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ジャン・ジュネに心乱され…『女中たち』

密度の濃い贅沢な空間

神聖であるかどうかはともかく、
この女中たちは怪物なのだ。
ージャン・ジュネ

2018年12月、南長崎にあるシアター風姿花伝で、ジャン・ジュネの『女中たち』を観てきた。出演者は女中である姉妹と、女主人の三人だけ。

奥様が留守のあいだに、妹が奥様を、姉が女中である妹を演じる「奥様ごっこ」に興じる二人。虚構の世界でイキイキと罵倒し、蔑み、憐れむ妹と、忠実な仮面をつけながら忠誠心など欠片もない姉を、那須佐代子さんと中嶋朋子さんが演じている。

舞台中央のくり抜かれた楕円型のセットが回転することで、あちらとこちらが、虚と実が、主と従が入り乱れて、何が正しいのか、そもそも正しさが必要なのかが分からなくなる。姉妹の妬み嫉みのエネルギーは、どんどん増幅されていく。

闇は光の逆ではないのか…

中嶋朋子さんは怖いくらいの美しさで、人間の醜さを魅せつける。一方、姉である那須佐代子さんは、苦しいほどの憧れと諦めと卑屈さが混ざった憎悪を見事に表現している。それは奥様に対する憎悪でもあり、妹に対するそれでもあるのだ。ラスト近くの長台詞は圧巻。狂気は恍惚にもっとも似ているのかもしれない。

奥様役のコトウロレナさんも、女中たちの「ごっこ遊び」を知ってか知らずかという微妙に正解のない立ち位置を個性的に演じていた。

狭い舞台にふんだんに置かれた花々が、人間のあざとさを象徴している。美術と照明のチカラで、私たちは簡単に困惑させられ、最後に放り出される。

上質な作品に出会えたことに感謝。

風姿花伝プロデュース 『女中たち』
2018年12月9日(日)~26日(水)
東京都 シアター風姿花伝
脚本:ジャン・ジュネ
翻訳:篠沢秀夫(白水社)
演出:鵜山仁
出演:中嶋朋子、コトウロレナ、那須佐代子

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