メンバーがコミュニティ運営をサポートしてくれる条件は「動機・実行容易性・キッカケ」
前回の研究では、コミュニティメンバーのモチベーションが高まる状況をどう作ればいいのか?という問いへの答えとして「自律性・有能性・関係性という3つの心理的欲求を満たすべし」という法則が示されました。
今回は、さらにもう一歩進んで、モチベーションの高いメンバーがコミュニティ運営に積極的に関わってくれる条件を考えてみましょう。
サポーターはめちゃくちゃ貴重な存在
コミュニティ運営に積極的に関わってくれるメンバーをここでは「サポーター」と呼びましょう。
サポーターはイベントを自ら企画してくれたり、コミュニティの改善案を提案してくれたり、コミュニティ運営を手伝ってくれたりします。こうしたメンバーはギブワーク(無報酬だが本人の意志でする仕事)であったり複業(業務委託として報酬が発生する)であったりしますが、どちらにせよ高いモチベーションが観測されるケースがほとんどです。
サポーターがいるコミュニティは運営者がラクになるというだけでなく、サポーターが他のメンバーの見本となり全体のモチベーションを高めてくれたり、コミュニティメンバーのニーズを把握するコミュニケーションのハブになってくれたりします。メンバーと運営者の橋渡しとして運営者にとってめちゃくちゃ貴重な存在なのです。
コミュニティメンバーと運営者が融け合い、共創的にコミュニティを運営するために欠かせないサポーター。どうしたらそんなサポーターが出現するのでしょうか?モチベーションはきっと重要な要素の1つでしょうけど、それ以外の要素はなんでしょうか?
フォッグ式消費者行動モデル
サポーターの出現を分析するために、今回はフォッグ式消費者行動モデルを援用します。個人的には「消費者」という表現が一面的であまり好きではないのですが、用語の混乱を避けるためにそのままの表現で説明します。
フォッグ式消費者行動モデルとは、消費者がとる購入やサブスクリプションといった行動を要素分解するシンプルなモデルです。スタンフォード大学のB.J. Foggさんが提唱しました。具体的には以下のような数式で表現されます。
B:Behavior(行動)→消費者の行動
M:Motivation(動機)→行動を起こす動機
A:Ability(実行容易性)→障壁が低く実行しやすい状況
T:Trigger(キッカケ)→行動を起こすキッカケ
※FoggさんはTriggerではなくPromptという言葉を使っているのですが、ここでは伝わりやすさを重視して日本で一般に流布しているTriggerを採用します。
「行動」には、「動機」が高く「実行容易性」が高いときに「キッカケ」が重なる必要がある、ということですね。
ダイエットのために毎日体重計に乗る、という「行動」にこのモデルを当てはめてみましょう。
ダイエットが順調かどうか知りたいという「動機」があるとします。体重計に乗ること自体は難しくないですが、体重計の電池が切れていたり、戸棚から取り出さないといけないとなると「実行容易性」は低くなりますから、そういった障壁は慎重に取り除いた方がいいですね。
ただ、こうして「動機」と「実行容易性」が揃っていても「キッカケ」がなければ体重計に乗るという行動は起きない、ということがモデルからわかります。こうして体重計に乗り忘れる、というのが実際にわたしに日々起きていることでもあります…。
これとは逆に、火にかけたヤカンは「ピー」という音が分かりやすい「キカッカケ」になっているので止めることができるわけですね。体重計も乗り忘れてたらピーっと鳴ればいいのですが。
そんなわけで、わたしが体重計に乗れないのは「T:Trigger(キッカケ)」の欠如が理由であることがわかりました。「M:Motivation(動機)」がそもそも低いという可能性もありますが…。
「B = M × A × T」を図解してみよう
もう少し分かりやすくするためにグラフ化しようと試みたのですが、変数が4つもあるため4次元でしか表現できないグラフになってしまい、ここへの掲載は諦めました。ここに掲載できるように簡易的に2次元で表現してみたのが以下のグラフです。ご覧ください。
「動機」が高ければ「実行容易性」が多少低くても掛け合わせればある程度の値になります。逆に「動機」が低くても「実行容易性」が高ければある程度の値になる。それがこのグラフに表現されています。
では、ここに「行動」を加えて表現するとどうなるでしょうか?「動機」と「実行容易性」の掛け合わせが一定値を超えたときに「行動」が起きるとすれば、以下の図のように表現できます。
さらに、ここに「キッカケ」を書き加えてみましょう。「キッカケ」が存在することで、「動機」と「実行容易性」だけでは起きなかった「行動」が起きるようになるとすれば、以下の図のように表現できます。
こうしてフォッグ式消費者行動モデルで提唱されている「B = M × A × T」を図に表現することができました。厳密さよりは分かりやすさを重視しています。
「動機」が高く「実行容易性」が高いときに「キッカケ」が重なることで「行動」が発生する、という各要素の関係性がイメージしやすくなったのではないでしょうか。
サポーター出現条件の要素分解
「B = M × A × T」が図解できたところで、具体的な分析をしていきましょう。分析には問いが必要です。今回の問いは「どうしたらメンバーがコミュニティ運営をサポートしてくれるか?」ですね。サポーターが出現する条件について、フォッグ式消費者行動モデルを下敷きにして具体的に考えていきます。
M:Motivation(動機)を高めるには?
すでに前回の研究で動機(モチベーション)については一定の解像度を手に入れました。そこで得られた知見から、動機を高めるには以下の3つの心理的欲求を満たす必要があることがわかりました。
以前、サポーターになったメンバーの方にヒアリングをした際に「コミュニティのビジョンやカルチャーへの共感した」という言葉をよく聞きました。ビジョンやカルチャーにはおそらく「自律性」を高めたり「関係性」を感じられる効果があり、動機を高めてサポーターになる道を拓いているのでしょう。同じく「このコミュニティが自分の居場所だと感じているから」という言葉も頻出していました。これはコミュニティのなかで様々なメンバーと「関係性」を深めていき、小さくとも何らかの役割を持って「有能性」を実感できるできるようになったことが動機につながっていたようでした。
動機を上げるだけでなく、動機を下げてしまうアクションの回避も重要です。せっかく投稿したのにコミュニティのメンバーや運営者から反応がなかったりすると「有能性」や「関係性」の実感が下がりますし、批判的なコメントによっても「有能性」や「関係性」が損なわれ得るので注視しておきましょう。
A:Ability(実行容易性)を高めるには?
一般に実行容易性が高くなるのは「時間がかからない」「お金がかからない」「労力がかからない」「高い能力がいらない」「理解しやすい」「倫理的である」「日常的な行為である」などの項目を一定数満たしているときです。
具体的に実行容易性を高めるアイデアを考える時には「◯◯をカンタンにできるようにするには?」という問いが役に立ちます。
ここでは例として「メンバーのイベント開催をカンタンにできるようにするには?」という問いを考えてみましょう。答えとしては、以下のようなアイデアがあり得そうです。
開催のパターンを3つ程度に絞る→自分でゼロから企画を考えなくて済むので労力と時間がかからない。
イベント開催マニュアルを用意する→開催までの流れを理解しやすくなり実行容易性が高まる。
イベントページの文言を穴埋めで用意する→自分でゼロから文章を考えなくて済むので労力と時間がかからない。文章力もいらない。
会場の予約をコミュニティ運営者が代行する→日常的な行為ではない「会場予約」をやらずに済むので気が楽になる。
主催者とコミュニティ運営者で打ち合わせをする→一人で考えなくて済むので労力と時間がかからず、日常的な行為ではない「イベント開催」への不安が減る。
ただし、本人の動機が高いときに実行容易性を高めようと手取り足取り介入しすぎると動機が損なわれることがあります。実行容易性の手札は用意しつつ、メンバー一人ひとりの動機の高さに応じて任せ方を変えると良いでしょう。
T:Trigger(キッカケ)を増やすには?
キッカケを無闇に増やしすぎるとノイズになってしまい、結局届かないことがあります。そのため下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるという取り組み方はNGです。
そのため、キッカケは特別なタイミングに絞るか、日々の運用のなかに自然に織り交ぜるのが良いでしょう。例えば以下のような施策がキッカケとなるはずです。
イベント開催を勧める内容を月1で投稿する
サポーターを募集する内容を半年に1回投稿する
運営者が困ったときに動機が高いメンバーに相談する
イベント終了後等のアンケートでイベント開催の意向を聞く
部活動などのサブグループでの活動を推奨する
周年イベント等の大規模イベントの協力者を募る
「メンバーが主催するイベントを企画するイベント」を開催する
まとめると、投稿・相談・アンケート・サブグループ・イベントなどの接点があり得そうですね。一般的なマーケティングのテクニックとして期間限定や数量限定を「キッカケ」として訴求することがありますが、コミュニティではあまり有用ではないでしょう。
この研究成果の活かし方
コミュニティを共に運営するサポーターが出現する条件について考えてきました。日々の運用に織り込めるTipsもあったかと思うので、ぜひ活かしていただけたらと思います。
また、「B = M × A × T」というモデルを利用すれば新たな施策を発想することもできるはずです。ワークショップ化してコミュマネ同士でアイデア発想をする場を開くのも楽しそうですね!
時間軸で考えてみると、コミュニティメンバーの「動機」はすぐに高まるわけではないので、日々のコミュニティ運営で時間をかけて醸成する必要がありそうです。それに比べると「キッカケ」は単発の施策でも一定の成果が出ます。
だとすれば、普段の運用では「動機」を高めるために自律性・有能性・関係性という3つの心理的欲求を継続的に満たしていき、裏側で「実行容易性」を高める情報や制度の整備をし続け、タイミングを見計らってサポーターになる「キッカケ」を提供するのが良さそうです。
こうして長期的な視野と短期的な視点を兼ね備えることで、サポーターが出現するコミュニティ運営が実現できるわけですね。今回の研究がみなさんのコミュニティ運営の参考になれば嬉しいです!
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