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レモンソーダの彼

夏のにおいが香る午後。
目が痛くなるような日差しの中で、
涼しげな紺色のユニフォーム姿で走る人影が見えた。

わたしはひんやりと冷たい窓枠にもたれながら、
教室の中からじっと彼の姿を眺めていた。

走る彼が好きだ。

最初に彼を見つけたのはいつだっただろう。
部活がうまくいかず落ち込んでいたときだろうか。
ふと窓の外に目をやると、
光で白く反射するグラウンドをいきいきと走る人影が見えた。
陸上のフォームとか詳しいことはよくわからないのだが、
彼が駆ける姿を見るとどこか遠くまで連れて行ってくれるような気がした。
気が付けば部活の休み時間、グラウンドの彼をいつも目で追っていた。

自販機で買ったレモンソーダを開けた。
さわやかなレモンの香りがしゅわっと広がる。

眺めているだけでいい。
レモンソーダを口に含みながら、
まだ恋ではない淡い気持ちを味わった。

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