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秋のきもちを知る力

おひさしぶりです。
相も変わらずいろいろとあわただしく、こころ揺さぶられることの多い日々でした。
なにか書きたいと思いながら、なにを書いていいか、どこに手をつけたらいいかわからなくなっていました。

ここ最近指先が冷たくなっていることに気付きました。
秋の訪れを感じるセンサーのようです。
秋が来たーと思ったら、まだ暑かった頃に読んだ本のことを思い出しました。

「秋のきもちを知る」ことについて書かれていました。

わたしの夫は、若いころは夏の終わりを察知するとセンチメンタルな気分になる人でした。マリッジブルーみたいな、オータムブルーです。
どうしようもなく、たまらなく、オートマティックに、秋の気配がそうさせるらしいのです。

わたしは秋が来たとてセンチメンタルになることはなく、理解できませんでした。
季節なんて勝手にくるくる巡るものだから、それくらいのことでおセンチになどなってられないわ。
自分でどうにもできないことで気持ちを揺さぶられるなんてごめんだわ。
とか冷ややかに夫のブルーを眺めておりました。

一方で、わたしが子どものことで一喜一憂したり右往左往したり、情緒がジェットコースターになるたびに、夫は「どうしていつもそんなに揺さぶられるの?一定の気持ちでいたらいいのに」と秋風のようにひえびえとした言葉をかけてきたんですよね。

たしかに、この数年の子どもたちには揺さぶられすぎて、この身が危ういとすら感じました。
身を守るために、あまり動じず平らかに、上下に激しく動きそうになる心をふたで押さえつけるようにしました。
それが悟りの境地だと思ったし、「仙人になりたい、オレは仙人になる」なんて戯言を言いながら仙人目指してやってきました。


それを、ガツンとやられた気がしたんですね、本を読んで。

そう、本の話でした。
前置きが長くなりましたが、ジャンルとしては児童文学で、わかりやすい言葉で小学生にでも読めるようにつくられているけれど、大人のわたしにも響く趣深い作品です。
優しいけれど優しいだけじゃない、でもやっぱり優しい世界が広がっています。

ガツンと衝撃を受けたところ、長いけど引用します。

 「秋のきもちを知る」ことの周辺には、わくわくと心おどることも多いけれど、「秋のきもちを知る」ひとには、いつかとても悲しくつらいきもちを味わうときがおとずれるかもしれないということ。ほかのひとの受ける、何倍もの苦しみ悲しみが、おそいかかってくるかもしれない、ということ。そのとき、「秋のきもちを知る」能力なんて、ないほうがよかった、なんにも感じないほうがよかった、とその力を呪いたいほどつらいきもちになるかもしれない、ということ。よろこびを見つけだす力は、また悲しみを感じとる力にもなるからです。
 けれど、それでも、信じてほしいのです。「秋のきもちを知る」力は、世界をよりよく知るために、神さまがくださったかがやかしい宝石以外の何ものでもない、ということに。
 そして、心からよろこんだり悲しんだり、変わりゆく自然を愛おしんだりすることを、決してあきらめないでほしいのです。どんな困難が待ち受けていても、感じるよろこびをバカにして、心を凍りつかせたりなどせず、ただひとつしかない、一本の、ゆるぎない道を信じるように、この力を、信じつづけてほしいのです。

梨木香歩『ヤービの深い秋』

衝撃は大きかったけれど、おばあちゃんにやさしく諭されたような感触でした。

そうだね、心を凍りつかせていたわ、わたし。
反省しました。

それでも身を守ることもとっても大事だからノーガードでフルオープンにはできないけれど、すべて閉ざしてしまうのではなく、余裕のある方面では、心をあるがまま為すがままされるがままに浮遊させて、よろこびも悲しみも、どんな気持ちも感じとれるように、野放しにしてみようかなと思いました。マイナス感情であっても恐れるな、ってことです。

そして、同時に人には人のそれぞれの感じとる力やそれを発揮する分野があることを忘れないようにしなければ、と思いました。これは肝に銘じるやつ。
人の喜んでいるさまや悲しんでいる様子を、バカにしちゃいけない、絶対に。

うちの子、オタクなので推しのこととなると寝食に影響が出る感じで大変なんですよね。
現実が疎かになるほど振り回されなくてもよくないか?とか、
そんな些細なことでいちいち面倒だなとか思わなくもない。こちらの生活にも影響が及んできて大変なときもある。
そんなに一喜一憂するのやめれば~?などと思ってしまうんですけど、心を解放させるっていうか、上にも下にも、明るくも暗くも良くも悪くも可動域を広げることは重要っていうか、それが生きてる証っていうか。
そばに居る者は「思う存分おやりなさいよ」と寛容に心穏やかに、女将が目を細めて見守っているような心持ちでいたらいいのかなぁと、ひとつ新たな悟りをつかんだような気がしました。

数年前に『岸辺のヤービ』を読んでから、ずっと信じて待ってた続編でした。待ってた甲斐がありました。

たくさんの人に読んでもらって、この先も作品が長く続いてほしい、
そして読んだ人の心がすこしでも温かく照らされ、世界に優しさがあふれますように。すこしばかり主語の大きなことを願って、また続編を待ちたいと思います。


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