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「アリータ:バトル・エンジェル」(2019年)

B級SFになりそうな素材を一流の制作陣や俳優の能力によって、かなりのクオリティにまで引き上げている。A級かというとそうでもないのだが、かなりいい線いっている。

2563年。
没落戦争から300年後の地球。最後の空中都市「ザレム」と、その下にある夢の島のような「アイアンシティ」に世界は分断されていた。アイアンシティの中にある夢の島のようなところでサイバネ医師イドに拾われてきた少女ロボットは、アリータと名づけられる。彼女は脳を損傷しておらず、記憶があるはずなのだが、なにも憶えていない。
イドのところで生活するうちに、アリータはヒューゴという若者に出会う。
やがてイドが賞金稼ぎ「ハンター・ウォリアー」であることが判明。
徐々にアリータはこの世界のことを知りはじめる。そして、アリータ自身の記憶も戻りはじめる。彼女は300年前の「没落戦争」で地球と戦った「火星連邦共和国」側の戦士だったのだ。

人間関係が入り組んでいる。
ザレムに憧れ、汚れ仕事に手を染めていたヒューゴはそれゆえに、アリータを危険にさらし、さらには自分自身にも火の粉が降りかかる。
アリータは300年前の戦争で戦った敵であるノヴァと再び向き合うことになる。そんな彼女を支えるイドには別れた妻チレンがおり、彼女もまたザレムに戻るためにベクターという男のもとで働いているが、ベクターはノヴァの文字通りの傀儡だった。
これをうまくまとめたのは見事だ。

ただ、説明されていない要素も多い。
・空中都市ザレムとはどんな場所なのか、
・ザレムとアイアンシティの関係性はいつからそうなったのか。
・火星連邦共和国とはなんなのか。現在はどうなっているのか。
・アリータはなぜ捨てられていたのか、300年前から同じ場所にいたのか。
・ヒューゴはなぜザレムを目指すのか。
ざっと思いつくだけで、このくらいある。
これは、本作が3部作として構想されているからかもしれない。

製作費253億円。興行収入は600億円。
ネットを検索すると続編の話も動いてはいるようだ。
気長に待つしかない。

本作だけで判断するに、本作の問いは、「愛とはなんだろうか」というシンプルなものだ。恋人や家族への愛。そして、失った愛をどう受け止めるか。
アリータはイドやヒューゴに対しては自らの命を顧みない貢献をするだが、それ以外の人間に対しては容赦なく、文字通り一刀両断に切り捨てる。このような態度が今後どのように変化していくのか。イドは失った娘への気持ちをアリータに重ねているが、それはアリータをひとりの個人として尊重していないのではないか。その気持ちはどう変化していくのか。
このように、まだ答えは出ていないが、大切な問いが散りばめられている。
だからこそB級映画にはなっていないのだろう。

チープになりそうな題材を、最後まで観るだけの価値のあるクオリティに引き上げる。それが才能というものなのだろう。

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