仕組みをつくることが望ましい。(※)

  • 職場での導入意識やおすすめ度合いも高い、ワーケーションの実践は導入意識やおすすめの気持ちを高めることが示唆される。ワーケーションを実践する機会を設けること(トライアル?)が大事とも推察される。

ワーケーション・ワーケーション体験会の用い方と在り方提案として。
1.仕事、休暇の二面の質から、ニーズや効果を測るものとは別に、体験会のように複数人でワーケーションをする場合「交流機会の創出」効果があり、それが満足度向上につながる可能性がある。仕事、休暇の二面だけでなく、交流機会に重きをおいたワーケーションPRで新たな顧客層の開拓が可能になるだろう。
2.関係人口創出の目的でのワーケーション、実際に本調査でその可能性があるとわかった。ワーケーションを共通項に、ほか自治体への波及もありえるとわかった。ワーケーション推進側のアクターは、ワーケーションを共通項として横のつながり、ワーケーションネットワークと呼べるようなものを構築することで相乗的な効果を生み出すことが出来るかも。
3.ワーケーション体験会は、人々が集まり新たな価値を創造する装置として機能している。千曲市はコワーキングスペースやサテライトオフィスがなく、公的資源を有効活用しながら開催している。ワーケーションは仕事の生産性向上や地方創生を目的とした装置として語られてきているが、千曲市のワーケーション体験会は、どちらにも当てはまらない交流機会の創出とセレンディピティという価値を提案している。

限界

  • 体験会の事後調査のみであること

  • 体験会前後、体験会中、複数回にわたる調査も求められる。

  • 千曲市のみの事例である。複数自治体の事例を比較して汎用性ある分析とする必要がある。

感想メモ、示唆(※うったところに関連して)

  • あくまで個人の自発的参加がベースとなったワーケーション体験会という点がこのケースのポイントだろうと思われた。

  • 経験不足やら前提理解が足りないので、この千曲市のとりくみの位置づけやらターゲットやらがわかりきっていないけれど、おそらく感度の高い個人がやってくるようなワーケーション体験会になっているのだろう。それゆえ、仕事といいつつ、アクティビティへの参加がメインになっているのではないかと。それってワーケーションなのか?という感じもある。

  • どこまでいっても、企業人事のねらう生産性向上という文脈とは利害対立するよなあと感じる。(もと人事として感じる点)

  • イノベーションとか知のExploration(入山)とかっていうなら、人材育成としてのプログラムデザインに関連した研修形式にするほうが企業ニーズには叶いやすいかなと。

  • 交流機会創出、という点は個人のニーズには叶いそう。企業人事をターゲットとしたワーケーションというものは別にありそうで、企業連携を進めている和歌山県はこちらを意識しているような気がする。長野県は戦略として個人ニーズをつきつめつつ、塩尻のMICHIKARAみたいな企業連携系のプロジェクトとしてワーケーションを企画することでどちらの軸も行ける感じがする。

  • 立地的に長野県は個人ニーズが取り込みやすいような感じもある。都心へのアクセスの良さ、「相対的手軽さ」から。

  • 和歌山県は関西、マーケットとして相対的に小さいこともあるし、関西系企業は旧来型が多そうだし。ゆえに企業をターゲットとして飛行機で来ても良いし、別の土地にきた感で売るというのが妥当。沖縄県と同じベクトルではないかなと思われる。

  • 横展開というか、関連地域のレコメンドで別地域への回遊とか広がりが見られるというのは面白い知見。自治体のマーケティングとしてはやってみるべき点だなと。千曲市がOKなら、延伸して小布施近辺、近場で軽井沢とのあいだにある東御、小諸あたりは狙い目になる。ワインツーリズムとも絡められるかな。しな鉄沿線の活性化という点で使える資源。

  • メタに考えると、アクセシビリティの問題は避けて通れない。きやすさ、手軽さ、反対にそれを超えてでも行きたくなる場所や人のちから。長野、和歌山、沖縄、そしてより行きづらい場所だけどワーケーション事例で語られる五島列島なんかは、それぞれ別のニーズとか強みがあるはずで。

  • ワーケーションの対象世代にもよるけれど、子育て世代なら教育環境とか、都心への出やすさとか、まるっと都心とは切られない立地という点は大事かも。長野、山梨が立地的にそうだけど、それって群馬、栃木、茨城県でもけっこう同じだったり、ややもすれば千葉の房総、神奈川県の西部とかなんでもOKになってしまうやんなあ。

  • ということで、ユーザーがワーケーションに感じている価値を分析してリピートするかどうかとか、地方創生的観点からはただユーザーとして利便性で繰り返すというだけでない「心地よいしがらみ」を土地としてそこの人として提供できるか、という点が肝になるのかな。それってコミュニティデザイン的視点が必要なのかなとまた思った。

参考文献、関連リンク

レポート内に調査関係の出典あり。ペーストしづらいのでメモのみ。
- ㈱日本旅行2020
- 田中、石山2019
- ㈱NTTデータ経営研究所、㈱JTB、日本航空㈱2020
- エクスペディア・ジャパン2020
- 松下2018

ワーケーションの心身へのエビデンス系データはいくつかではじめている。上記のリリースはこちらだが。

ほかにもこんなものもある。

最近出たリリースでは沖縄での実証実験がある。


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