バターシュガークレープ
私は、欲張りな人間だ。
あれもしたい、これもしたい、こうなりたい、ああなりたい。
欲しいものがありすぎるのだ。
「どれかひとつに集中しなさい。」
と言われてもどうしても一点集中することができない人間らしい。
欲張りといえば、食欲もすごかった。
小さい頃は、なんでも食べたがった。
兄が食べているものは、絶対に欲しくなるし、母が食べているものは、だんだん美味しそうに見えてくる。
だから食べたくなる。
小中学生の頃は、夏休みは毎年家族旅行に連れて行ってもらっていた。
旅先で、母親に「お昼ご飯は何が食べたい?」と聞かれては、「お腹すいていないからいらない」と答えていた。
でも、目の前に注文した料理が続々と運ばれて、母が食べ始めると、口元がホクホクとあまりに美味しそうに食べるものだから、つい「一口ちょーだい!」と言って、母のお昼ご飯の大半をぺろりと平らげてしまい、母のお腹が満たされないという、なんとも可哀想な事件を何度も起こしていた。
こうやって「食べない詐欺」を繰り返ししているうちに、母はとうとう私のいうことを信用せず、きちんと人数分の料理を注文するようになった。
私の幼い頃の代表的な寝言も、当然ながら欲深い言葉だった。
「そんじゃ少ない」
こんなセリフを呟いていたらしい。
我ながら、欲張りな人間極まりない、と恥ずかしくなる。
こんなに欲まみれの私だが、最近ハマっている食べ物がある。
それは、「クレープ」だ。
クレープの中でも、やっぱり「マリオンクレープ」推しである。
年始に久しぶりに食べたら、そこから脳内にある「クレープの扉」が開放されてしまったようだ。
休日の晩御飯。行きつけの居酒屋に17時半に予約をし、たらふく食べて満足しながらお会計を済ますと、そそくさとマリオンクレープに向かった。
マリオンクレープでは、温冷のクレープがある。
欲張りな私は、どちらも食べたかったので、チョコバナナ+アイスクリーム(冷)とバターシュガー(温)の2つのメニューを注文することにした。
連れと半分こして2つの味をしっかりと味わった。大満足だった。
チョコバナナ+アイスクリームはクレープの数あるメニューの中でも定番だと思う。でも、バターシュガーって、案外注文するのは少数派なんじゃないかと思う。
しかし、私が最近すっかりハマってしまったのは、この(温)のバターシュガーなのである。これがウマいんだ。
生地のほんのりやさしい甘さと、その中に包まれているバターシュガーが邪魔にならず、ジュワッと口の中で溶けていく。
温かくって、やさしい感じ。このシンプルな感じがたまらない。
上の方のクレープの皮がパリッとしていて、下にいくにつれて、モチモチになってくる。
そういえば、幼ない日のことを再び思い出した。
休日によく父がデパートの屋上へ連れて行ってくれた。
そこには動物の形をした乗り物があったり、子供の遊び場となっていた。
屋上にクレープ屋さんがあって、父によくクレープを食べさせてもらっていたのだ。(デパートの室内にあるジェラート屋さんにも良く行っていた。好きな味は木イチゴだった。ワインレッドのような渋い色をしていて、酸っぱくておいしかったなあ)
でも、父は生クリームはあまり健康に良くないからと、クレープの中身抜き(生地だけ)を注文し、私に食べさせてくれていた。
具のないクレープなんて、、と思い期待せず食べたら、意外!生地が温かくて、ほんのり甘くて、それがとっても美味しくて、大好きだった。
先日、またマリオンクレープに足を運んだ。やっぱりバターシュガーを注文した。
焼いている間、ソワソワしながら待っていた。
そして、高まる期待と共に口を開けて、一口食べた。パクっ。
その時、「あれ、何かが違う」と感じた。
生地が柔らかかったのだ。
もうちょっと、よく焼いて欲しかったな。表面がパリッとするくらい。
学生アルバイトの子が、ちょっと焦って作っちゃったんだろう。しょうがない。
欲張りだし、人が食べているものはいつも美味しそうに見えて欲しくなるし、
「食」への興味・関心はとても強いのだけど、
クレープだけは、生地だけでも好き。超絶シンプルだ。
私の中には、たくさんの「欲」が渦巻いている。欲まみれだ。
しかし、そんな私も、クレープを前にしては、いい焼き加減の生地さえあれば、満足なのだ。
恐るべし、クレープ。
0310 mint