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プロの手つき

美味しいものを食べること。
人の話を聞くこと。
新しい事を知ること。
人と一緒に笑うこと。
動く乗り物の窓から外の景色を眺めること。
最寄りの駅までの道をゆっくり歩くこと。
いつもより10分早く起きて、二度寝すること。

これらは全部私の好きなこと。

そしてもうひとつ・・・

プロの手つきを眺めること。

プロの手つきを眺めることが昔から好きだった。それは、テレビの中で取り上げられるような日本屈指の陶芸家の手つきなども、もちろん含まれるが、私が最も好きなのはもっと身近なプロである。

一番初めに出会った、好きなプロの手つきは美容師さんだった。小学生で初めて美容室に行った日のことは忘れられない。前に置いてある雑誌には目も暮れずに、美容師さんの手つきを眺めていた。髪を切る手際の良さが好きだった。美容師さんは気を遣って話しかけてくれたり、子供向けの雑誌を持ってきてくれたりしたけれど、私は一心不乱に、一瞬たりとも見逃さぬよう、美容師さんの手つきを直視していた。今思えば、美容師さんはやりにくかっただろうなと申し訳なく思う笑

しかし私は、それからも美容師さんの手つきを見るために美容院に通った。もちろん、髪を切ることが主な目的だったが、髪型はなんでも良かった。しいて言うならば、短く切る方が美容師さんの手つきを長く見つめていられて、好きだった。美容師さんの、髪を真剣に見つめる目。リズミカルに耳に響くハサミの音。一定の角度にひねりながら巻かれる髪の毛。何回見ても飽きることはなかった。今でも雑誌から顔を上げては、チラチラと何度も見てしまうほどだ。

美容師さんの他にも様々なプロの手に魅了されてきた。

5本指を駆使してタイピングする社員さんの手つき。
カフェ店員の効率よくドリンクを作る手つき。
派遣バイト先の店員さんが高速でレジ打ちする手つき。
スマホのリズムゲームを器用にこなす友人の手つき。

プロの手つきは、どれだけ真剣でも、澄ました顔でも、慣れた手つきでも、どこかその仕事や作業に対するプライドや誇り、努力の証を感じることができる。何か、その技を習得するために一生懸命になってやってきたこと、情熱を注いできたことがひしひしと伝わるのだ。そして人の一生懸命や情熱は、見ているこっちまでエネルギーが湧いてくる。手際のいい手つきを眺めていたら、何か自分も手を動かしたいような気持ちが不思議と湧いてくる。ちょっと元気になることだってある。人にそんなエネルギーを届けられるプロの手は、やっぱり普通の手とは違う。魂がこもっている。安直な表現かもしれないが、これ以上に合う表現はわからない。

私も何かに熱中して情熱を注ぐことで、その姿を通じて誰かを元気づけられることもあるのかもしれない。それなら明日からは、今何となくやっていることに熱中してみることも悪くない。

アルバイト終わり、いつも行く駅前の屋台でおじさんがたこ焼きを次々とひっくり返す職人並みの手つきを見つめながら、そう思った。



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