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『かそけきサンカヨウ』

 昨年の秋、映画『かそけきサンカヨウ』を見ました。

『あの頃。』や『街の上で』で最近けっこう話題になっている今泉力哉監督の作品ということで見に行ってみました。「邦キチ」の池ちゃんも話してたよね……。
 先日、原作小説も見かけたので買って読んでみました。

原作は短編集で、『かそけきサンカヨウ』として映画化されたのはその中の2編「かそけきサンカヨウ」と「ノーチェ・ブエナのポインセチア」です。それぞれ、父が再婚したことで戸惑いを抱える陽と心臓の手術をきっかけに悩む陸を主人公にした短編です。映画では原作にないシーンもかなり追加されていました。


 私は家族の話が好きなので、映画だけでなく小説もすごく面白かったです。特に「かそけきサンカヨウ」でひなたちゃんに陽の大事な本を破られてしまい一人で泣くところなんて、映画館で一緒にめちゃくちゃ泣いちゃったし……。これは絶対長女だからだな~と思いました。「かそけき」「ノーチェ・ブエナ」以外の短編だと「サボテンの咆哮」が好きです。電車の中で読んでいたのですが、おじいちゃんと息子の会話のところで泣きそうになってしまって頑張って踏ん張りました……。

 原作小説は、最初の短編「ちらめくポーチュラカ」がヒーロー小説特集のために書かれたものであるからか、勧善懲悪的というか、悪いことや嫌なことをした人は裁かれ、優しく正しい人が救われるように書かれているように感じました。一方で、映画では主人公の2人を含めたいろんな人の視点や考えが推し量れるようになっていたと思います。
 特に違ったのが、後半に登場する陸の母と祖母です。原作では、陸の祖母は彼を過剰に心配して母親にきつく当たる嫌な人、という描き方でしたが、映画では祖母の事情や母から見た祖母の印象が語られたことで、かなり違うイメージになっていました。

 終わり方は原作小説の方がすっきりしているように感じます。これも勧善懲悪的でさっぱりしているといえばそうなのだろうとは思いますが、私は映画のふわっとした終わり方も嫌いではありません。ただ、陽の目線からすると結構残酷なことになっているような気がします……。
 陽は、幼い頃に母と父が離婚し父親に引き取られます。父は「はっきりさせすぎた」ことが原因で離れることになってしまったと陽に話します。そして、そのせいで陽のことをずいぶん早く大人にさせてしまった、と後悔しています。映画の終盤、陽は陸に告白をしますが、返事ははっきりさせないでいいと言っています。これは、陽の両親にとっての陽のように2人の間にいるひなたちゃんに寂しい思いをさせないため、「早く大人」にさせないために言ったんじゃないかな、と思いました。だとしたら本当に、陽は大人すぎてなんだか少し悲しくなりました……。


 今泉力哉監督の作品は初めてでしたが、原作の良いところを取りながら独自の要素も追加して映像にする、その塩梅がうまい人なんだろうな~と思いました。映像もエモい若者向けの邦画、というだけでなく、生活感というか質感がリアルで良かったです(レストランでそう座る!? とは思ったけど……!)。また気になる作品があったら見に行こうと思います。

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