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バルザック「ゴリオ爺さん」(1835年)

冒頭、風景描写や人物に関する説明が延々と続く。
この調子で最後までいくのではないかと不安になりはじめたころに物語がはじまる。そこからはどんどんストーリーが転がり、最後まで楽しめた。

1815年以降のパリ。
場末の下宿屋ヴォケール館に住む人々の中に、落ちぶれた製麺業者のゴリオ爺さんがいた。実は彼には二人の娘がいる。彼女たちが社交界で生き抜いていくために、ゴリオ爺さんは私財を投げうって支えているのだ。
同じくヴォルケール館には、ラスティニャックという法学生や、ヴォートランという謎の男が住んでいる。
ラスティニャックは上流階級にあこがれ、親戚のツテを頼って社交界に潜り込もうとする。

成功したかったら、上流階級に潜り込んでのし上がっていかなくてはならない。そのためには、駆け引きが必要で、自分の家族ですら踏み台にしなくてはならない。
どこまでも冷徹な上流階級と、貧しくても温かい田舎の家族。このふたつのどちらを選ぶのか、ラスティニャックの心が揺れる。こういったものは、現代社会にも通ずるものがある。
また、ゴリオ爺さんが娘のために全財産をなげうつ様子は現代の推し活にも近い感覚を覚える。
本作は200年ほど前の作品だが、人はそんなに変わらない部分もあるのだなという発見があった。
こういうところも、古典文学を読む楽しさのひとつだろう。

解説を読んで知ったのは、バルザックは登場人物をいろいろな小説に登場させているらしく、それこそアベンジャーズのように、作品同士がリンクするようになっているらしい。

ただ、200年前の小説なので、文章そのものに古臭さはある。
途中で作者が口をはさんできてラスティニャックの今後について語ってしまうところなど、現代ではありえない。もしくは、他の小説にラスティニャックが登場しているから、それを踏まえて語っているのかもしれないが。いずれにせよ、そのネタバレ感がおもしろい。

「ゴリオ爺さん」というタイトルに魅力を感じなかったので読んでいなかったのだが、今回は読んでみてよかった。とはいえ、面白い作品でもタイトルがつまらないと手に取らないわけだから、小説や漫画といった中身が見えないものはタイトルに工夫をしないと損をする、というのは意識したほうがよいと思った。

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