角川『短歌』2021年5月号(1)
①あははおほよそのところはまちがひ手を叩いたことはわすれなさい 平井弘 平井の歌は難解だ。しかし言葉だけいじって分かり難くしているのではなく、物事や感情が下にある。何かに熱狂して手を叩き、褒め讃えること、大衆の喜びのようなものに冷笑をあびせかける。あはは、と。
②さうなんだよなはじめに散る奴がゐてわつとつづいてさくらさくら 平井弘 この歌に特攻隊を想像することは単純過ぎるだろうか。しかし、誰かが始めた何かにわっと飛びつくような国民性は変わっていない。現代の何かの事象にもそれを見たのだろう。この歌の底に怒りを感じる。
③「特集仕上げの流儀」三枝浩樹〈一首の歌を手放す前にしなければならない最終確認がある。音読である。(…)歌のしらべと言葉の意味内容が相和し調和していればオッケー。〉秋山佐和子〈心がけているのは、出来上がった歌稿を、声に出して読む事だ。〉あ…、不足してるかも。
三枝の言う〈歌のしらべと言葉の意味内容が相和し調和して〉いるかどうかは、もはや達人の勘というところだろうな。それができれば自分の歌を冷静に見ることができる。そのために音読で勘を研ぎ澄ますということだろう。もっとやろう。
④「特集」飛行機に聖火運ばれきたる日も遺骨を拾ひあぐる手はあり 大口玲子:米川千嘉子〈事実に即するなら、他の情報が入りそうだが、それではこの歌の批評性は鋭く出ない。空を飛ぶ科学技術の賜物としての巨大な人工物と地を這う小さな人間の心の営為。その速度の差。そうしたものの鮮明な対比のために普通名詞を意識した表現が選ばれている。〉すごく参考になる。普通名詞を使うと歌が抽象的になり曖昧になることが多いが、この場合は違う。それが詳細に説明されている。納得。評をするために選ばれた歌がそもそもいいことが前提にある。まずは選歌眼。
2021.6.8.~9.Twitterより編集再掲