『塔』2021年1月号(7)

㉞11月号選歌欄評 蝉しぐれ はるかなる日のわが伯父が青信号を渡つてゆけり 西山千鶴子:石井夢津子〈日常生活では成り立たない場面も、短歌でなら詠める…伯父の背中が見えたのだろう。もしかしたら軍服だったのではないか。〉短歌でなら詠める。この評にじんと来た。

㉟11月号選歌欄評 ああいつかこうなることもあるだろう共同墓地に供花のなき墓 潮見克子:石井夢津子〈(作者は)それはそれで諾おうと思いつつその場を、あとにしたのではないか。〉守る人の無い墓。それを自分の未来に見る作者、評者、そして私に、同じ「ああ」の感慨が響く。

㊱11月号選歌欄評 死ぬほどに弱っていても死ぬことは簡単でないと父に教わる ひじり純子:王生令子〈動けず食べられず意思を伝えられず、それでもなお生き続けることのつらさを、私も両親に教わった。〉観念上の死と違い、現実の死は美しくも簡単でも無い。親が最後に教えてくれる事か。

㊲11月号選歌欄評 十歳が八十五歳となる夏の水はこの夜も深く渇きて 篠原廣己:坪井睦彦〈十歳で被爆し水を求め命の瀬戸際に立った記憶が今も消えないと詠む。〉戦後75年の去年の夏に詠まれた歌。「深く渇きて」の重さに瞑目する。日本の政情にも触れた、丁寧な読みに心を動かされる。

㊳11月号選歌欄評 絵日記の本文よりも吹き出しに息子の本音は書かれておりぬ 竹田伊波礼:吉田典〈自分の子であっても、なかなか本音はわからないものだ…絵の中で誰かに語らせた台詞、これが本音ではないかと親は気づいた。〉幼くても子供は自分と別人格だと、親は実感しにくいもの。

㊴『塔』1月号読了~~。特に今月は選歌欄評に感動したものが多かった。こんないい歌あったんだという単純な気づきから、読んでたけど、評を通して読み直したら良さを再認識した歌まで。結社誌の良さはこの相互の評にある。『塔』の評は充実している。評者の皆さん、すごく読みがいい!

2021.2.8.Twitterより編集再掲